昼時と友達
千崎知和は怒っていた。好物であるはずのパスタを食べていても味を感じないほどにだ、その原因は先の陰陽術の初授業でのゼブル・ウィルという生徒だった。
あいつは考えられないことに格闘を主体にした戦闘スタイルだというのに陰陽術師になると言っていたのだ。
しかもあの口調だと他のものにも手を出していそうな感じだった。
格闘ということはステータスはSTRとWILL特化になるはずなのに陰陽術師になると奴は言う
陰陽術師は主にINTが関係する、符術作成もするとなればDEXまでも必要になる、まったく別の系統を選ぶと器用貧乏にしかならないというのに…あいつは。
ステータスを上げるためにはスキルを上げなければいけない
そしてスキルを上げるためには熟練度上げとスキルポイントが必要になり、そのスキルポイントを得るためにはレベルを上げなければならない。
レベルを上げるためにはモンスターを倒して経験値を稼がなくてはいけない、これはこの世界のだれもが知っている常識だ。
そして、どういうスキルを取ればいいのかと言われると特化だ、ある一つの系統のスキルを特化して鍛える、これが強くなるための一番効率的な方法だ。
だというのにあいつは格闘スキルや他の系統に手を出しているというのにさらに陰陽術を習得すると言っている。これは特化してスキルを鍛えている人に対しての侮辱にしかならない。そう考えて自分の胸がずきりと痛む。
「知和ちゃんどうかしたの?」
一緒のテーブルでご飯を食べていた綾香様が私のことを心配して顔を覗き込んでいた。綾香様には何でもないと言ったが聡明な綾香様の事だから私の悩みもお見通しなのだろう。
「先の授業のウィルくんの発言が気にかかっているのですね」
案の定綾香様にはお見通しだったようだ、このまま黙っていても綾香様には分かっているだろうし、黙ったままだと恋煩いだとかわざと変な方向に綾香様がもっていくことがあるので心情の吐露を吐き出すことにする。
「はっきり言ってあいつが気に入りません、大切なスキルポイントをあんなにも軽く扱うだなんて」
この世界で生まれた者には生まれた時にボーナスとしてスキルポイントを10~30の間でランダムで貰える。後はレベル上げをしてスキルポイントを稼ぐしかスキルポイントを得る方法がないというのにそれをあいつはあんな簡単に色々な系統に手を出すなどと…
「ふふ、でも知和ちゃんウィルくんが転生者だったからこその発言かも知れませんよ、木戸先生もウィルくんの発言に関してはスキルポイントがたくさん必要になるのでレベル上げを頑張るようにとしか言われなかったじゃない」
それを言われて私は言葉を詰まらせてしまった、転生者それはレベルを100以上上げて転生石を2つ使うことによりレベルを1に戻すと同時に容姿を変える権利を得た存在。
しかし、そんな存在はほとんど存在しないそもそもレベルを100にするにはかなりの年月がかかり、それまで死ぬ人の方が多い
そして、例えレベルを100にできたとしても転生石を2つ持っていないと転生できない。
転生石はモンスターを倒した時にごくわずかの確率で出るものらしいがそんなものは見たこともない、有名な移ろい人曰くドロップ確率は千分の一らしい、つまりモンスターを1000匹倒せば1個出るらしい
はっきり言ってばからしい確率である
モンスターを千匹も倒すような人はそうそういないが、偶に運のいい冒険者などがドロップして王都のオークションなどに出品されて毎回金貨十万枚くらいで落札されていると聞く。私にはとてもあいつがそんな存在だとは思えない、おそらくボーナスで貰えたスキルポイントが30近かっただけで浮かれている馬鹿であろう。
「その可能性がないわけではないが私にはあいつが転生者だとは思えません、ただのボーナスとしてのスキルポイントが多かっただけの浮かれている馬鹿でしょう」
「確かにその可能性もあるけど…」
「それにあいつは綾香様のことをじろじろと不躾に見ていました、きっと碌でもない奴に違いありません」
「そうなの?」
「そうです! きっと綾香様を見て劣情を催していたに違いありません、綾香様は美しく可憐で聡明であるので昔から結婚の申し込みなども多かったことから鑑みても間違いないです きっと脳内で綾香様にあんなことやこんなことをしていたに違いありません!」
「でも、もしかしたら私を見ていたのではなくて知和ちゃんを見ていたかもしれませんよ」
「まさか…私に劣情を催す者がいるとは…奴め、次に会った時には切らねばなるまい いや、しかしここで問題を起こせば本国に送還されてしまう、どうにか秘密裏にやつを…」
