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第49話 シューマイ占いの素晴らしさが分かるとてもいいお話

昼下がり、冷房20度強風の自宅。


俺は今、リビングのフローリングにひざまずいていた。


「な、無い……」


皆さん御機嫌よう。俺は斎藤政人。毎度のこと金の無いイケメン高校生だ。名は政人。姓は斎藤だ。


手に残っているのはユキッチが2枚。今月の支払い合計75000円。紙一重でアウトだ。いや六重か。


「無い物は仕方なかろう……。うな垂れてないで、今何をすべきかを考えたらどうじゃ?」


リビングとキッチンを仕切るための、腰より高めのテーブルに置かれた水槽からもっともな正論が降って来る。


「た、たしかに」


こくり、こくり。


「……親元には頼れないのじゃろう?ならばその身で稼ぐしかあるまい?」


「た、たしかに」


こくり、こくり。


「オイなんかむかつくなそれオイ!」


でもたしかに亀吉さんの言う通り、この身で稼ぐしかあるまい。しかしそれは何も正攻法でなくてもいいのだよ。


「じゃっ、亀吉さん。俺行って来るよ!」


「……ちょっと待て政人?なんで働きに行くのにそのにまんえんを握り締めているんじゃ?その清清しい笑顔はなんじゃ?その右手に持つパチスロ攻略雑誌は何じゃ?左手に持つカンタくんは何じゃ?」


なんか詳しいなこの亀!


俺はそんな声を背中に受けながら玄関の扉を開けて、後手にそれをゆっくり閉めた。


途端、灼熱の気温に晒される。体を撫でる熱気を感じて、まだまだ夏の中盤戦という事を再確認した。


そうだ。まだ夏はこれからだというのに、こんなところで燃料切れなんて真っ平ごめんだ。


そう心の中に決意を秘めながら。


俺は戦場へと、旅立った。



―――――。



戦場に向かう途中には、必ず商店街を通らなくてはならない。しかし俺は、そこで思わぬ物を見てしまった。


見慣れない看板の先に見慣れない店が一軒。その、紫色の扉の上に据えられた看板の店舗名をまじまじと見る。


「ミコミコ占い師、御神美子のシューマイ占いの館……」


ひじょーに見覚えのある人名だ。


あのクソシューマイオタクいつの間にこんな物を……。物凄く気になる……。


と、思いながらも足は優先事項へと向かうわけでして。さてこんなクソどうでもいいクソシューマイのクソなんて放っておきましょうと前を向いた所、



目の前に美子が立っていた。


「……っ!!」


この子……!いつの間に……!


美子は俺の事を分かっているのか分かっていないのか分からない表情でぽけーっと見つめていたかと思うと、ピクリと動いて、ようやく俺を認識した気がした。この子はきっとスロウか何かそっち系の魔法をかけられてるに違いない。


ぺこりとお辞儀する美子。


「ごきげんうるわしゅう政人さん。奇遇ですわね」


「……ご機嫌麗しゅう美子さん。何でお嬢様口調ですの?」


美子は口に人差し指を当てて、ポツリと口にする。


「キャラ路線へんこう?」


全く大失敗だねお疲れ様!


「それよりも……」


美子の顔に向けていた視線を下げてゆく。


彼女はいかにもな、深い紫色のローブを着込んでいた。


「これ、お前がやってんの?」


親指で横の店を指す。美子は考え込むことも無く、すぐにコクリと頷いた。


そして何を思ったか、俺の服の胸倉を深くえぐるように握り締める。


「ちょっと寄ってみてほしい。きっとおもしろい」


行動と言動が微妙に食い違ってないかい?


俺はその状態のまま店に引き込まれていく。なんか物凄くデジャヴ。


内装は意外と凝っていて、天井からは布が垂れ下がり、妖しげな間接照明に照らされて、雰囲気はバッチリだった。どこからか妖しいBGMも聞こえてきた。妖しすぎる。


まあ、ちょっと位ならいいか……。パチ屋は逃げないしな。


美子は背の高い板で仕切られた(元は四角い部屋だったのだろう)つづら折の通路を、もったりもったり進む。俺の胸倉を掴みながら。


そして通路の最後には、黒い布が敷かれた四角いテーブルがあった。


そのテーブルの真ん中には……シューマイの山。


そこで、ようやく俺を放してくれた美子は、テーブルの向こう側に腰掛けた。


ローブを深くかぶる。美子の無感情な口だけが見えた。


「かけて」


手のひらを俺に見せる。促されるままに、美子の対面にあるアンティークな背の高い椅子に腰掛けた。


「じゃあ占います」


美子はシューマイを一つ手に取ると、それをローブ越しから額の辺りにつけて、唸りだした。


「うう~ん」


完全に棒読みだな。


「はっ」


口に放り込んだ!結局食うのかよ!


