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第6話 ボクのライバル氷室海・前編

今日は雨か……。


今は朝のHR。俺は外の景色をみながら、ボーッとしていた。


「えー、昨日帰りのHRに話した転校生だが、急遽今日来ることになった!」


転校生?そんな話してたっけ?


「おい、氷室。入ってこい。」


氷室?聞いたことあるような……


ガラガラ…


入ってきた奴は銀髪でツイストパーマをかけていた。


「氷室海です。よろしく。」

銀髪…?…ツイスト…?…ヒムロ…カイ?


「あーーーっっ!!」


俺は席を立ち、大声を上げた。


「…!……おまえは…!」


「ん?斎藤。知り合いか?」


知り合いも知り合い。

こいつは俺がギャングチームに入っていた頃の、敵チームの奴だ。

集会場所がとても近かったので、しょっちゅうこいつのチームと喧嘩した。

言わば、犬猿の仲だ。


「知り合いか。お、ちょうど隣の席が空いてるな。氷室。おまえの席は斎藤の隣だ。わからない事は斎藤からいろいろ聞け。」


担任は善意でやったと思うが、俺等にとっちゃ、いい迷惑だ。


海は無言で隣の席に座ると、俺を見た。


「よろしくな?斎藤政人君。」


ちくしょう…。俺の平和な学園生活が……。



―――――。


きーんこーんかーんこーん


4限の終わりを告げるチャイムが鳴った。


結局、海とは一言も喋らなかった。教科書は右隣の奴に借りていたし(俺は左隣の窓際の席)、移動教室などの場所も右隣の奴に教えてもらっていた。


海を見ると……女数人に質問攻めにあっていた。


「氷室君ってどこに住んでるの?」

だの、

「氷室君のメルアド教えて!」

だの。

海は迷惑そうな顔をしながら、適当に答えていた。


ちくしょう、なんでこんな根暗野郎がモテるんだ!

あれか!クールなちょい不良はモテるってやつか!


俺は、そりゃあ物凄い、マジとんでもねー憤りを感じながら、弁当箱を持って教室をでた。


階段を上って、屋上へのドアを開ける。


ザァァァァ……


そうだ。今日は雨だった。


教室には海がいるだろうし、ほかに場所も無いので、屋上の前の階段で食べる事にした。



……はぁ。

一人で昼食か…。


今頃、海は女に囲まれ怪しくニヤニヤしながら、女子達に

「海君これ食べて!アーン」

とか言われながらあいつは

「え?ボクまいっちゃうな〜。ほひょひょ!」

とかいっているんだろう。



はっ!くだらねぇ!俺には綾ちゃんがいるぜ!メニーメニーよりオンリーワンさ!

綾ちゃんが彼女になったら………うはっ!

………うひゃ!

………くぅ…。

「…なにやってんの?怪しくニヤニヤして…。」

「うおっ!里奈!」


「また変な想像してたんだろう。」


「克也。どうした?二人揃って。」


「どうせ屋上の辺りにいると思ってね。」


「三人仲良く食べるかって事になったんだ。」


「……おみゃーら…最高だぜ!」


「はい、抱きつくのはダメだからね。」


スカッ


「……さ、ご飯食べようかな。」



―――――。


「そういえば、政人のクラスに転校してきた人、凄いイケメンだね。教室覗いたらびっくりだよ。女の子に囲まれてご飯食べてんの。」


「あの野郎…想像通りの事しやがって……うぅ。」


「あの氷室って奴、前に言ってたギャングの奴だろう?」


「ああ。あいつは変わってねぇよ。中三の頃から食えねぇ野郎だよ。」


そう。海はあいつは前からあんな奴だった。

あいつとは何かとぶつかった。

一種の腐れ縁みたいなもんだろう。街中でも、電車の中でも、家の行き帰りでも、あいつとはよく会って、よく喧嘩した。

あいつは喧嘩強かったな。認めたくないけど。


「でも、何で転校してきたんだろうね?」


…たしかに。あいつは地元がここらへんの近くだから、親の転勤って訳じゃないし。なにより、ギャングに入ってんだから、敵チームの地元の高校に来るわけない。まさかギャングをやめたとか?

