第37話 亀吉さん奮闘記・番外編
今回は亀吉さん視点の物語です。政人が『30話記念パーティー』に出かけている間のお話です。亀吉さん視点というネタの提案は4&4K先生がしてくれました。この場を借りて感謝致します。では、どうぞ!
私は亀である。名は亀吉さんだ。
時刻は昼時。
「じゃ、行ってくるぜ、亀吉さん」
うむ、行ってこい。
政人は今日から『さんじゅうわきねんぱぁてい』の為に、旅館に一泊二日するらしい。よくわからないが。
玄関の扉が開き、そして閉まる音が聞こえると、この部屋にいるのは私だけになった。
私の2日分の食物は魚肉ソーセージ10本。政人め、全てを水槽にブチ込みおって……。
まぁいい、この静寂をゆるやかに堪能するか。
私は今いる砂利から水中に移動して、首だけ出し、のんびりとしていた。
カリッカリッ
ん、なんだ?この音は。
私は音のする、窓の方を見る。
そこには猫が手摺りに乗り、必死に窓を開けようとしている。
フッ……阿呆が。開いている筈がなかろう。政人とてそこまで抜けては……
ガラ
開いたァァァァァ!?
バカッ!政人のバカッ!そして政人を信じた私のバカッ!
猫は開いた窓から部屋に飛び降り、キョロキョロとしている。
風貌は全身黒。首輪が無いとなると野良か。野性はかなり荒っぽいだろう……。
猫はふと、私のいる水槽を見つめた。
すると、器用に水槽のフタの上に乗り、今度はフタを引っ掻き始めた。
もしや……この魚肉ソーセージが欲しいのか……?
フッ、必死になりおって……開くワケがあるまい。滑稽じゃな。フハ、フハ、フハハハハハ!
ガタン
開いたァァァァァ!?
ストッ
入ったァァァァァ!?
私の体長の20倍はあろうかと思うくらいの大きさ。猫は魚肉ソーセージを加え、遠慮も無しに食べ始める。
やめっやめてぇぇぇぇ!!私の魚肉ソーセージ!
猫はもう5本目だ。止まることを知らぬのか!止まることを知らない青春パワーか!
猫が食べる事をやめ、私を見つめる。
あ。私死んだ。
猫は何を思ったのか、私をくわえ、水槽から飛び出した。
そして窓の外の手摺りに移動する。
やめ、やめろ!私は美味くないぞ!
「ペッ」
こっ、ここで捨てるなぁぁぁぁ!
ごつん、とアスファルトに背中から落下し、甲羅に衝撃が走った。
しかし甲羅は強かった。どうやら傷一つ付いていない……と思う。背中は見えないからな、うん。
なんとかクルッと回転して、私は四つんばいになった。
周りを見渡す。どうやら外に出てきてしまったようだ。
私の任務は政人の自宅へ戻る事。
ふ、気分はアレだな。政人がいつしか見ていた『みっしょんいんぽっしぼぅ』だな。
私の頭にあのテーマソングが流れる。
私は任務開始の第一歩を踏み出し……
「あ、カメさんだあっ!」
え……?
私の頭上にはランドセルを背負った幼い人間の女。
「ママーッ!カメさんだよー!」
そいつはそう言うと、私をひょいと持ち上げ、もう一人の人間の女に駆け寄った。
ママと呼ばれたその女は、心底呆れた表情をする。
「もう、どこで拾ってきたの!ポイしなさい、ポイ!」
うむ、その意見には私も賛成だ。女子よ、早く降ろしてくれ。
「うんっ!わかった!」
女子は私を右手に持ち、腰をひねり、片足を大きくあげた。
まっ、待て!その本格的なフォームでどうポイするつもり……
「ぽぉぉぉぉぉいぃぃぃ!!」
遠投しやがったぁぁぁ!
私は電信柱より上まで高く飛ばされた。
まずい!この高さでは甲羅もさすがに……
重力に従い、私の体は地面へと引き込まれていく。
うわぁぁぁぁぁ!
ぽて……
……へ?
私は状況を確認する。
落ちた場所は……電信柱の天辺だった。
―――――。
うぅ……死ぬ……。
日は沈み、そして昇り、太陽は真上に位置している。
あれから私は、為す術もなく電信柱の天辺で立往生していた。
甲羅はカラカラに日枯らび、喉の渇きも限界に近い。
私はこんな変な所で事切れるのか……。
人生を諦めかけ、思い出が走馬灯のように駆け巡った時、見慣れた人物が目に入った。
「マッ、マッ、政人ぉぉぉぉぉ!」
電信柱の真下に、一泊二日から帰ってきた政人の姿があった。
名前を呼ばれ、不思議そうに周囲を見回している。
飛び降りるなら今しかない……。政人の頭に丁度よく落ちれば甲羅は割れないかもしれないし、政人が私の姿を見て家に送ってくれるかもしれん。
政人は小首を傾げ、ゆっくりと歩きだした。
行くしかない……。
「とうっ!」
政人の歩く速度。風の流れ。落下地点は……頭!
政人の頭が近付いてくる。
政人は立ち止まった。
なっ、なぜ止まるぅぅぅ!
―――――。
あっ、くしゃみ出そう……
「ぶぇっくしょーい!ちくしょっ!」
ゴンッ
「……ん?」
目の前に何かが落下してきた。こいつは……
「亀吉さん……?」
―――――。
俺はアパートに帰り、なぜか俺の目の前に落下してきた亀吉さんを水槽に戻した。……あれっ?なんで窓が開いてんだ?
俺は荷物を降ろし、半開きの窓を閉めた。
「政人……」
背後から掛かる声。
うわぁー。また喋ってるよー。しかも片言じゃねー。
「……なんでしょうか?」
俺は水槽に近付き、いつもと違う雰囲気の亀吉さんを見つめた。
「……貴様には色々言いたいことがあるが……まぁそれはいいだろう」
「はぁ、そうっすか」
「だがこれだけは言っておく。貴様は亀吉さん亀吉さんといつも言っているが……」
俺と亀吉さんの間に流れる沈黙。
「……私はメスだ」
「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
おしまい☆
内田友基。身長163。体重60。オレンジの短髪に無理矢理パーマをかけている。奥二重で鋭い瞳。豆乳ラヴ。……こんな感じですかね。一言で言うなら喧嘩ッ早いチビです。今後ハルとどうなってしまうのか……。お楽しみに(笑)