反魂蝶は舞う 1
「なあ、ゼブルっち反魂蝶って知ってるかい?」
「反魂蝶だって?」
俺はそんな名前の蝶は知らない、そのような別称を持つ蝶もいないはずだ、聞きおぼえがあるのは東○とか○方とかぐらいだろう、さすがにあれは違うだろう。この世界の固有種とかならあり得ないわけではないが… そういえばこの世界に来てから全然蝶を採ってないな、まあ、強くなることが急務だったし、今度採りに行くかな。
「すまないが、ここに来てからレベル上げばかりしていたのでここら辺一帯の蝶には詳しくないんだ、ここら辺にはそんな固有種でもいるのか?」
「いや、俺っちも蝶については名前なんてほとんど知らないけど、最近この王都で噂になっているんだよ、なんでも死んだ人を蘇らすことができる蝶が居るってな」
「それが反魂蝶か、名前の通りだな、しかし、蘇生アイテムは不死鳥の羽じゃないのか?」
ノスタルジアオンラインにおいて仲間のプレイヤーが死んだとき不死鳥の羽というアイテムを使うことでプレイヤーを復活することができた、復活と言っても体力がほとんどない状態で復活させるものだったために戦闘中には即時回復が絶対必要だったが。それとは別に課金用復活サービスとかがあったけどあれは1カ月間1日に3回完全復活が使用できるというものだったからこの世界では使えないだろう。ということはこの世界で蘇生用アイテムは不死鳥の羽だけになるが、スキルで新しい蘇生方法ができたか?SPDの様に新しい要素が加わったか?
まあいい、考えても仕方ないからティシュの話を聞くか。
「ああ、人間を蘇生するためには不死鳥の羽を使う以外ない、色々な人が蘇生スキルを開発しようとしたが全部失敗に終わっていると聞く」
ふむ、ゲームシステムの根幹を揺るがすようなスキルは作れないようになっているのか? 例えば無敵時間があるスキルとか転生石を作り出すスキルとかお金そのものを作り出すスキルとか、制限なくどんなスキルを作れるようになればゲームのバランスそのものを崩しかねないからな、まあ、その制限の穴を突くのがプレイヤーという人種だろうから、絶対おかしい性能のスキルとか合っても不思議じゃないが、現代魔法も壊れ性能だしな。
「不死鳥の羽は今の相場でだいたい金貨千枚もするから一般人にはどう足掻いても手に入るしろものじゃ」
「え、まじで!?」
今のティシュの発言に俺は驚いて声を上げてしまった、だって不死鳥の羽程度のアイテムならNPCがいくらでも売っているんじゃ…そう思って俺は自分の思い違いに気付いた
この世界にはNPCなどはいないのだ
前におっさんに聞いた話だがこの世界はノスタルジアオンラインと酷似した世界ではあるが別物であるらしい、詳しくはおっさんも良く知らないが千年前に来た移ろい人達がそう結論付けたらしい。
ということはだNPCが居ない、つまり簡単に買える蘇生用アイテムもポーションも武器も素材もないということになる、ならそれをどうやって供給する、それは素材を採ってきて作るしかない、しかし、不死鳥の羽はNPC売りの他には一部のモンスターが偶にドロップするしかないわけで高くなるといったところか。自分の考察に満足しながらもノスタルジアオンラインの通貨はGつまりは金貨だったわけで、NPCが売っていた不死鳥の羽の値段は100G、金貨100枚で買えるものが千枚になったのがどうしたの?としか俺は思わなくて首を傾げることになった。
そういえば、この世界の一般的な人の強さはゲームを始めた当時のプレイヤーの強さと同じと聞いていたが、そうなるとこの世界の冒険者達などの装備やポーションはどういうものになるのだろうか、さらにNPCから物が供給されないので自分で採ってこないといけないわけで、その素材とかを採りに行くのはたいがいが累積100を超えない冒険者たち…あれ?嫌な予感しかしないな
俺は必死で武器屋とか道具屋に売っている武器やアイテムを思い出そうとしたが何も思い出せない…というか武器屋とか道具屋とか行った覚えが無いんだが、おっさんと一緒にレベル上げした3年間はダンジョンに籠っているのが大半で、とりあえずインベントリの中に入れれば物は腐らずに入れたままの状態に保たれることを良いことに飯を買いまくってダンジョンに籠る、宿屋は1回行ったがダンジョンの中で寝るときに使う高級テントの方が豪華だったから全然行ってないし、エロゲやるときも高級テントの中で1日中廃プレイ、冒険者ギルドにはとりあえず身分証明書になるらしいので登録しに行ってダンジョンのモンスターのドロップ品を取ってくるクエストを、ここからここまでのクエストの素材あるからみたいな感じで速攻Cランクまで上げただけで…
俺飯屋しか行ってない!!! (しかも毎回凄いお持ち帰りしまくって迷惑そうだった)
俺は自分の世間知らずっぷりに泣いた、まさかここまでひどい生活をしていたなんて、学園に来てからもはっきり言って今の生活に授業がプラスされた程度であんまり変わってない。
いや、だって…ほら!裁縫スキルとか鍛冶スキルとか調合とかランク1だから武器屋とか服屋にも行く必要ないし!