話が変な方向に行き始めたので方向転換させようと思ったらつい、変な方向に曲がってしまいましたね、綾香は少し反省しながらこの幼馴染とクラスメイトの男の子をどう和解?というか友達にしようかと画策し始める。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふむ、どこでご飯を食べようか」
俺は陰陽術の授業が終わり昼休みになると速攻で移動して食堂に来ようとしていたのだが、木戸先生から少し話があると言われて話をしていて思い切り出遅れていた。一応食堂を利用するのは初めてなのでどのくらいの混み具合になるか分からないこともあり、話が終わってから急いできていたのだがすでにかなり食堂の席は埋まっていた。
ここの食堂の他には購買部で弁当やパン、総菜を売っているらしいがすでに昼休みが始ってから20分くらい経っているのでもう売り切れているか碌なもの残ってないだろう。
まあ、飯を注文している間にどこかのテーブルが空くだろうと思いご飯を注文する。
とりあえず横文字のよく分からない料理ばかりなのでとりあえず無難にBランチを注文しておく。
5分後ご飯の載ったトレーを抱えて俺は困っていた
そう席が空いてないのだ。
食べ終わった奴らがそこそこいるというのに奴らはムカつくことにそのままテーブルに着いて話をしている、はっきり言ってマジで邪魔です。
ご飯を食べ終えたら次の人のためにさっさと出て行けよ…
仕方なくどこか1つでも席が空いてないかと目を凝らすと食堂の奥に1人しか座ってないテーブルがあった。俺はこれ幸いと空いているテーブルに向かおうとしたが声を掛けられた。
「あ、あの!」
俺が振り向くとそこにはどこかで見たような金髪の儚げな美少女が居た、どこかで見たことあるような…俺は頑張って記憶を探る、お、なんかでてきたな、確かこの前やったエロゲに出てきたロリエルフに似ている!
………
すいませんただの冗談です、思いだせなかっただけです。
「えっと、昨日助けてもらった者です」
昨日助けた…そんな人居たっけ? 昨日はあやかしとひとが合体したようなエロゲやっててマジで燃えてたからよく覚えてないわ
「すまないが人違いじゃないかな」
俺はそう言ってそのまま去ろうとしたが衝撃の一言が俺の歩みを止めた。
「え、えーっと、昨日ファイアプレイされかけていたものです!」
俺は物凄い速さで金髪美少女の腕を掴み食堂の隅まで移動して、彼女に必死の形相で説得を試みる。はっきり言って最近では一番の危機感を感じている。
「いいか、大人しく聞くんだそのファイアプレイという単語を無暗に使ってはいけない、その単語はえ、えーっと、そのだな、そう!危険な隠語なんだ だから無暗に使うと危ない人(変態)から襲われることが有るんだ だから決して知り合いとか友人とか人の前では言ってはいけない いいかい、お兄さんとの約束だ」
俺が必死の形相で説得すると、彼女は青ざめた顔で恐ろしいことを言ってきた。
「ど、どうしよう 僕友達にファイアプレイって言っちゃったよ 危ない人に襲われちゃう」
アッ――――――――――――――――――
俺の社会的地位がガラガラと崩れて行った感じがする。まだここに来て友達一人も作ってないし、知り合いとかおっさんとかおっさんとかおっさんとかしかいないけど。
だ、だいじょうぶだ、俺よ、まだ彼女の友達にしか伝わってない(かもしれない)から今から説明しに行ってどうにか説得しに行くんだ。もう情報が拡散しているかもしれないがな(遠い目)
「だ、大丈夫だ、友達だけにしか言ってなくてそこで情報が止まっているなら危ない人に襲われる心配もない」
俺がそう言うと彼女はほっとした顔で俺の望んでいた回答をくれた。
「よかった、僕の友達には内緒にしておいてくれるように頼んでいたから大丈夫だと思います」
ふぅ、どうやら俺の社会的地位はまだ崩れてないようだ、彼女の友達とやらの口止めをしなければならないらしいが。
「えっと、一緒のテーブルに来ませんか? お礼とか言いたいので」
俺は渡りに船と彼女の言う通りに一緒のテーブルで食事を取ることにした。このまま着いて行きどうにかファイアプレイの誤解を解かなければと使命に燃えながら
彼女に着いて行きここですとテーブルに案内される。そこには4人が座っていた。長身金髪で鍛えてますと服の上からでも分かるくらい筋肉を持っている男とにやにや笑っている金髪のイケメンの男、そして興味深いそうにこちらを見ている銀髪の美少女、最後に俺のことに気づいていないのかご飯を食べている金髪のロリっ子がいた。金髪美少女が順に紹介していきますねと言うが筋肉男が自分たちで紹介すると言い、各々自己紹介となった。
まずは最初は筋肉男が自己紹介するらしい
