厄介事は望まれずともやって来る
ガレイスト王国、黒夢の庭ダンジョン79層、薄暗いダンジョン内を所々に掛けられたランプが照らしている。その中でいくつものモンスターが一人の人間を襲っていた。
シャドウウィザードがフレイムランスを唱え、シャドウウォーリアとシャドウナイトが正面から襲いかかり、シャドウランサーが背後から、同じく後方からシャドウアーチャーが離れたとから弓で狙い撃つ。
俺はフレイムランスを気で覆った右手のバスターソードで打ち払い、左手のバスターソードでシャドウランサーを突き刺し、シャドウアーチャーの弓を突き刺さったそれで防いだ後、前方の2体に向かってバスターソードに突き刺さったランサーをぶん投げる。俺は後方へと飛びシャドウアーチャーの首を一刀で落とし、スキルツヴァイラッシュを発動させ前方の2体を細切れにして、残ったシャドウウィザードの首を落とす。
時間にして1分も掛からなかっただろう
俺はスキル索敵を発動させ周囲に敵が居ないことを確認し、倒したモンスターが消えた後に残るドロップアイテムを拾う。
この黒夢の庭ダンジョンは全部で80層ある、俺はそこの79層でレベル上げに勤しんでいるところだった、はっきり言ってここのモンスターはあんま強くないからレベル上げの効率としてはあまりよろしくないのだが、ガレイスト王立学園に通っているため一番近いというか学園のすぐ傍にあるダンジョンであるここで仕方なくここでレベルを上げているのだ。
ダンジョンとはモンスターがどこからともなく生成され彷徨っていて、それを倒すとアイテムやお金などをドロップしたり、宝箱があったりするアレである。
ノスタルジアオンラインでは倒したモンスターは全てアイテムやお金をドロップして消えるのだがこの世界では少々違うらしい、この世界でそれが当て嵌まるのはダンジョン内だけで、外でモンスターを狩ると剥ぎ取りとかがすごくめんどくさい、処理がめんどくさいので俺はレベル上げはずっとダンジョン内で行っている。
ダンジョンの深い階層なら人が来ることなんてまずあり得ないし、倒したモンスターの血とかがべったりと着いたりしても2,3分もすれば消えていく所が凄く便利だというのも要因の一つだな。
それにここならいくら倒しても生態系に影響が出ないからな、おっさん曰く昔、マスタークラスの人がレベル上げを外で大量のモンスターを狩ったことがあったらしいのだが、そのせいでその狩ったモンスターを餌とする上位のモンスターが餌が無くなり街の近くに現れるという事件がいくつも起こったことにより、転生者は冒険者ギルドのクエスト以外ではなるべくレベル上げはダンジョン内で行うように暗黙の了解ができたらしい。
「狩り始めてもう8時間か、レベル上げもう飽きてるしそろそろ出るかな」
俺はいい加減レベル上げに飽きてダンジョンを出ることに決め次の階層への階段へと歩いて行く。ダンジョンは最初は1階層から入らないといけないが、一度踏破したことのある10階層20階層など10の位ごとにポイントが設定されていて、そのポイントに行けばわざわざ入り口まで歩いて戻る必要はなくなりワープして入り口に戻ることができる。
ちなみに10の位の階層はボス部屋と言われていて普通のモンスターだけではなく、ボスが出現するものすごく広い大部屋がある。そして、そのボスを倒せばその相手に見合ったドロップアイテムやお金が入った宝箱が出現する。偶にボス部屋には極わずかな確率でユニークボスというかなり強いボスが出現することがあるらしい、強いゆえにより良いドロップアイテムなど落とすらしいが、残念ながら俺は会ったことが無い、そもそもボスをひたすら狩るよりも多少強い雑魚を狩りまくる方が経験知的にもドロップアイテムやお金的にも美味しいのでボス狙いでダンジョンに籠っていないからな。ボスを倒すのはダンジョンから出るときに倒すのと最初に踏破する時だけだったからな。
