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第47話 ああたまらない!極太魚肉ソーセージの巻

「あー、すずし」


ただ今自宅のエアコンの前。これを作った人はホントにすごい。がりがりくん奢りたいぐらいすごい。じゃあそんなすごくないね。


「政人ー!政人ー!」


この声はウチの亀、その名も亀吉さん。メス。最近普通に世間話とかしちゃう。


今は水槽の中で、その小さな体をいっぱいに動かして、こちらに気を向けようと必死だ。


「何だよ亀吉さん。そんなに叫ばなくても俺はここにいるよ。ああ、ずっとここにいる」


「口説かんでいい。おぬしはただ暇を持て余しているだけじゃろう」


ああ、だからずっとここにいたんだね。


誰も居ない夏休み。ひとりぼっちの昼下がり。話し相手は人間でも無い……。


「ああっ!部屋の端に行くな!体育座りするな!」


「違うからね!これは古来より伝わる精神統一の技術だから!こうしてるとなぜだろう、物凄く型にハマった気がする」


「重症じゃな……。でな、政人」


うん?と顔を向けると、なにやら口ごもる亀吉さん。


「そのぅ……そろそろアレがなくなる頃合いではないか……?」


アレ?……ああ、そういえば亀吉さんの魚肉ソーセージ切らしてたっけ。


「そうだな。じゃあ暇つぶしがてら行ってくるか」


「そっ、そうか!行ってくれるか!政人、おまえって奴は最高のご主人じゃ!」


小躍りしそうな勢いではしゃぐ亀吉さん。ムカつくから意地悪しちゃおっかなっ!


「気にすんなって。じゃあカルパス買いに行って来るわ」


「ちょっ!カルパスじゃない!カルパスじゃないぞ政人!」


「え?なんだったっけ?」


「う……あぅ……」


「ん?聞こえないなー」


「……魚肉。魚肉ソーセージ」


「んん?で?それをどうして欲しいの?」


「……っ!!ほしい……欲しいの!ねえ入れて!私の水槽の中に入れてよぉっ!」



―――――。



で、今は商店街なわけだが。


さっきはちょっとアウトな気がしたけど、まあ何とかなるだろう。ていうかアレは亀がエサねだっただけだからね。全然そういうんじゃないから。


もう極太魚肉ソーセージも買ったし、手持ち無沙汰だ。でもせっかく商店街まで来たんだから、とんぼ返りってーのもつまらんな。


そんなことを考えながら商店街を当ても無くフラフラしてると、ふと、見知った人影が居たような気がした。


……っていうか居た。電信柱のそばで必死に縮こまり、まるでだれかに見つからないようにしてるみたい。俺の知ってる彼女がそんな間抜けな事してるとは思えないが……。


俺はその彼女の肩を、後ろからポンと叩いた。


「よっ綾ちゃ「ぎぃゃあああああああ!!」

「うわああああああああ!!」


うわあああああああああ!!


「ってえ!?政人さんっ?」


「えっ、えっ?何これ逆ドッキリ!?トラップカード発動!?」


「あ、いや、すいません。いきなり後ろから声を掛けられたから……」


目の前には、胸を撫で下ろす綾ちゃんの姿が。今は黒縁の眼鏡をかけて、いつもは下ろしてる黒髪を、後ろだけ纏めて上げていた。


俺もようやく心臓が治まってくる。


「ふう……いや、大丈夫。で……」


……何言おうとしてたんだっけ?