………
はいごめんなさい、もうちょっとこの世界に興味を持つことにして外に出ます
「ゼ、ゼブルっち大丈夫かい? なんか凄い葛藤が合ったみたいだけど」
どうやら俺はティシュの話を聞かずに思考の海へと旅立っていたみたいだった
いや、だってさ…自宅警備員並みの生活をしていたなんて…
正確には自宅じゃなくダンジョン警備員だな
俺だって少しは自覚あったんだよ!
だからこそおっさんの話に乗って学園に入学したというのに
こんな…こんな現実を突き付けてくるなんて…
いや、待つんだ俺が授業を受けているということは青春していることにならないだろうか
○同じ陰陽術教室の女の子と陰陽術以外の話をしたことがあるだろうか
ある
ない ←
○ダンジョンと言えばあれだ、パーティー戦だな
パーティー
ソロ ←
○放課後と言えば友達と買い食いだよね
そうだね
ダンジョンに直行 ←
○休日には友達と遊ぶ
そうだよ!
ダンジョン ←
○昼休みに一緒に食べる友達が居る
居る ←
居ない
危なかった、かなり危なかったが俺はどうやら青春というものを満喫しているらしい
そうだ、明日辺りにでもネル達を誘ってどこかに買い食いとか店を教えてもらいにとか行ってみよう、それに同じ陰陽師教室の女の子達に陰陽術以外の話題を振ってみよう
おお、見えてきた、見えてきたぞ、俺の青春満喫らいふが!
「お~い、ゼブルっち、お~い、ゼブルっち、生きているなら反応して欲しいんだけど」
気が付くとティシュが俺の目の前で手を振って意識確認の真似ごとをしていた。
どうやらとても大事な考えだったせいで周りの存在を認識できなかったようだ、だが俺には必要な事だったから仕方ないだろう、このことを気付かせる発端を持ちこんできたティシュには何か後で奢ってやろう。
「すまない、ティシュとても手強い敵と戦っていたんだ、敵はあまりにも強く俺は敗北を待つしかない状態だったが君たちのおかげでなんとか勝利することができた、ありがとう」
「あ、あー、なんか知らないけど、俺っちたちが役に立ったのなら嬉しいよ、あー良く分からないが腕の良い医者を紹介しようか?」
「ふふふ、貴方達っていつもこんな会話をしているの?」
ティシュに付いてお酒を注ぐだけだったミーアちゃんがなぜか分からないが笑いを堪えながら俺達の会話に入ってきた。彼女はだいたい俺達の話を聞きながら俺達が知らない情報を彼女の情報網で補足してくれるが、彼女が他愛のない話に入ってきたのは初めてではないだろうか。
「ああ、ゼブルっちの暴走はここでは初めてだったかな、だいたい良く分からない所で時々暴走するんだよな、いつもは冷静でロリコンなだけなのに」
「暴走と言ってくれるな、これは俺にとっては必要な事なんだ、お前もいつか分かる時が来る」
「ふふふ、ロリコンなのは否定しないのね ほんと面白い人ね、それよりも仕事の話はしないの? このままお話をしていてもいいけど料金はきっちり頂くわよ、ティシュ」
「ミーアちゃんひどい、さて、金がかかるから話を戻すぜ、ゼブルっち」
「ああ」
「確か不死鳥の羽の値段まではゼブルっちは聞いていたよな、それじゃその続きからだな、不死鳥の羽は金貨千枚もする、そんなものは一般人じゃどう頑張っても買えない、それに不死鳥の羽も万能ではない、不死鳥の羽に可能なのは蘇生だけで寿命で死んだ人には効果はなく、死体の損傷があまりにもひどいと例え蘇生してもすぐに出血多量とかでまた死ぬから意味はない、そういう場合は不死鳥の羽の他に高ランクのヒーラーか高級なポーションが必要になる。それで、今回の反魂蝶とやらはそういうデメリットもなく蘇生ができるらしいんだ。しかも死体も必要なく蘇生できるらしい。もう欠点なんてない蘇生アイテムだな」
「それでそれがどう何だ? そんな夢みたいなアイテムがあるわけないだろう」