もぐもぐしながら、再びう~んと唸る美子。そしてごくりと飲み込むと……。


「うまい!」


「シューマイの感想じゃねーんだよ!なにそのかつて無い満面の笑顔!?」


「え、おいしいよ。政人も一ついる?」


「占いだよねコレ!?え!?俺『三上美子とシューマイを美味しく頂く会』とか入っちゃった!?」


「冗談です。今すべてわかりました」


ホントかよ……。


「政人、ギャンブルに行こうとしてた」


「な、何でそれを……」


俺は動揺を隠し切れなかった。攻略本はさっきコンビニで捨ててきたし、俺がギャンブルに行こうとしてたなんて美子には判断できないはずなのだ。


「さっきそういう本持ってた。コンビニで捨ててたけど」


ザ・ストーキングでした。


「そういうの言っちゃだめ!てかお前何やってんのマジで!こわいからやめて!」


「まあ細かいことは切り捨てて」


せめて置いとこう!?


「これからの政人の金運教える」


……お、ちょっと気になるかも。


「……今は、とことん落ち込んでる。でも、落ちきったら、後は上るのみ。恐れないで突っ込んで。金運はそれから上がってくる」


俺は、美子に掛ける言葉を見失っていた。あまりに占い然としてたから。


「……意外だ。結構しっかり占えるんだな」


ようやく思いついた言葉を掛けると、美子は口角を少しだけ上げた。


「コレがわたしのほんとの姿。そう、わたしはミコミコ占い師、みかゅくっ」



―――――。



そして、みかゅくっを信じた結果が……。


「あのーお客さん、メダルを入れないでボタンを押され続けても、何も得るものはありませんよ」


「だって入れるメダルが無いんだもの」


これだった。


そしてパチ屋を追い出される俺。日はもう沈みきっていて、店内の爆音の代わりに、夏の夜の浮ついた喧騒が聞こえる。


「……ふふ、滑稽よね私。笑って。ねえ笑ってよ」


それでも信じていたの。こんなの分かりきっていたのにね、こうこうせいの流れ的に。でもいいわ。それが私。ふふっ……きっと悪い人に捕まっちゃうタチなのね。


私は心の中で吹っ切って、歩き出した。そう、私は、過去は振り返らないから……。



―――――。



「テメー美子!テメーを信じたおかげで俺の財布がツタヤカード入れる皮のなにかになっちまったじゃねーか!」


店先にいた美子に食って掛かる。


「あっ、政人いいところに」


「聞いてください!」


「政人これから暇?」


「ああ暇だね!お前のせいでこれから歩む人生の道を見失ってしまったどうしようもないアウトローさ!」


「じゃあちょっと時間ちょうだい」


そう言ってまたしても俺の胸倉をえぐるように掴む美子。君は人を誘うときはそうしなさいってママに言われたのかい?


店に入って、もったり通路を歩きながら、美子は口を開いた。


「こういう店ってね、夜のほうがお客がおおいの。でもわたしは夜は本業があるから」


ミコミコ霊媒師の方か。


やがて通路は突き当たる。そこにあるテーブルの前で止まった美子は、胸倉をはなして俺に向き直った。


そして、ローブを脱ぎだした。


な、なんだ!?俺はちびっこには興味ないぞ!


