命の重さ
其れからもたびたび外因りの贈り物を続け、そうしてある日の事だった。何時もの通り窓際に立っていると突然彼女が私が居るあたりの虚空を見つめ、言った。
「此処にいるのでしょ。見知らぬ誰かさん。」
心臓をわしづかみされるかの様な感覚だった。(皮肉にも幽霊の私に心臓は無いが。)
私は「俺が、見えるのか。」と恐る恐る口を開き問う。
其れに対し、彼女はにこやかに「うん。」と頷く。
「やっと彼方の事が見えるようになりました。梅の花やいろいろな贈り物、彼方からだったのでしょ。」
彼女は幽霊である私が目の前に居ると言うのに臆した様子なく微笑み言う。
「俺が怖くないのか。」と問えば彼女は「いいえ、其れ以上に退屈で仕方がないの。」と言う。
残酷だが閉じ込める事は私にとって仕方のない事だった。
そこでふと思う。彼女から私が見えるようになり、私の声も聴くことが可能に成ったのだ。
そこで私は提案した。
「俺なんかでよければ話相手になるぞ。」
そういうと彼女は「喜んで。」とほほ笑み返す。
せめても死ぬ前に幸せで居て欲しい。私の心はそんな気持ちで満たされていた。ある疑問を浮かべながらも。
その夜、彼女が眠った後、心の中で念じてみた。奴に会うためだ。奴はすぐに表れた。正確に言うとすぐに声が聞こえた。
その声が聞こえると同時に私は問う。「何故俺はこんなことをするのか。」と。
疑問でしかなかった。何故私が彼女の元でこうして居ることが私の復活の為の条件なのかと。
奴は少し考えるそぶりを見せると口を開いた。私の死の理由についてだった。
「彼方は自殺しました。」
自殺、読んで字の如く私は自らの命を絶ったのだ。驚いたが何となく理由はつかめた気がした。
奴は命の大切さとやらを説くつもりでいるのだろう。何故私が自殺したのかを聞くまでもない。
もう意図はつかめたのだ。これ以上は聞く必要はなく、そもそも今は生きて居たいという気持ちでいっぱいだった。
私は半ば無理やりに会話を終わらせると、私は彼女のそばに戻った。
私の姿が見えるようになったということは彼女もまた幽霊に近づいた、詰まるところいよいよ残りも短いのだろうと思いめぐらせる。
「吁、これは一種恋心の様な物なのか。」一人、窓の外から対照的に明るくてらす月を見上げ呟く。白い光は私を包む心に良く似ていた。