前世のパートナーがストーカーしてきて迷惑です
旧作
『自称ヒロインが私のパートナーを奪おうとする』『ヒロインもどきが私のパートナーを倒そうとします』
に微妙に世界観がつながります。
(特に読まなくても大丈夫)
ただのストーカーの話。
きゃー⁉︎この人、痴漢?
電車の中にて私、小山英里は痴漢をされている。
あー、もう!前世の私だったら、こんな奴、一撃で撃退してやるのに…そう、心の中で喚くが…喚くだけだ。今の私に力など無い。初めてされた痴漢であるが、怖いというよりも怒り、そして悔しさが心を支配する。
ーー私は前世の記憶持ちだ。ーー
しかも、今となっては喜んで良いんだが悪いんだか…私は、魔法学園の学生だった。そう、前世の世界は魔法都市国家だったのだ。
魔法こそが全て。
魔力が強ければ、強い程、国のお偉いさんになっていく。…一応、科学分野も無いわけじゃないけど、あまり重要視されない。まぁ、私の魔力はかなり強かったこともあってそこまで頼りにはしなかったけど、基本的に召喚魔法で呼び出したパートナーと共に過ごす。弱い魔力の人もパートナーの協力を得て、日々を過ごしていくのだ。まぁ、だいたいその主の魔力量に合わせてパートナーも呼び出されるから協力ってたって…ねぇ?私も魔力が多かっただけあってSSランクのパートナーを得たけど、私一人で殆どのことが事足りてしまうのよね。魔力が弱い人はパートナーとの協力が必要不可欠だけど、魔力が強ければ協力する必要も無いのだ。
まぁ、でも別に良いわよね?
あいつだって、きっと好き勝手自由に過ごせたんだから。
それより、今はこの痴漢をなんとかしなきゃ…私に触っておいてタダですむと思ってんじゃないでしょーね⁈
私が声を張り上げようとした時、
「その女性から手を離しなさい。」
私、では無く、男性の声が響いた。
「⁈」何処か聞いたことのある声に振り向くと…
美しい金髪に蒼く澄んだ瞳、白い絹の様な肌は…………ん?……あれ、マジで見たことあるぞ、こいつ。
「わたしの方に寄って下さい、エリザベス様。すぐに済ませますから…」
そう言って、私を胸の方に抱き寄せて…口の中から尖った歯を剥き出しながら……
「「っわあああああぁぁぁ!!」」
私と痴漢は同時に叫んだ。
痴漢は、なんかよくわからない男が急に出てきて自分を襲ってくる恐怖から。私は……前世のパートナーが人を襲おうとする様子に、だ。前世とはいえ、元パートナーだ。しかも、主は私。やはり、ここで元パートナーの暴挙を放置するのは忍びない。
元パートナーの“吸血鬼”の歯で噛まれたら、その生命を吸い取られてしまう。一応、夜間電車で人も…少なくともこの車両には私と痴漢しかいないし、屍体も残らず生命力として奪われるから後処理には困らな…すみません、そういう問題じゃ無いですね。はい。
どうやら、前世の価値観が私の中に湧き出てしまったようです。
さてと
「もう、良いから!やめなさい!」
「でも!」
「レイナルド!お願いだから、私を困らせないで!!」
私が名前を呼ぶと、動きが止まった。彼の名前を呼んだことに反応したのだろうか?
「お願い、ですか?」
どうやら、反応した場所は違ったようだ。
「え、えぇ、お願いよ。」
私がお願いをすると、レイナルドは泣き出した。
「え、ごめん。そんなにこの痴漢を襲いたかった?あの、ほら、でもこの痴漢は男よ?あなただって、襲うなら女性の方が良いんじゃない?」
あまりお目にかかるもんじゃない(見た目)成人男性の涙に動揺する。かなり訳のわからないことも言った。
「わたしが襲うのは、あなただけです!!!
…やめて下さい。人が節操の無い人間みたいに言うの。まったく、エリザベス様は…」
…すげぇ、怒鳴られた。え、てか、お前人間じゃないじゃん。吸血鬼じゃん。いや、それよりも私も襲うなよ!