ローブの中は、白いくるぶしまであるワンピースに黒いカーディガンという、清楚なんだか暗いんだかよく分からん服装だった。


狼狽している俺に、美子はその手に持つローブを掛け直す。ふふ、いいにほーい。


「だから、政人代わって」


「……へ?」


「政人が代わりに占うの」


あまりの突拍子も無い発言に、頭が空っぽになる。でもすぐに反論の言葉が浮かぶ。


「で、できるわけねーだろ!大体なんで俺が代わんなきゃいけねーんだよっ!?絶対無理!」


「儲けは売り上げから経費を引いた半分。お客は終電間近まで絶えないと思う。占いは1回5分で終わらして1000円。この意味がわかる?」


「うん僕頑張る!」



―――――。



ただ今午後8時を少し回ったところ。


あの後、美子は「終電の時間までにはかえる」と言い残して、さっさと本業に出かけてしまった。


そしてついに今、第一の客が、通路の向こうからやってきた。俺はローブのフードをかぶってる頭を、もう一度深くかぶりなおした。


客はテーブルの端に置いた四角い箱の、細長い穴に千円を入れると、椅子に腰掛けた。


「よろしくお願いします」


声からして、客は女性のようだ。というか占いなんて、男性客はめったに来ないだろう。というか聞いたことある声だな。


「今日はボクの走り屋運を見て欲しいんです」


ハルだった。そんな運無いです。


「じゃあ占います」


まあいいや。ハルなら適当で。


シューマイを一つとって、額に当てる。


「うう~ん……はっ」


「食べた!」


もぐもぐしながら、適当に結果を考える。あ、これホントにうまい。


「橋河峠がハッピースポットです。そこにいる走り屋をギタギタにしましょう。あと今あなたにくっついてる異性は一度シメるが吉です」


「そ、そんなことまで……ありがとうございました!」


そう言って席を立つハル。え、こんなんで千円貰えんの?詐欺じゃね?いや詐欺か。


そして続々と来る客達。それを適当に捌いてる途中、またしても見知った顔に会った。


「ほら海君、次私達の番だよっ」


「ん?ああ……」


我が校のアイドル、村上綾ちゃんとそのおじいちゃんだ。


背の高い椅子に綾ちゃん。その隣においてある簡易な回転式丸椅子に海が座ると、それぞれが500円ずつ、箱に入れた。


「お願いしますっ」


ニコニコ顔の綾ちゃん。その隣で、しょうがない奴だといわんばかりの呆れた笑顔を見せている海。あーこれむかつく。あーこれ悪いヤツでちゃうわ。


シューマイを持って唸る。


「うう~……はっ」


「あっ食べた」


「食ったな」


もぐもぐ。


「分かりました。……あー、こりゃまずい。あー、こりゃまずいわ、あー」


「えっ……なんですか?シューマイですか?」


「アレだ。そこの男の人、あなた最近疑われるようなことしたでしょ?」


ぎくり、と二人とも固まる。


「コレもっかいやっちゃうねー。あー、これ浮気的な男と女のいけない関係やっちゃうねー。あーだめだこれ」


「そ、そんな訳ありません!海君がそんな……」


「分かんないよー?恐らく靴紐ほどけてるのに気付かないで自分で踏んでつまづいちゃうくらいの確率でやるよー、このジジイ」


「……なんか聞いたことのある声だな」


「はーいありがとうございましたー。すいませんねー、次つっかえてるんでねー」


席を立つ、憮然とした表情の二人。うんうん、そんくらいのテンションの方が微笑ましいね。お幸せに。


そうしてまた、延々占い続ける。延々シューマイを食べ続ける。


そうしているうちに、今まで途絶えなかった客足も次第にまばらになってきた。携帯のディスプレイを見ると、そろそろ終電の時刻に差し掛かろうとしていた。


もう美子が来てもいいくらいか……。


と、通路の向こうから人影が。客かと思いきや、それは美子だった。


美子が来たって事は、仕事が終了したという事。俺はさっさと暑っ苦しいローブを脱いだ。


「おつかれさま。混んだ?」


言いながら、俺に缶コーヒーを渡してくる。お、俺の好きなメーカーだ。


「サンキュ。ああ、軽く150人は超えたかな」


「……え、でも5分に1人」


「あれ」


……あ、ちょっと適当にやりすぎた。多分1人1分弱くらいしかやってねえ。


「……政人。いい加減はだめ」


俺をたしなめながら、美子はテーブルに置いた箱の蓋を開ける。


中には千円札がぎっしり詰まっていた。


「政人。グッジョブ!」


そうなりますよね!


早速二人で金勘定を始める。金を全部数えて、経費を抜いて、それを半分にして……。


「じゃあこれが政人の分」


そういって美子に渡された金は、75000円ぴったりだった。ん……?この金額、何か見覚えがあるような……。まあいっか!


「いやーおいしいねーこの商売」


「またよろしくね、政人」


にんまりと握手を交わす俺達。


店を出て、美子が扉の鍵を閉める。外は太陽が沈みきっていても暑くて、生暖かい風が頬を撫でた。


「じゃあここで」


「いや、送ってくよ。さすがにこの時間だからな」


またしても読めない表情で俺を見つめたままの美子。


「でもわたし、幽霊にはつよい」


「ばっか、この世で一番怖いのは人間なんだよ」


俺がそう言うと、今度はクスリと笑って。


「じゃあおねがいします」


と、ぺこりと一礼した。



―――――。



「ただいまー、亀吉さーん」


「おお。おかえり、政人」


「ほら、今日はちゃんと魚肉ソーセージ買って来たぜ?」


「おおっ!なんだ、ずいぶん太っ腹ではないか」


「まあね。結構儲かったんだよ」


「ほう、幾ら位じゃ?」


「へへー……じゃん!75000!」


「おおっ、支払いでぴったりじゃな!」


「それかあああああああああ!!!」



おしまい☆




美子かわいい。僕はロリじゃない。自分で書いててかわいい。違うロリじゃない。でも自分で書くとネタバレだから、誰かに書いて欲しい。誰か美子書いて!ロリ書いて!


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