いや、それこそまさかだ。あいつはギャングを辞めない理由がある。



あれはまだ、俺と海二人共ギャングチームに入る前の話。


その日、夜中、俺がコンビニにタバコを買いに行った時、お馴染みの様にあいつに会って、お馴染みの様に因縁付けあって、お馴染みの公園に行って、お馴染みの様に喧嘩した。


俺はあいつをボッコボコにしてやった。

そして俺もボッコボコになっていた。



「ハァッ……ハァッ、いい加減倒れろよ……」


「ハァハァ……生憎と、俺は重力には逆らいたい人なんでね……。」


「ハァハァッ……わりぃが、俺もだ!」


海はそう言い放つと同時に、俺に得意の右フックを仕掛けてきた。

今、こいつの右フックをまともに食らったら、確実に意識がトぶだろう。

俺はそれをガードするために、左の顔全体を腕でカバーした。


しかし、海はフックを直前で止めた。


!…フェイント!?


そう思った時には、遅かった。


バキッ


あいつの左フックが正確に俺の顔面を捕らえた。


「カハッ!」


俺は意識が遠退くのを堪えて、足を踏張った。


「ハァハァッ、フェイントとかくだらねぇ小技使いやがって……」


「ハァハァッ………使ったもん勝ちだ…。それよりおまえ、俺は今13戦7勝だぞ?これでやっと差が開くな。」


そうだ…。今回負けたら差が二つ開く…。

今回だけは負けらんねぇ…!


海はフラつきながらも、戦意は無くなっていないみたいだ。

ホント、こいつと喧嘩するとめんどくせぇ……


「クッ、さすがにヤバいぜ……!」


「俺のフックまともにもらって立ってんなんて、おまえだけだぞ……めんどくせぇ…」


「でも、もうこれで最後だな…。まあ、最後をたのしもうぜ…。」


俺はタバコを取出し、愛用のジッポで火を付けた。


「なんだ?てめぇ。タバコが吸えない体になる前に吸っとこうってか?」


「わかってねぇな……勝利の……タバコだよ!」


俺はタバコを海に向け、飛ばした。


海はそれを予想していた様に笑いながら避けた。


「フン、くだらねぇ!それが最後の手かよ!」


そう言うと海は俺に向かってきた。


そうだ…そのまま来い……たのむ、パンチ…パンチで来てくれ……!


海は俺の期待通りに、全体重を乗せたパンチを繰り出した。


俺は海の上半身が限界まで前に来たときに、あらかじめ手に持っておいたジッポを奴のめがけて放った。


ジッポは丁度、海の左目に当たり、海は一瞬怯んだ。


「オラァァァッ!!」


俺はストレートやらフックやらの名称もつかない、拳に全体重を乗せた、渾身の一撃を海の顔面に、ジッポごと殴った。


ゴッッ!!


