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ラブストーリーは砕け散る

「なあ聞いた?」

「何が?」

「なんか一年の脱走未遂兵が女子に告白されたらしい」

「まじ? とりあえずぶっ殺しとくか」

「だな。もう三年生の先輩たちがシメに行ってるらしいけど、俺らも行く?」

「おう。ちょっと待ってメイス取ってくる」

「おっけ。俺も魔法訓練室から中級氷魔法の魔導書借りてくるわ」

「え、お前魔導書ありなら中級使えるんだ。すげえな」

「まあこういう時のためだわな。あいつの男性機能を氷漬けにする」

「激しくグッジョブ」


 そう言って二年生の男子二人は頷きあい、それぞれの目的のものを持ってくるために一度わかれた。


     *


「はい、こちら寮長。問題なく脱走未遂兵を確保しましたー」

「さすが寮長……流れるような手際、見事としか言えないっす」

「おお、あれは風魔法の応用の飛行魔法……なんて無駄な使い方を……」

「お、下ろしてください! 俺が、俺が何をしたっていうんですかああ!」

「女子に告白された」

「「「死、あるのみ」」」

「なんでっすかああ! 美化委員長にだって美人の彼女いるじゃないっすかああ!」

「は? お前自分が美化委員長様と同じステージに立てるとか思ってんの?」

「あれは当然の結果なんだよ。中身まで優れた美化委員長だから許されてんの。むしろあの美化委員長に彼女がいなかったら女子の目が節穴なだけだっての」


 飛行魔法で宙に浮かされ、わめく脱走未遂兵。

 地面を蹴れず、なにかをつかむこともできず、当然身動きは取れない。寮長は遊んでいるのか、両足を左右に広げさせみっともないポーズを取らせた。


「とりあえずこれ、映像水晶で撮影しといて」

「撮影班!」

「はっ! 準備はすでに完了しております!」

「やめて! お願いですから! って、五分刈りお前なんでそっちにいるんだよ! お前は俺の味方じゃないの!?」

「死、あるのみ」

「五分刈り、お前もわかってきたじゃないか」

「うっす。日々勉強させていただいてるので、これくらい当然っす」

「てめえええええええええ!」

「チ、うるせえなあ。はい、撮影はじめまーす。五、四、三、二、……」


 撮影開始を手で示す五分刈り。寮長が満足げに頷いた。


「おほん、えーでは、これから脱走未遂兵くんのお部屋を物色してみましょう。いやあ、それにしても今の格好もなかなかみっともないですが、それを上回る何かは出てくるんでしょうか? 楽しみですねー」

「え、ちょっと寮長? 本気で言ってるんですか?」

「おやおやぁ~? この引き出し、よく見ると底が二重になってますねえ。むむっ! これは恥ずかしい秘密の予感!」

「あ、ちょ、違うんですそれは……」

「おおっとー、これは早速大物がくるんでしょうかー」


 寮長が底板をぱかっと持ち上げる。

 まず中から出てきたのは……一通の手紙。


「これは手紙……でしょうか? 一体だれから……」

「寮長、映像では追いづらいので、音読してもらえますか?」

「ああ、それは気が利かなくてごめんね。おほん、では僭越ながら。『マー君へ……」


『マー君へ。寮では元気に過ごしていますか? マー君は昔っから頑張り屋さんだから、少し自分を追い込みすぎちゃうところがあってお姉ちゃんは心配です。別に成績で一番を取らなくてもいいし、疲れたらいつでも帰ってきていいからね。お父さんはちょっと厳しいこと言ってるけど、ほんとはすっごく心配してるし、同時にマー君を誇りにも思っています。よく近所のおじさんたちに“俺の息子はいま王都にいるんだ”って自慢してます。だからあんまりお父さんのことも嫌わないであげてね。お父さんも、お母さんも、それにもちろんお姉ちゃんも、マー君のこと、すっごくすっごく大事に思ってるから。無理しすぎないように冒険者の夢を追いかけてください。応援してます。 お姉ちゃんより』


 寮長が読み終わる。

 気が付くと一年生、二年生、三年生、学年問わずすべての野郎どもが涙を流していた。


「ぐす……ええ姉ちゃんや……ほんまにええ姉ちゃんやで……」

「脱走未遂兵、いや、マー君。お前ほんとに恵まれてんぞ……ぐす……ちゃんと家族に感謝しとけよ……」


 口々にそんなことを言い出す男ども。それを遮るように寮長は咳払いをした。


「えー、感動している最中申し訳ないんだけど、この手紙の下にはこんな本が入ってましたー」

「「「え?」」」


 寮長が二重底からもう一つの物を取り出す。


『S女M男 鞭も蝋燭もご褒美です』


「死ね」

「クソかよ」

「お前まじでやめろよ。家族からの手紙が小っ恥ずかしいのはわかるけど、なんでこれと一緒のとこに隠す?」

「まじで死ね。ま、じ、で、死ね」

「最低だな。死ね。そしてお姉さんをください」

「いや、俺にください」


 いい映像が撮れた、と寮長は満足げに頷いた。

 それから手紙だけ元の場所に戻し、エロ本は総務委員長に渡す。


「総務委員長、これ、まぎれもない違反物だから主任寮監に渡しといてー」

「おっけー。罰は男子寮内の掃除? 全校の前でさらし上げ?」

「告白された後らしいし……さらし上げで」

「なんでええええええええええ! 掃除、罰掃除しますからああああああ!」

「おっけ。先生に罰はさらし上げでって頼んどくね」

「総務委員長おおおおおおおおおお!」


 総務委員長はスキップしながら寮監室へと向かった。

 二年生以下は、容赦なくその判断を下す男子寮の二人の鬼に冷や汗をかく。

 ……やはりこの二人だけは、敵に回してはいけない。


「よっし。じゃあ机の捜索は終わったし……次はベッドだね」

「まだ続くんスか!?」

「当たり前じゃない。百年、いや千年の恋も冷めるような……そんなどぎついのを頼むよ?」

「やめてえええええええええ!」

「こんなことを言うってことはベッドにも何かを隠してるって証拠。さあ、みんな! ベッドをひっくり返すよー」

「「「ういーっす」」」

「うぎゃあああああ! お願いします! もう勘弁、もう勘弁してくださいいいいい!」


 結局その日は、エロ本を含め合計四点の特殊な性癖を示す物品が出てきたという。

 当然、健全な冒険者の育成を目指すこの学校ではその持ち込みは校則違反、寮則違反に当たる。総務委員長の働きもあり、それらは罰として全校生徒の前へさらされることになった。


 女子寮の面々からは悲鳴が上がり、またその結果、『やっぱり昨日のはなしで』、という言葉が出てきたのは必然であろう。


 ひどく落ち込んだ様子で夜、寮に帰ってきた脱走未遂兵、マー君。

 そんな彼を迎えるのは、暖かい笑顔の先輩一同だった。彼らは声をそろえて言う。


 ――ざまあ、と。


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