「俺の名はグレイ・アッシュバーン、騎士科に所属している、趣味は筋肉を鍛えることだ、座右の銘は「スターテスだけが力ではないのだよ」だ、ネルくんを助けてくれてありがとう」
そう言うとグレイは俺に手を差し出してきた、俺も手を出し握手するとグレイが途端に力を加えてきた、俺も対抗するように力を加えるが向こうの方が力が強いようだ、俺は徐々に押し負けた。
「痛い痛い痛いって!」
どうやらSTRが40程度に抑えている状態ではグレイの方が力が強いらしい、いちおステータスとは別に筋肉を鍛えることで力は上がるからな、まあ、微々たるものだが。
「ふむ、なかなかの筋肉であったぞ」
グレイが何か嬉しそうにそう言って俺の手を離した。離された俺の手は少し赤くなっている程度だが痛いものは痛いんです、そういえば久しぶりの負傷だなこれは。
「へぇ、グレイの万力にあそこまで堪えるとはにいちゃんけっこう鍛えとるんやな」
「グ、グレイさん!僕の恩人さんに何してるんですか!」
金髪のイケメンが笑いながら褒め、金髪美少女はグレイに非難の声を上げた。
「いやいや、すまんかったな、華麗にネルくんを助けたと聞いていたからつい試してみたくてな」
「いや、別にいいさ」
昨日120台から40台にステータス下げておいてほんとよかったわとか思いつつ軽く筋肉の話じゃなくてグレイの話を流す。
「さて、次は俺っちが自己紹介するぜ」
次は金髪のイケメンが自己紹介みたいだ
「俺っちの名前はティシュ・クレイディア、錬金科に所属している、趣味はナンパで座右の銘は「変態だって恋がしたい」だ、ネルっちを助けてくれてありがとなファイアプレイさん」
金髪のイケメン(チャラ男)は見た目の通りではなくただの変態の様だ、そしてこいつティッシュじゃなくてティシュとは話し合わなければならないことがあるようだ、後で潰しておこう。
「次は私が自己紹介しますね」
銀髪の美少女が自己紹介するようだ、筋肉、変態と妙なのが続いたからまともなのだと言いが。
「私の名前はフレア・ネルヴィル、魔法科に所属しています、趣味は読書で座右の銘は「面白ければそれでいい」です、ネルちゃんを助けてくれてありがとうね、ファイアプレイさん」
駄目だよこれは…座右の銘が面白ければそれでいいとか何かやらかすようなタイプの子じゃないか、しかもファイアプレイ言ってるし、意味分かって言っているのだろうか?
「次私が紹介」
最後はロリっ子が自己紹介するらしい、もう俺は若干諦めが入ってます。
「ミレイ・ガーラント、魔法科所属、趣味はご飯、座右の銘は「たとえ明日、世界が滅亡しようとも今日私はリンゴの木を植える」ネルを助けてくれてありがとう、でも変態は駄目、絶対だめ」
ご飯は趣味じゃないと思います、というかなんか凄い名言が座右の銘になってるんですけど
こっちの世界にマルティン・ルター居るの?
そして変態駄目、絶対だめって…
明らかにファイアプレイのこと気付かれているな
5人中3人明らかにファイアプレイの意味分かってるだろ…
というかファイアプレイが異世界で通じることが驚きだよ!
どんな変態さんが居るんだよ!
俺が脳内で葛藤しているとロリっ子が金髪美少女が自己紹介してないことを指摘していた、そういえば自己紹介してないな。
「ネル、自己紹介してない、すぐにする」
「あ、忘れてました、僕の名前はネル・ハーランド、冒険科に所属しています、趣味はえ、えーっと読書で、ざ、座右の銘は、うう、すぐに思いつかないよ」
「ネル、ダメな子、今度までにはちゃんとネタを考えてくること」
なぜか金髪美少女のネルはロリっ子のミレイに駄目だしを食らっていた、しかしネタって…
「あなたも、紹介、する」
どうやら俺に振ってきたみたいだ、ふふふ、エロゲーユーザーを舐めないでいただこうか。
「俺の名はゼブル・ウィル、魔法科所属、趣味はエロゲと蝶の採集、座右の銘は「天は胸の上に巨乳を作る、胸の下に板胸を作る。南無」だ、よろしくな!」
完璧に決まったな、ちゃんと巨乳の部分でフレアさんの胸に視線を合わせ、板胸の部分でミレイちゃんに視線を合わせることも忘れなかった。みんなの反応を見てみると筋肉ことグレイは笑いを堪えていて、同じくチャラ男ことテイシュは爆笑中、ロリっ子はポーカーフェイスで、意外にもフレアさんが顔を真っ赤にしている、こういうのの耐性が無いのだろうか?まあ、当然の如くネルさんは顔を真っ赤にしていた。…あれ?これって俺、思いっきりセクハラにならねえ?
………
多少危なかったかもしれないがジョークとして処理されたようだ、これで完全な変態扱いされたら適わんからな、いや、ほんと反省してるって今度から自己紹介の時にエロゲネタ出さないようにするからな!