俺は80階層のボス部屋の前に立っていた。一応ユニークボスが出る可能性も考えてお遊びの武器であるバスターソード2本をインベントリに戻し、俺の持つ最高クラスの弓である雷上動を取りだす。さて行くか、俺は期待を膨らませてボス部屋の扉を開く。
大部屋の中央にはいつものように巨大な黄色の4つの羽が生えた物体が浮いているだけだった。
はずれだったか、俺は落胆しながら雷上動をインベントリに戻して、代わりにエンチャントも付与されていない普通のロングボウを取りだす。そして、俺は即座に大部屋に入り弓を構える。
「貫通矢!」
弓から放たれた矢が巨大な黄色の物体ジャイアントライトニングスプライトを貫通しスプライトが悲鳴を上げる。
俺は躊躇せずもう1発貫通矢を放ちスプライトにダメージを与える。
そして、スプライトから反撃が来る前に縮地でその場を離脱する。次の瞬間俺が居た場所に雷が降ってきた。
ジャイアントライトニングスプライトはおそらくマスタークラスの者にとってはかなりの強敵である。並みの攻撃では貫けない固い体に遠くからの高速詠唱による雷系魔法の連発。一見でしかもソロだった場合はほぼ確実に死ぬことになるだろう。俺が累積1000くらいの時にPTでこいつに会って全滅されかけたことが何度もあったからなあ。まあ、今なら余裕なんだけどね。
俺が縮地でスプライトの雷魔法を避けつつじわじわと貫通矢でダメージを与えていく、このままいけば完封だなと思っていたがスプライトも痺れを切らしたのか突っ込んでくる。懐かしいなこのスプライトの突撃攻撃、魔法系のモンスターにしてはかなり痛いんだよな、これに何度やられたことか。俺はインベントリの中にロングボウを直して、腰を落とし右手に力を込める。
「崩拳!」
突撃してきたスプライトを崩拳で殴り飛ばす、スプライトは悲鳴を上げながら必死に離れようとするが逃がさない。
「頂心肘!」
俺はスプライトを後ろに高速移動し肘撃(肘打ち)を喰らわせる。それを受けたスプライトは何度かバウンドしながら地面に落ちた、どうやらもう宙に浮くこともできず地面に横たわり息も絶え絶えだ。俺はスプライトにトドメを刺す。
「震脚!」
スプライトは粉々になって黄色の光の欠片となって消えていく、後に残ったのは宝箱が一つだけだ。
さて宝箱タイムだな、ここは良い報酬とかあんま出ないんだけどとりあえず淡い期待をしながら開けてみますか。
俺は宝箱を開ける、その中身は金貨4000枚くらいとエンチャントスクロールが4つか、エンチャントスクロールの中身は3つは魔法系のエンチャントで1つは近接系のエンチャントだった。まあ、難易度も大したことのないダンジョンの報酬だから大した効果のエンチャントではない。
ちなみにエンチャントスクロールとは武器やアクセサリ、防具などにエンチャント(付与)することによりDEX+10とかの効果を付与できるアイテムのことだ。これはエンチャントスキルというスキルが関係していてスキルのレベルが高ければDEX+10の効果が上昇しDEX+15とかを付与することができる、逆に低いとDEX+5とかしか付かないので装備を作るに置いてかなり重要なスキルである。無論エンチャントスキルのランクは1である、魔法系のスキルでは珍しく1で他はヒーリングがランク5と現代魔法もだいたいランク5くらいで、後はほとんど上げてないからな魔法については、いちいちエンチャントランク1のフレンドに頼んで張ってもらうのがめんどくさかったんです、だって良い効果のエンチャントスクロール出たらすぐ作りたいじゃない!
