第5話 がり勉君の眼鏡パーティー
暖かい春…。
今日はいい天気だし、学校も遅刻しないで来れたし。言うことナシだな!あ、梨食いてぇ。
今は3限が終わって休み時間中だ。俺は机に突っ伏しながら、梨の事を考えていた。
「おい、政人。4限は移動教室だぞ。」
「ああ。…克也、おまえ梨とリンゴどっちが好き?」
「蜜柑だ。」
「うん、話をちゃんと聞きなさいこのシャバ増が」
そんな会話をしながら、俺と克也は教室を出ようとした。
しかし、教室のドアに仁王立ちしている奴がいて、それは阻まれた。
克也は、そいつの姿を見ると、
「またか…」
と、ため息混じりにつぶやいた。
そいつは克也を睨み付け、甲高い声を出した。
「柏木克也!僕の挑戦を受けろ!!」
―――――。
そいつの名前は、赤木一太郎。がり勉野郎だ。
体系はガリガリ。背も低く、牛乳ビンの蓋のような眼鏡をいつもかけている。まさに絵に書いたような奴だ。
一太郎は高校一年のテストで、克也より点数が低かったことに激怒して、それから克也をライバル視するようになった。
そして、克也に何度も挑戦しては、ことごとく敗れていた。
ある日は、勉強で勝てないと悟ったのか、雑学で勝負を挑んできた。
俺は何故か、出題者に抜擢された。
「かえるは何で両生類なんでしょう。」
「はい。それはなんたらかんたらぴーちくぱーちく」
「柏木君、正解(なのかな?)。次。かえるの卵にはどんな秘密が隠されているのかな?」
「はい!それはなんたらかんたらぴーちくぱーちく」
「一太郎不正解。(なのかな?)」
「政人、それは正解だぞ…。」
「…あひゃ!」
結局勝負は克也が勝った。まあ、克也の趣味は読書なので、雑学で負けることは無いけどな。
―――――。
「…それで、今度は何の勝負だ?」
てかこいつもクソ真面目に勝負受けるよな。ま、A型だからね。
今度は何の頭脳勝負だ?
「50メートル競争だ!!」
運動だ!!
「50メートルを……競歩だ!」
地味!
「…いいだろう!」
引き受けちゃったよ…。
―――――。
昼休み。
俺は校庭の端で、梨の入っているパンを頬張りながら二人の姿を見ていた。
「政人、スタートたのむ。」
「斎藤君。よろしく。」
「…わかったよ。」
俺はスタート前の線の横に立った。
「はーい。いくよー。よーい……」
もぎゅもぎゅ…
「…斎藤君、ふざけてないで早く」
「ドン」
そう言った瞬間、克也は物凄い速さで…歩いていった。
一太郎は一瞬キョトンとしたが、何が起きたのかすぐに理解し、物凄い速さで……歩いていった。
……だめだな、競歩は。スピード感が出ねぇ。
20メートル付近。一太郎は克也に追い付きそうだ。ま、克也は運動神経0だからな。
「くっ!」
「はっはっはー!柏木克也!苦しそうだねぇ!」
一太郎歩くのはえーな。
たぶん、あいつは血のにじむような練習をしたんだろう。足に50キロの重りを付けたりとか。
お、一太郎が克也を追い抜いたぞ。
「僕はねぇ、この日のために、足に毎日50キロの重りを付けていたんだよ!」
本当にやってやがった!
40メートル付近。克也と一太郎の差は完全に開いていた。
一太郎は自分の勝利を完全に確信していた。
「HAHAHAー!僕は勝った!僕は勝った!僕はアビャッ」
あ、こけた。
一太郎はこけた時、眼鏡が頭の方にずれていた。
「眼鏡…眼鏡…」
お決まりだな…。
…スチャ
あいつスペア持ってやがった!
しかし、あいつはこけた時に足を痛めたらしく、またこけた。
ズシャーッ!
すると、あいつのポケットから、何かが大量に出てきた。
「ああっ!僕の眼鏡が!」
全部眼鏡かよ!!
一太郎はこけた時に付けていた眼鏡を2個とも落としたらしく、手をまさぐりながら必死に眼鏡を掻き集めていた。
その時、どこからか微笑みながら里奈が表れ、パーティ用鼻眼鏡を一太郎の眼鏡の中に紛れさせた。
「よし!これで全部だ!」
一太郎は眼鏡を全部集めたらしく、最後に落ちていた眼鏡を身につけた。
スチャ
はい。ドンピシャ!
「おかしいな。見えない。」
当然だ!
よろよろしながら一太郎はゴールした。
とっくにゴールしていた克也は、一太郎を可哀相な目で見ながら、
「おまえが勝ったよ…(いろんな意味で)。」
と言った。
「やった…僕が勝ったんだ…わーい!わーい!」
一太郎が喜ぶ姿は、まさにパーティでテンションMAXな人そのものだった…。