と、綾ちゃんにいきなり肩をガシッと掴まれる。ふふ、いいにほーい。


「……見ました?」


神妙な顔で見詰めてくる。未だ状況が掴めてない俺。


「えーと、綾ちゃんが電信柱に隠れてるのは見た。てか写メった」


「消してくださいじゃないと政人さんを削除することになりますけど」


「ごめんなさいホントは撮ってないですごめんなさい」


冷たい無表情を崩し、深いため息をつく綾ちゃん。


……おしっこちびるかと思ったぜ!てか海はいつもこの重圧に耐えているのか……。って、向こうに歩いてんのは。


「おーい!かまもごっ」


向こうに歩いていく海の後姿を呼び止めようとしたら、綾ちゃんの手がそれをすかさず防いだ。海は立ち止まってきょろきょろしている。


俺の後ろに回り込む綾ちゃん。かと思うと、いきなり胴体をがっちり掴んで離さない。


「かまぼこですか!?かまぼこですよね!?ああっちょうどいいところに喫茶店が!ちょっとここでかまぼこして行きましょう!」


みんな知ってるかい?今時、かまぼこは食べるんじゃなくてするんだぜ?


俺は綾ちゃんに引きずられる様に、そばにあった喫茶店へと入っていった。



「――いらっしゃーい。お、マー君、女連れかい?」


そして、俺の今の引きずられてる状況をもう一度見て、もう一度口を開く。


「いらっしゃいマー君。女連れだね?」


違うでしょ!?明らかに連れ去られてきた感バッチリだよね!?


「2名で!アイスティー!」


「お好きなお席に~」


そんな俺の心情はお構いなしに、ズンズン進む綾ちゃんと、それを受けて流すマスター。


説明しよう!ここは俺がちょくちょく通っている店『どこにでもある普通の喫茶店』だ。本当に正式名称がどこにでもある普通の喫茶店だし、本当にどこにでもある普通の喫茶店だ。


もう自分で何言ってるのか分らなくなるので、俺は略してどこでもカフェって呼んでる。はい、俺天才。おわり。


ちなみにマスターは男。長髪を後ろに束ね、丸眼鏡がトレードマーク。いっつもヘラヘラしてる変なオッサンだ。


綾ちゃんは一番奥のテーブル席で、ようやく俺を解放して、木目調のイスに腰を下ろした。俺も習って、反対側のイスに座る。


「じゃあ、とりあえず俺とかまぼこしよっか」


「実は……」


この子のスルースキル半端無ぇ!太刀打ちできねぇ!


綾ちゃんはテーブルに両肘を立てて、顔の前に組んだ指で表情を隠しながら、ぽつりぽつりと話し出した。



「――最近、海君の様子がおかしいんです」


「というと?」


「なんか落ち着かないっていうか……。上の空だなーって思うと、急にアワアワしだしたり」


「ああ、そりゃ浮気だね」


「この前も女の子しか行かないような雑貨屋をじっと見てたり」


「もう決まりだね」


「女の子しか見ないような雑誌をふと手に取ったり」


「あれ?これ俺シカトされてる?」


「どうしたの?って聞いても慌ててごまかすんです」


「ああされてるねこれ。多分『かまぼこしよっか』辺りからもう俺居ないことなってるね」


「これ、どう思います?マスター」


「ふむ、そうだねぇ……」


と、いつの間にか、マスターがテーブルの前に立っていた。


俺、もう帰っていいかな?帰って亀の亀吉さんといっぱぁーいお話しするんだ♪


マスターは持っていたトレイから、アイスティーとコーヒーをテーブルに置いてから、人差し指を立てた。


「やっぱり、これは浮気の線が強いね!」


「ああ、どうしよう……。誰かに相談してみようかな……」


マスターもスルーされた!ていうかもう綾ちゃん1人の設定になっちゃったよ!それだと1人でブツブツ言ってるなんか痛い子になるからね!