報酬だった金貨とエンチャントスクロールをインベントリに仕舞うと俺は装備していた、篭手、帽子、服、グリーブなどを脱いでインベントリに仕舞い、学生っぽいしょぼい装備を取り出して着用し始める。さすがに本気装備をしてダンジョンの入り口に戻ってしまうとかなり目立つからな。
この世界の装備はノスタルジアオンラインと違って高ランクのエンチャントスキル保持者や鍛冶スキル、裁縫スキル、マギクラフトスキルなどを持っている人がほとんどいないため、俺たち移ろい人にとってかなり貧弱な装備となっている。スキルランクが上がるにつれてどんどん高ランクの素材が必要になり、その手の物を湯水のように使わないとスキルランクは上げることができない。その手の高ランクの素材を得るにはマスタークラス以上の冒険者の力が必要になるわけで…まあ、その手の実力者がほとんどいないこの世界では生産系のスキルを極めるのはほぼ不可能に近いと思うな、うん。
着替えが終わり、ついでにリミッター系アイテムでステータスを下げておく。
さて、ダンジョンから出てどこかで食べて寮に戻るか、どこで食べようかと思案しながらポイントからダンジョンの入り口へとワープする。
白い光に包まれた先は白い小部屋だ
ほんとにただの白い小部屋で何も置いてない
まあ、ただのワープでの出口だからな。
そこに居ては次の人がワープすることができないのでさっさとその部屋から出て、ダンジョンの受付の方に歩いて行く。
ダンジョンの受付カウンターを見て空いているカウンターへと歩いて行く。
「すみません、ダンジョンの帰還報告と素材の買い取りをお願いしたいんですけど」
「はいはい、ちょっと待ってね」
出てきたのは残念ながらおっさんだった、ちなみに当たりは俺と同年代の獣耳少女です。
「えっと名前は」
「ゼブル・ウィルです」
「はいはい、帰還確認完了ね、しかし、凄いね、まだ1年生だっていうのにもう13層までしかもソロで行っているのか」
「ええ、腕に多少は自身が有りますから」
俺はそれにそつなく答える。この手の話は軽く流した方が良い。
「それとこちらの素材の買い取りをお願いします」
俺は予め狩っていた10~13階層のモンスターが落とすドロップアイテムを30個程度受付のおっさんに渡す。
「おお、ソロなのに仰山あるねえ」
「いえ、モンスターの集団は避けて少数で移動しているモンスターだけ狩ってこの程度ですから潜っていた時間の割には少ないくらいですよ」
「まあ、確かにそうかもねえ」
おっさんはどうやら納得したようで査定に入ったようだ。俺はおっさんが査定し終わるまで受け付けの前にぼーっと突っ立っているのだが、他の冒険者たちや学園生が俺のことをじろじろと見てくる。ソロの冒険者はただでさえ目立つ、しかも最近俺がソロで10層以上まで潜っているせいで余計目立っているのだ。
なぜなら学園の卒業条件が10層まで行きそこのモンスターのドロップアイテムを拾ってくるだからである。
俺は初めてここのダンジョンに潜った時にそれをすっかり忘れていてあまりにもモンスターが弱いのでつい13層まで潜ってしまい、適当に素材を受付に出してやらかしてしまったと…
そのせいでそれを聞いた生徒や冒険者からPTへの誘いが絶えない状態となった、ほんと止めて欲しいわ。
さすがに学園側もまずいと思ったのかすぐに俺は他の人とPTを組むことを禁止された。まあ、俺単体で10層まで行けるのなら他の奴のテストにもならないからな。後で知ったことだが転生者は一応学園側に名乗り出てもらってその強さ如何でPTを組むことを禁止されるらしかった。
まあ、そんな強い奴が転生者じゃないわけがないと俺は転生者とすぐにばれてしまった。累積レベルは勿論数百程度と誤魔化しているがな。そのせいで学園生からは戦い方を教えてくれだとか、弟子にしてくれだとか付き纏われ、冒険者たちからは一緒にPTを組んでくれと付き纏われ、ほんとだるいです。まあ、自業自得なんだが。
査定が終わったようでおっさんが金貨1枚と銀貨13枚を出してきた。