「いやあ、ゼブルっち、お前さん超面白いな」
笑いながらテイシュがばしばしと背中を叩いてくる、どうやら変態に気に入られたようだ。
「いやあ、さすがフレアさんが顔真っ赤になった時はヤッチまったってかなり焦ったよ、ネルは当然として」
「うう、すみません、突然だったもので流せなくて…」
「ひどい、ひどいです!どうして僕とフレアの扱いが違うの!」
「それはなあ…」
「ですよね」
「うむ」
「だな」
「そう」
「なんでみんな納得してる感じなの!」
ネルは何か納得がいかないのかぎゃぎゃあと文句を言っている、このメンバーの中で完全にいじられキャラで確立しているな、俺はネルの叫びをBGMに少し冷めたご飯を食べ始めることにする。
俺がご飯を食べ終わるとネルをいじるのに飽きたというか、ネルがいじられ過ぎていじけているようだった。まあ、このメンバーにいじられれば誰でもいじけたりするだろう。その後は、俺への質問会となった。
「ゼブルっち魔法を消し飛ばしてたってホントなのか?」
「軽々と人を殴り飛ばす筋肉、一度手合わせしてみたいものだ」
「累積レベルはいくつ何ですか?」
さて、こいつらの質問をどう誤魔化そうかな、ネルの前では平均40台のステータス的にはあり得ないことをしてしまっているし、まあ、累積レベル200~300台の転生者ってことにしておいて、他の人には秘密にしてもらう方向で行くか。俺は少し声を潜めここだけの話にしてくれよと前置きをして話し始める。
「まあ、気付いているかもしれないが、俺は累積レベル数百台の転生者だ」
「「「「「!!!」」」」」
予想はしていただろうになぜかみんな驚いているそんなに転生ってそんなに難しいことだっけ?
「格闘を軸にしている戦闘スタイルなんだが、この前転生してな新しくスキルを覚えたいし、ここのところレベル上げにダンジョンにずっと籠ってばっかだったんでリフレッシュのためにもここの学園に入学することにしたんだ、無論さっきも言ったがここだけの話にしてくれよ、レベル上げを手伝ってくださいとか、レベル上げのコツを教えてくださいとか、弟子にしてくださいとか煩いのに付き纏われたくないんで年齢も15歳で怪しまれないようにして転生したんだ」
おっさん曰く転生者は大体20~30代の間で転生を繰り返すらしい
まあ、若いと筋肉とか体ができてないから力や戦闘に支障をきたすからな
いきなり体が縮んだり、腕が短くなればねえ
だからこそ俺はばれないように15歳に転生してこの学園に入学したのだ
ぶっちゃけ累積レベル高い奴から言わせてみれば体の差異なんてあんま関係ないけどな。
「おおおお、すげえ こんな身近に転生者と出会えるとは!」
「凄いとは思っていましたけど、こんな凄い人に助けられるとは!」
「ゼブル、なかなかやる」
「うむ、それではさっきはわざと力を抜いていたんだな、次こそ真の筋肉をみせてもらおう!」
秘密にしておいてくれと頼んだばかりなのにこいつらは…そんな騒いでいたら他の奴に話を聞かれるだろうが、俺はため息を吐く、まったくしょうがないやつらだ。
「ちょ、ちょっとゼブルくんが秘密にしてって今言われたでしょ、他の人に聞かれたらどうするの!」
フレアさんが唯一まともに聞いていたようだ。でも大声でそれを言わないでください、明らかに逆効果です。
それを聞いて、騒いでいてアレまずった?という顔でみんなが俺の方を見ていた
まあ、少しは反省するべきだろう。
うん、やっちゃたね☆と返答しておく。
皆が焦ってわいわいとさらに騒いでいるのを俺は少し放置して反省を促せるようにした。
それから数分程経って罪悪感に良い感じで苛まれたので種明かしをすることにした。
「まあ、落ち着いて、一応俺がここのテーブルに来た時に風の結界を張っておいたからここのテーブルの会話は他の人に聞かれることはないから、ミレイさんとティシュは気づいていて場を荒らしていたみたいだけど」
俺がそう言うとそれならそうと早く言えと気づいてなかった3人はこちらを睨んでいる、気付いていた2人も余計なことを言うなと睨んでいる。
「ちょっとしたジョーク?みたいなもんだって、そもそも秘密にしてって前置きしてるのに騒ぐお前らが悪い、ま、これからよろしくな」
俺はそう言ってみんなにほほ笑んだ、まあ、変な奴らだが3年ぶりに友達ができて良かったよ。そうして俺は昼休みを楽しく過ごした。
今回登場のエロゲネタは「るいは智を呼ぶ」から茜ちゃんの名台詞です
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