……多分、浮気って単語を拒絶してるんだろう。綾ちゃんも結構混乱してるな……。


「……まあ、海に限って浮気は無いと思うけど。あいつ一途だし」


俺の言葉を聞いた瞬間、綾ちゃんは暗く俯いていた顔を上げ。ぱあっと見る見る明るくなった。


「でっ、ですよね~!まさか海君に限ってそんな!……でも……」


再び俯く綾ちゃん。なんかぶつぶつ言い始めた。


「もし……浮気……たら……耳……いらな……」


「まままますたたー、たー。今日のおすすすなにに?」


「きょ今日のおすすすはデミオムライスだよおいしいよ」


「……はがして……あしも……」


「はあーそっかそかー。てていうか毎日それお勧めじゃねへへぇ?」


「だよねー。今日すごいいいお天気だよねーおいしいよ」


がしっとマスターの肩を掴んで、俺の激情を叫ぶ。


「おいしくねえよどうすんだよこれ!お願い助けて!俺を過去にタイムリープさせて!(小声)」


マスターは冷や汗を掻きながらも、俺に負けじと声を張り上げる。


「無理だよ!無理無理!僕には良い葬儀屋さんを紹介することぐらいしかできないよ!(ささやき)」


「それもう全部終わってんじゃねーか!完全にバットエンドじゃねーか!ていうかマスターも話聞いたからね!よろしくな、相棒!(虫の声)」


「いや聞いてないね!基本お客さんの話はシャットダウンしてるから!私はね、心に一つの耳栓を持っているんだ」


「別にカッコ良くねーんだよ!耳栓一個じゃ片方だだ漏れじゃねーか!つーかシャットダウンしてねーだろ!完全に受け答えしてただろうが!」


「私はね、心に耳栓50個はあるね」


「なんか自慢みたいになってるしストック多いなオイ!」


「政人さん?マスター?どうしたんですか?」


「「ひいっ」」


やべ……いつの間にかヒートアップしすぎた……。


「ああこれ以上お客様の邪魔をするのは良くないねじゃごゆっくり」


マスターは一言にまくし立てて、さっさとカウンターの中へ逃げていった。残されたのは俺と綾ちゃん。


ちくしょう、もうなるようになりやがれ。


「とにかく、海が浮気してんのか、してないのか。それを確かめりゃ済むんだ、色々と。だろ?」


こくりとうなずく綾ちゃん。


「てことは、その浮気の現場を確かめるのが一番だな」


手を上げて質問の意を訴える綾ちゃん。俺はうなずいて促す。


「私もそう思って、さっきまで後を追ってました。でも中々うまくいかなくて……」


「そうだな。素人じゃあそう上手くはいかない。だから……」



―――――。



「……こうして、プロの先生を呼んだ訳だ」


「なるほど……」


「ちょっと、だれがなんのプロだって?」


と、半眼で睨んでくるのは、盗聴、盗撮のプロフェッショナル、渡辺里奈。


数々の盗撮写真をザックザックと捌いてきた、その道では右に出るものは居ないとまで言われている。……様な気がする。雰囲気的に。


白いキャミソールにスカイブルーのデニムパンツ。それに明るい茶髪が良く映えて、実に若々しい。


でも、その手には若い女の子に不似合いな物がひとつ。


「で、海ッチを盗聴すれば良い訳ね?」


手に持つトランシーバーのような物をゆらゆらさせながら、平然とそんな事を口にした。


綾ちゃんは固唾を飲んでから、ゆっくりと口を開いた。


「そ、それで、どのくらいで、その……盗聴はできるの?」


盗聴という単語だけ小声になっている。綾ちゃんは盗聴することに多少抵抗があるようだ。まあそれが一般高校生として当然だろう。


「だいじょぶ!もう準備は整ってるわ!盗み聞きし放題よ!」


ウインクして舌を出し、親指をグッジョブする里奈。おまえ軽すぎだろ。これがキャリアの差か。


「政人、あんた今失礼なこと考えてたでしょ?殴るよ?」


バキッ


「そっそんなことねーよってあれ?もう殴られてる俺?」


「とにかく、盗聴器は付けたから、後は私達が10メートル以内に近づけばいいんだけど」


里奈はここに来て初めて話を聞いたわけだから、今海に盗聴器がついてるのは時系列的におか……。


おれはかんがえるのをやめた。