「…それに、この涙は嬉し涙です。前世からずっとわたしを頼らなかったあなたがやっとわたしに…」
また、メソメソとするレイナルド。
「あの、なんか、ごめんね?そんなに頼られたかったの?」
「そりゃあ、そうですよ!あなたが呼んだ時いつでも出て来れる様にあなたの魔法回路を自分の所に繋げてずっとスタンバってましたよ!」
え、そんなことしてたの?
パートナーとなる召喚獣(獣ってか、私の場合は吸血鬼だけど)は魔法回路(主とパートナーの魔力を繋げた回路)から出てくる。魔法回路を繋げると召喚獣が自由に出入りが出来る様になるけど、繋げるのが結構面倒臭いのだ。基本的に皆はパートナーを呼び出す時は魔法陣を書いて呼び出す。
私はまぁ、魔法回路を繋げられなかったわけじゃ無いけど、そもそも呼ぶ機会が無かったから繋がなかった。
「……ごめん。」
確かに、折角(授業の一環の強制イベントとはいえ)呼び出されたのに全然主との交流が無いのは寂しいものだっただろう。
「……でも、大丈夫です。」
「本当?良かったわ。」
メソメソとしてた顔から一変真顔のイケメン本来の味を出す。
「はい。今世では、たっぷりとあなたを甘やかしますので…」
は?
え、何?これでお別れじゃないの?
「何言ってるんですか?それに、そもそもずっと私はあなたと一緒にいましたよ?」
前世では、よね?
「フフ…いいえ、今世でも、です。」
……嫌な予感がする。
黙る私に、彼は続ける。
「どうして、エリザベス様は前世の記憶を持っているのかご存知ですか?何故、パートナーだったとは言え私という吸血鬼と正気を保って話しているか……何故、英里では無く前世の名前であるエリザベス様と呼ばれて違和感を感じて無いか……」
「ちょ、ちょっと、待って!どういうこと?」
疑問にも思わなかったことを言われて逆に困惑する。でも、確かにそうだ。
「わたしは、吸血鬼です。吸血鬼は不死身の生き物…だから、まだ今世でもあなたと会うことが出来た。」
……うん、それは、なんとなくわかる。
「あなたが生まれるのをずっと待っていました。そして、あなたを見つけた時からあなたの影に身を隠していたのですよ?」
「……!……私の影に?」
流石の私もあまりのストーカー具合に軽く引いた。
「そして、夜な夜な囁いていたのです。魔法回路を通して、ずっと見ていたあなたの前世の人生を…夢は一時のもの。覚めれば、すぐに忘れてしまう。でも、忘れてはいても心には蓄積される。私は囁きながら、あなたに私の魔力を渡していった。そして、とうとう今日、その魔力を持ってあなたは私の働きかけ無しに私の姿を見れるまで至ったので
「キッモ!!!」
す…」
喋ってる最中で悪いが、あまりのキモさにかなり引いた。
「いや、マジ、勘弁してよ。マジキモい。」
私も今は、華の高校生だ。前世だったら、特に気にしなかったかもしれないけど、ここでは価値観が違う。
「そーゆうのヤメて貰えません?キモいんで。まぁ、今回は痴漢から助けてくれた?こともあるから、許すけど…次やったら本当パートナーとしてのよしみも捨てるから。」
怒った私にレイナルドは焦った。
「え……そんな、お願いします、エリザベス様!わたしを捨てないで下さい!今の魔法が使え無いあなたになら、きっとわたしは頼りになるはずなのです!わたしは、大好きなエリザベス様のお役に立ちたいのです!!」
……何度も何度も必死に人間に懇願する吸血鬼が可哀想になって私は仕方なく
「わかったわ。」
溜息を吐きながら頷いた。
あ、荷物持ちましょうか?
そーだ、エリが寝ている間に私が暗記カードを読み続けて差し上げます。
あ、大変です!そろそろ起きなきゃ、学校に遅刻してしまいますよ?
………私が頼る間もなく、次々に世話を焼いてくるこの元パートナー、かなり迷惑です。
「もう、1人にしてぇぇぇぇえ!!!!」
はっきりいって、
まだまだ恋愛には至って無いです。
レイナルドがとにかく英里を好きなだけ