そういえば言い忘れていたがこの世界の通貨のレートは100枚で上位の硬貨になっていく下から順に鉄貨>銅貨>銀貨>金貨>白金貨となっている。俺はダンジョンの最深部で狩りをしているのでお金にはまったく困っていないどころかどんどんお金が増えていって邪魔で仕方がない。何にこれだけの金を使えというのだ。
俺はお金をインベントリの中に放り込み、受付を後にする。
建物を出ると丁度茜色に空が染まっていた、長く伸びた影、朱く染まった街並みが綺麗だ。
俺はテンションを上げながら西の商店街の方へと歩いて行く。
俺はいつもの露店で焼き鳥、無論鳥皮を3本(塩味)買い、食べ歩きしながらどこの店に行こうかと思案する。
そうして歩いているとどこかで聞きおぼえがある人の声が聞こえた気がする。
辺りを見回してみると見知った顔が居た。
「ゼブルっち! 今帰りかい~?」
金髪イケメンことチャラ男じゃなくてティシュである
こいつのことだからナンパでもしていたのだろう
「なんだ、チャラ男じゃなくてティシュ、休日だからナンパでもしていたのか?」
「ゼブルっち、チャラ男はさすがの俺でも傷つくぜ」
ティシュの顔を見るが全然傷ついたようには見えない、こいつはけっこポーカーフェイスとか得意だからな、おかげでこいつにどんな罵詈雑言を言ってもたいてい流すか乗ってきてくれるのでエロゲーユーザーとしては確保しておくべき悪友ポジションなのでなにかとおいしい。
まあ、口が裂けてもそんなことをこいつの前では言ってあげないが。
「それでわざわざ俺をここで待ってたんだろ、何か厄介事か?」
ティシュは出会って2週間ほどで俺に秘密のアルバイトをしないかと勧めてきて、それから2度程その秘密のアルバイトで厄介事に巻き込まれた。
今回も恐らくその秘密のアルバイトだろう。
厄介事とかは勘弁してほしいのだがティシュは意外にもこっち側では優秀な様で持ちつ持たれつの関係でありたいため、毎回仕方なく手伝ってやっている、けれどもティシュよ厄介事持って来すぎじゃないか?
「まあ、そうだな、ここじゃちょっとあれだからいつもの店に移動しようぜ」
そう言うとティシュは俺の返答も待たずに店へと歩いて行く。
ちゃんと了承くらいとれよと思いつつ、俺は仕方なくティシュの後を追いかける
厄介事じゃなければ良いんだがな
薄暗い店内に、店内を頼りない灯りで照らすランプ、そして際どい制服を着たお姉さんたち、そしてアルコール、そうここはキャバクラである
「というかティシュ何でいつも話し合う時はキャバクラなんだよ、酒場とか喫茶店とか他にないのかよ」
「え~、いいじゃないゼブルっち、日々の疲れを癒すためには可愛い女の子と戯れることとお酒は必要なモノだぜ」
「残念ながら俺は3次元の女には興味が無いんでな、エロゲーで間に合っている、それに前も言ったが俺は酒は弱いんで酒は要らんぞ、ジュースを所望する」
「ゼブルっちは相変わらずだねえ、んじゃまあジュースだけで良い?」
「ついでに何か食べたいな、いつも通りお前持ちなのだろう?」
「ここ高いから別の店で食べて欲しいんだがな、まあいいぜ」
注文を済ませるとすぐに俺の頼んだ飯とジュースとお酒をティシュのお気に入りのミーアちゃんが運んできた。俺は飯とジュースを貰いすぐに飯を食べ始める。ティシュはミーアちゃんに酒を注いでもらいながらミーアちゃんの胸を相変わらず注視している。
「んで話ってのはなんだ、また厄介事じゃないだろうな」
「いやあ、それが今回は確実に厄介事だと思われるんだよね」
ティシュがハハハと笑いながら話す
正直こいつの持ってくるモノは碌な事が無い、迷子のペットポチちゃんを捜してくれという依頼は探し出して見ればポチちゃんはヘルハウンド(累積レベル50くらい)だった、何が大きな黒い犬で可愛い声で鳴くだ、体長2メートルで可愛い声で鳴いてファイアボールが飛んできたぞ、この依頼はまだ可愛い方でひどかったのは…
止めようあんまり思いだしたくないわ。
それを踏まえてこいつが確実に厄介事だと言っている件は確実にめんどくさいことになるだろう。出会って2カ月で良くこれだけ厄介事を持って来れるよ。
「なあ、ゼブルっち反魂蝶って知ってるかい?」
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