ジッポが死角になり、加えて、丁度カウンターになった事で、海は俺の一撃を思いっきり食らった。


「14戦7勝…だぜ。」


海は一瞬、全身の力が抜けた様な顔をして、そのまま地面に突っ伏した。


これはさすがに立てないだろう。やった本人の俺でも、こんなの食らったら川の向こうのお婆ちゃんに手招きされちまう。


海は地面に突っ伏したまま、動かなかった。

俺が仰向けに起こすと、海は喧嘩の時とは打って変わって、安らかな顔をしていた。


「…ハァ…めんどくせぇ……。」



―――――。


「…………!」


「おっ、おはよう。」


「…俺は…負けたのか…」


俺は海をベンチに寝かせ、奴が起きるまで、待ってやった。なんて優しいんでしょう!こんな根暗でオタクで喧嘩するしか脳のないバ

「余計なお世話だ。」


「あれ?聞こえてた?」


「全部な。」


「…ま、いいや。てかおまえ3時間も起きるまで待ってやったこのボクに、なんか言うことアルんでねーの?」


「チッ、タバコ全部折れてやがる。おい、タバコくれ。」


「…はい。でさでさ!はやく言って!」


「…ライター落とした。おい、火。」


「…はい。」


カキィッ、シュッ…


「サッ、言ってごらん!はやくはやく!」


海は煙を深く吸い、ゆっくり吐いた。


「これ、軽いな。」


「おまえ、撲殺って言葉しってんか?」


海は俺の言葉を無視して、空を見上げた。

空はすでに少し青くなり始めていた。


「…俺、兄貴のチームに入る事にした。」


「ああ、おまえの兄貴が頭のでっかいギャングチームだっけ?」


「そうだ。すげぇよ。兄貴は、俺と二つしか違わねぇのに。50は居るチームの頭だぜ?」


「で?チーム入ってどうすんの?兄貴が引退する時にヘッドの座を頂こうって訳か?」


「そんなくだらねぇ事しねぇよ。俺はいつか兄貴にタイマンで勝って、兄貴を越えんだ。だから、体を鍛えるために入るんだよ。兄貴のチームは敵が多いからな。」


「でも兄貴ってモロ強いんじゃなかった?」


海の兄貴はそこらへんの不良の憧れ。タイマンで負け無し、地元最強だった。

地〜元じゃ、負・け・知・ら〜ず〜ってなもんだ。


「ああ。だから挑むんだよ。ガキの頃から負けっぱなしだからな。」


そう言った海の眼は、いつもの興味なさそうな眼ではなかった。



「ふぅ、もうこんな時間か。コンビニにタバコ買いに行っただけなのに…。」


「フン、俺はもう行くぜ?次会ったら、決着着けようぜ。」


「はっ、次も俺の勝ちさ。……じゃあな。」


「ああ…。」



―――――。


「………まあ、人が転校する理由なんてどーでもいいよね。」


「どーでもいいって言うのもアレだが……、まあ、あまり詮索することではないだろう。」


そうだよな…。あいつの転校の理由なんてどーでもいいし、詮索することでも無い。


「そういえば、綾ちゃんは?」


「ん?綾は委員会で一緒に食べれないとか言ってたよ?」


「なんだよ…俺と綾ちゃんの愛を深めようと思ったのに……」


「あんた、自分の顔をみて言いなさい。」


……え?聞き捨てならねぇ。俺ってそんなヒドイの?


「ねぇ、ぶっちゃけ俺の顔どう?」


「何よ…?急に真剣になって……そうだね、顔は正直悪くない。いや、かっこいいよ。でも……」


「でも……!?」


「…中身が……ねぇ……?克也」


「…中身だな…なぁ……?政人」


「たしかに中身がな………な…?俺…?俺?オレェェェェッッ!!」


なんだか誉められたのか、けなされたのかわからん…。



回想シーンが流れてる間に、俺の弁当箱は空っぽになった。


なんか食い足りねぇな…


「……あっ!スカイフィッシュ!」


「えっ?どこどこ!?」

「どこにいるんだ!!」


ヒョイパクヒョイパクヒョイパクヒョイパクヒョイパクヒョイパクヒョイパクパクパクパクパクパク!!!

「ほひ!ほへはひっへふふん!とまと!(よし!俺が一人で追ってくる!あばよ!)」


「そんな!危険すぎる!」

「政人一人じゃ捕まえられないよ!」


「ほへへほ……ほへへほ、ほへはとまと……!(それでも……それでも、俺は行くぜ……!)」



………なんて事にならないかなぁ……と、俺は克也と里奈の弁当を見ながら考えていた。


ああっ、里奈!うまそうな唐揚げ食ってんじゃねぇか……


「…どしたの?犬みたいに口が涎でべとべとだよ?あ、これ?」


俺はブンブンと首を縦に振った。


「もう、しょうがないなぁ…。はい、あーん」


おお!ここのお店はそんなサービスまであるでごしゃるな!でわっ!遠慮なく……


「柏木克也!!」


「「「うわっ!」」」



ビクッ



ボトッ



…………。


「こんな所にいたのか!逃げていないで早く勝負しろ!」


「…一太郎……死にたいようだね…」



俺は一太郎を体育館裏に連れ込み、全身白タイツを着させ、鼻眼鏡を着用させたあと、モジモジ君を強制的に始めて、“大日本帝国”と書けるまで、ずっとその格好でいろと言い、教室に戻った。



―――――。


「HRおわるだよ!みんな気を付けて帰るだよ!」


うし!今日も学業が終わったぜ!


「おーい、帰るぞー!」


聞き慣れた声の方を見ると、里奈と綾ちゃんが俺の席に歩いてきている。


ああ、綾ちゃん…!微笑む顔が可愛いぜ…!


綾ちゃんは海に視線を落とすと、驚きの表情をみせた。


「海…君…?」


「!……」


海が綾ちゃんの方を見ると、海もまた、驚きの表情をした。


「フ……今日は懐かしい奴によく会うな…」


海はそう吐き捨てると、無言で教室を出ていった。


「海君!待って!」


綾ちゃんは海の後を追っていった。


「えっ?ちょっ……どゆこと!?」


「ははーん。これはただの知り合いって訳じゃなさそうだね。」


里奈は、綾ちゃんが出ていく姿を見ながら、手を顎に当てて、含みのある笑いを見せた。


海と綾ちゃんが知り合い……?いや、ただの知り合いじゃ、ない?


俺は明後日の方を見ながら、呆然としていた。



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