「とりあえず点けてみよっか。ぽちっとな」


トランシーバーぽいのから、音が聞こえ始めた。中々雑音が少ない。


「あれ?近いね」


ああ、近いから雑音が少ないのか。


綾ちゃんが顎に手を添えながら呟く。


「ここの隣は……雑貨屋」


そしてはっと顔を上げて声を荒げた。


「お人形とかが多く売ってる女の子向けの雑貨屋ですっ!」


里奈はニヤリといやらしく口角を上げる。


「くっく……これは早速尻尾をつかめそうね」


里奈、お前今一番輝いてるよ。


俺達は、自然とトランシーバーに耳を傾けていた。


『……うーん』


「何か悩んでるみたい」


「発声練習でしょ。あんま喋んないし」


「クソしてんじゃね?」


三者三様の答え。


『……くぅ』


「もしかして女の子の店に居るのが嫌なのかな」


「クの発音練習じゃない?無口だし」


「踏ん張ってんだよ」


うお、二人に睨まれた……。ていうか里奈も何気にひどいぞ。


『す、すいません、これください』


「あ、何か買った!」


「あ~あ、せっかく発音練習したのにどもってんじゃん」


「気にする所そこ!?」


『こちらでよろしいですか?……はい……プレゼント用ですか……はい……』


トランシーバーの向こうでは、さくさく買い物が進んでゆく。


ていうか読めてきたぞ。いや、最初から薄々感づいてはいたけど。


俺は、未だ盗聴機の音に、真剣な表情で耳を傾ける綾ちゃんに声をかける。


「綾ちゃん、つかぬ事を聞くが、君の誕生日はいつだい?」


「……え?えっと、八月の八日です、けど……あれ?」


今、八月七日。


「じゃあこれ、普通に綾にじゃないの?」


きょとんとした綾ちゃんに、里奈は呆れ顔だ。


『……有難う御座いましたー……』


「え、え、でも、あれ?」


「はいはいごちそうさま。政人もごちそうさま」


「んまあ、一応確認のために海に会っとくか」


そういって立ち上がる俺達。まだ状況に着いて来れてない綾ちゃんは、里奈が無理やり立たせる。


会計の時、マスターは心底安堵した表情だった。ってあれ?おい誰だデミオムライス頼んだ奴。


会計を済ませ店を出た矢先、すぐに海と出くわした。海の手にはとってもファンシーな包み紙が。


「ん……?政人、奇遇だな。……渡辺。……綾?」


俺と里奈はニヤつきながら海に近づく。そして二人してわき腹を小突いた。俺は割と本気で。綾ちゃんはというと、さっきと同じように俯いていた。でも、今度は恥じらい的な意味合いで、だ。


「このこの~。その手に持ってるもんなんだよ~」


里奈は海を小突きながら、からかい口調で話しかける。俺はひたすら小突く!小突く!小突く!


「ぐはぁっ!えっ?いっいや!これは……」


「誕生日プレゼントなんだろ?綾ちゃんの」


「プレゼント用で女の子物なんだからバレバレだって!」


綾ちゃんは無言で海を上目遣いに見つめている。恥じらいと、期待を込めた眼差しで。はいはいよかったねハッピーエンドだよこんちくしょう。



「いや……これは違う……」



…………え?


うん、え?


「まったまた~!照れんなよ!」


「そ、そうだよ~!もう隠さないで渡しちゃいなって!」


海は気まずそうに目を伏せる。


「いや、これは綾のじゃないんだ」


そして、今度こそはっきりと言った。


「……悪い」


その途端、綾ちゃんは堰を切ったように走り出す。


「あっ、綾!」


あまりの行動に、俺達は反応が一歩遅れてしまう。思わず出したのであろう海の手は、綾ちゃんの走り去る方へ向けられたまま、行き場が無くなっていた。


「これは、まさかね……」


さすがの里奈も困惑顔だ。


「本当にまさかだな……」


途中まで順風満帆だったのに……。やっぱり海、テメーはコメディークラッシャーだな。お前がちょろっと出てきただけですぐにこれですよ。


人込みに紛れ、完全に綾ちゃんの後姿が消えたとき、海の手は力無く下ろされた。





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