「それがさ、噂がここまで何だよね、反魂蝶って凄い蘇生アイテムがあるらしいという噂が流れているのに現物をどうやって手に入れるのかっていう情報が全然流れて来ないんだ」
凄い蘇生アイテムがあるらしいという噂が流れているのにそれの入手方法が全く流れて来ないなんておかしい話だ。そもそも、反魂蝶はほんとうにアイテムなのだろうか?ほんとうはモンスターか何かの類で王都に侵入しているとか、そのモンスターを使って誰かが商売しているとかなのか? これだけじゃ情報が足りないな
「その反魂蝶とやらはアイテムとして売られているのか? それとも反魂蝶はモンスターか何かの類で王都に侵入しているとか? そもそもそんな情報出回っているのなら人為的に情報を拡散させている人が居るんじゃないのか?」
「そうね、私の方でも入ってきている情報もティシュと同じで反魂蝶って凄い物があるらしいという話しかないわね、誰が買ったとか、誰が捕まえたとかの情報は全くないわ、そもそも王都の中心部には蝶は飛んでないけど、外縁部には畑もあるから蝶がたくさん飛んでいるから、反魂蝶がそんなに目立つ蝶じゃなければ情報の集まりようもないわね」
「そうだな、蝶に興味があるやつなんて俺っちもゼブルっちぐらいしか知らないぜ、普通蝶が飛んでいる程度で気にする奴はいないからな」
「反魂蝶の噂が広がっているのならその外縁部の蝶を採る奴とかが出てきているんじゃないのか? 一攫千金でとか蘇らしたい人が居る奴とか必死になりそうなものだが」
「なあ、ゼブルっち前から不思議だったんだがさ、蝶ってどうやって捕まえるんだ?」
ティシュの言葉に俺の思考が止まった
何を言っているんだティシュは?
「そうね、あんな飛んでいるものをどうやって捕まえるのかしら」
ミーアちゃんまでも信じられない事を言ってくる。
まさかこの世界には蝶を捕まえる道具がないのか?
「おいおい、蝶って普通に網で捕まえるものだろ?」
「網?」
「網っていうと魚採る為網のことかしら」
………
信じられないことだがこの世界には蝶を捕まえるための網が存在しないらしい
もしかしてきめ細かい網を作る為の裁縫技術が無いのだろうか、確かにミシンとかなければ普通に縫うことは死ぬほどだるそうだからな。
いやそれだけじゃ理由が弱いな、何か、なにかがありそうなんだが
「ああああああああああああああああ」
俺は納得がいく答えが出てつい叫んでしまった。
ティシュとミーアちゃんが何事かとこちらを見ているが気にしない
そうだ、そうなんだこの世界にはモンスターが居る
そのモンスターが居る環境で誰が蝶を採ろうと思うか
どこにでもいるような蝶は人家周辺にはいるだろうが珍しい蝶を採ろうと思えば森に近づいたり、モンスターがいる草原に行かないと採れないだろう、誰がゴブリンに追いかけられながら網を振り回し、オーガに追い回されながら網を振るう奴が居るだろうか、いや居ない、例え居たとしてもよほど強い奴じゃないとすぐ死んでしまう。それに人家周辺に居る蝶も森の方へと飛んで行ったりするから当然子供がそんな事をしていたら怒り、親がそういうことをさせないようにする。
考えてみればこの世界で蝶を採る道具とかがないことは至極当然のことだったらしい
さてと、突然奇声を発してしまった事をどうやってこの二人に説明しようか、まあ、いつものエロゲスタイルで行けばだいたい納得してくれるから問題はないと思うが
「すまない、俺はまた一つ階段を登ってしまったんだ、そう、エロゲーマスターへと至る階段をな」
「「…」」
いつものネルたちの様にティシュとミーアちゃんがこちらをなぜか優しい目で見ているが気にしない、気にしないって言ったら気にしない!
「ゼブルっち俺は分かっている、分かっているからさ」
「私もあなたの事は決して他人には言わないわ」
どうやら理解が得られたようで何よりだ
こうして俺の休日は青春満喫らいふ!の第一歩、休日に友達と遊ぶを満たしつつ終わりを告げた。