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女子寮で、悶える

 ……総務委員長はもしかしたら、アタシのことが好きなのかもしれない……


 女子寮の総務委員長、通称ソムコは自室のベッドの中で悶えていた。

 理由は、今日のゴブリン討伐ボランティア中の出来事。


 朝一番に学校を出発した彼女たちはとても順調に目的の森まで到着した。

 そしてみんなでゆっくりと森の中へ進み、ゴブリンを探す。ここまではよかった。


 しかし、予想外のことが起こる。

 プロの冒険者とばったり出くわしたのだ。

 相手は中小ギルドに所属する、五人ほどの男たち。そいつらはソムコをはじめとする女学生たちをいやらしい目でなめ回すように見る。

 そして突然ソムコの腕をつかみ、そんなガキじゃなくて俺達と探索しようぜ、なんてことを言い始めた。


 ソムコは怖くて固まってしまう。相手は大人の男、しかもプロの冒険者だ。中小クランとはいえ、学生とは比べ物にならないほどの力がある。

 振りほどこうにも振りほどけず、声も出なくなる。

 そんな時。


『おっさんたち、汚い手でソムコにさわんないでくれる?』


 いつもはのほほんとした総務委員長の声が珍しく本気で怒っていた……ようにソムコには聞こえた。

 それに合わせて男子の後輩たちが顔を真っ青にして震えだす。女子の方はあまり男子の先輩について詳しくないのか、ぽかんとしているばかりだった。


『あのー、素直に放した方が賢明だと思いますよ?』


 体育委員長をはじめとする三年生陣がそろってそんなことを言う。

 だがプロの冒険者はその言葉に怒りだす。馬鹿にしてんのかクソガキ、とか、そんなことを言いだして、ソムコの手を一層強く握った。ソムコは痛みに顔をしかめる。


 そこで総務委員長が、キレた。


 頭上に突如現れる、百を越えようかというファイアーランス。

 まだ真っ昼間だというのに、空が夕焼けのように赤く染まる。

 五分刈りが気を失う。女子の後輩たちもやっと総務委員長という男のことを理解したのか、真っ青だった。

 しかし一番顔が青いのは言うまでもないが、プロの冒険者たち。


 すぐにソムコを解放し、土下座を始める。頼む、許してくれ、悪気はなかったんだ。

 総務委員長はにっこりと微笑み……ファイアーランスの雨を降らせた。


 その日、総務委員長たちがいた場所だけ残すよう、ドーナツ状に広大な森の一部が焼失した。

 辺りに漂うのはゴブリンたちが焼けこげる臭いと小便の臭い。プロの冒険者達は情けないことに粗相をしていた。

 総務委員長はにっこりと微笑む。


『学生だからってなめんなよ』


 ソムコはその時、軽く抱きしめられていた。

 それを思いだし、寮のベッドの中で自分で自分を抱く。

 心臓が高鳴る。

 耳が熱い。


「……や、やっぱり総務委員長ってアタシのこと……」

「ソムコー、開けるよー」

「うひゃい!?」


 訪問してきた三年生の女子は首を傾げる。


「何その返事? どしたの?」

「いいいいいい、いや? にゃんでもないけど?」

「? あっそ。それより今日のボランティアなんかあったの? ついていった後輩二人がずっとがたがた震えてんだけど。他の子たちに聞いても答えてくんないし」

「何がって……ああ、はじめてならそりゃ怖いよね。トラウマになってなきゃいいけど……」

「は?」

「晴れ時々ファイアーランスだったの」

「……ああ、なんかわかったわ。あいつね」

「そうそう。あいつ」


 そう言って二人で笑う。

 あれは冒険者学校でもとびぬけた異才だ。女子寮の寮長も少しおかしいが、男子寮の寮長と総務委員長は桁が少し違う。


「面はいいんだけどねー」

「そ、そうかな?」

「そうでしょ。あれはきっと、たくさんの女を泣かせるよ。まああんたも気をつけな」

「気を付ける? 何が? え? ぜんぜんわかんない」

「……あれ、もう手遅れ?」

「は、え、違いますけど? ぜんぜん違いますけど?」

「……えっと、そっか、ごめんね。頑張って」

「察したね!? 何かを察したね!? でも違うからね!?」

「うんそうだね。違うね」


 そう、違う。とソムコは自分で自分に語り掛ける。

 アタシが、あいつを好きなんじゃなくて、あいつが、アタシを好きなの。

 だからアタシはあいつのことが……

 ……あれ? 


     *


「いやーそれにしても知らんかったな」

「何が?」


 体育委員長がうんうんと頷きながら、総務委員長の肩をたたく。


「いや、まさかお前がソムコになあ……」

「え? 何のこと?」

「またまたー。とぼけちゃってー」

「……うん?」

「……え? 違うん?」

「……いや、だから何が?」

「うう、総務委員長、ファイアーランスは、ファイアーランスだけは勘弁してくださいいいいいい」


 帰ってきて早々に再び倒れた五分刈りが、ベッドでそんなうめき声をあげる。

 そして一方、女子寮の方でもソムコがおかしな声を上げていた。


 恋とはいつだって、小さな勘違いから生まれるもの……なのかもしれない。



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