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第34話 男は口で語らず、ピンポンで語る

風呂を出た後、娯楽コーナーに行ってみると、他の男達が浴衣姿でまったりとしていた。

海と充は卓球で勝負をしていて、克也はそれを椅子に座りながら眺めている。



「……どうだったんだ?」


俺達が着いた途端、克也が近寄り、小声で聞いてくる。


「いやぁ、姿は見えなかったんだけどさ、かほりが凄かったね。な?友基?」


「ああ、かほりがたまんねんだ。かほりがよ?」


「か、かほり……」


克也が生唾を飲むのと、後ろで充がうなだれた声を出したのは同時だった。


「あ〜……負けちゃった……」


「アンタ、中々筋が良い。その腕なら政人に余裕で勝てるな」


うんうん、こいつはいつでも俺を挑発さ。


「海テメー、俺がピンポンを教えてやったことを忘れたのか?ああ?」


「違うな、教えたのは俺だ。あれはたしか、おまえがやっとオムツを卒業した頃だった。あの時アンタが高熱を出して、それはそれは大変だったよ」


「なんの話!?しかもおまえって俺のなに!?」


「フッ……なら賭けでもするか」


「ならってなに!?『なら』って今までの会話の流れ的におかしくない!?」


「いえ、政人さん。いいんですよ。今のは『おまえの親父さん会社員?』『いや、大工だよ』『へぇ、じゃあマイホームとか自分で建てれるんだ?』『ああ、そうだよ。じゃあ湘南行くか』みたいな感じじゃないですか。すごく自然な流れですよ」


「いいんでないしセリフ長いし例文の流れがまず不自然だしおまえなんでこのタイミングで会話に混ざったの!?」


あ、もうやめよ。収拾つかねぇや。


「ま、要は賭けすりゃいいんだろ?じゃあ俺が勝ったら、おまえが指をパッチンパッチン鳴らしながら気分はアカペラの人で、綾ちゃんに『俺メインコーラスで、おまえはシンバルな!口で音出せよ』って言う!よし、決まり!」


「なっっっ!」


フッ、こんな罰ゲーム、俺しか思いつかねぇよ?


海はかなり嫌そうな顔をしている。と、そこへ友基が含んだ笑いを俺に見せながら、海に近付き耳打ちをした。


ま、友基が何を吹き込もうと、俺以上の罰ゲームはないだろ。はっ、ちょろいちょろい。


「……俺が勝ったら……政人が……さくらに……告白する……?」


「はっ、ちょろいちょろぉぉぉぉぉぉぉい!?」


なっ!俺が、さくらに、告白!?


俺がさ、くらに告、白!?


俺の反応を見た海が、納得したようにうなずいている。ふと気付いて周りを見ると、克也と充も同じような反応だ。


「さ、始めるか」


「いやいやいや!待てって!」


「政人、そうだったのか」


「いやいやいや!おかしいって!」


「頑張ってください海さん!政人さんはその後に頑張ってください!」


「おませなロリボーイ!少しお口をチャックしな!」


「まあ勝てば良いんだし?つーか逃げんの?こんだけ引っ張っといてそれは無いよな〜!」


「…………」


……やってやるよ。やるしかねぇんだろ?


「ちくしょうっ!テメーなんか寝起きにプリン食べて、いつもはおいしいのにやっぱり寝起きだと食う気しねーなぁーでもやっぱカラメルソースうめぇーくらいの勢いで圧勝してやる!」



―――――。



「……デュース」


充のこの言葉を、俺は何回聞いたんだろう。


俺は風呂上がりにも関わらず、大量の汗をかいていた。

卓球台を挟んで正面に立つ海も、俺と同じくらいの疲労を感じさせる。


「そろそろ……決めるぞ」


海は手に持つピンポン玉を頭上に放り投げ、重力によって落ちてきたそれを、渾身の力で打ち込んだ。

玉は海側のコートでワンバウンド。低い弾道を保ちながら、こちらの台の隅ギリギリに落ちる。


あまりにも速すぎる玉を、俺は受け身で打つことが精一杯だった。


強く打ち込めなかった玉は、緩やかな曲線を描きながら、ゆっくりとネット向こうに落ちる。それを見逃す海じゃない。


「シッ!」


浅く速く吐き出された息と同時に、海は宙に浮く玉目がけ、ラケットを振り込んだ。


シェイクのラバーが、玉に食い付く。


それによって生まれる回転。


玉の上をかすめる様に打った海は、勝利を確信したのか笑みを浮かべる。


俺のコートの中央に高速で回転している玉が落ちた瞬間、その回転によって、台の上を滑るように玉はこちに向かってくる。


「くっ」


そう言った時には、すでに玉は俺の横を擦り抜けていた。


後ろの壁に当たり、軽い音を出しながらバウンドするピンポン玉。


「マッチポイント。海さん」


「おまえ本格的すぎんだろ……」


椅子に座って見ている克也と友基も、目をパチクリさせている。


「フッ……アンタは負けるんだよ」


海は嘲るような視線を俺に送る。もう卓球じゃなくて喧嘩でケリを着けたい。


俺はそんな思いを胸に留め、床に転がるピンポン玉を拾い上げる。


「見せてやるぜ……俺の必殺技を……」


俺は玉を左手に持ち、態勢を低くして構える。


「……フッ……必殺?上等だ、やってみ」

「あっ、綾さん!こんちゃーーっす!」


「なっ!?」


パコン!




「……デュース」


「やったぁぁぁ!」


「綾なんていねぇじゃねぇか!」


「え?綾ちゃんじゃないよ?綾さんだもん。綾さんはここら辺一帯を締める伝説のヘッドだぜ?」


「テメー!」


海はラケットを放り投げ、俺の胸倉を掴む。なんか予想以上にビビったらしい。


「ついていい嘘とついちゃいけねー嘘ってもんが」

「あ……綾ちゃん」


綾ちゃんは海の後ろで、俺の胸ぐらを掴む海を睨み付けている。


「アンタ俺が何回も騙されると思ってんのか?綾なんて恐くもなんともねぇんだよ!」


「ふーん、なんともないんだ?」


その声に、海が一瞬固まる。ゆっくり振り向き、綾ちゃんの姿を確認すると、顔面がみるみる青ざめていった。


「どういうふうになんともないのか、あっちで教えて貰おうかしら?」


「え、いや、あのね、そのね……」


綾ちゃんは海の首根っ子を掴んで、どこかに消えていった。


気付くと、ハルと満が向こうから歩いてくる。二人とも風呂上がりらしい。


「皆さんご飯ですよ!」


満が濡れた艶やかな金髪を揺らしながら、こちらにうれしそうにやってくる。


「夕飯はボク達の部屋で食べるんだよ」


ハルは……風呂上がりでもあんま変わんないな。ショートカットだし。


「よっしゃぁぁぁ!メシじゃぁぁぁ!!ハルちゃん食べあいっこしようね!」

「いや、しねーよ」


「わーいっ、ご飯ご飯!」


「こら、充。走ると危ないぞ」


……どうやら罰ゲームの事はみんな忘れたらしいな。


「政人さん、どうしたんですか?早く行きましょう?」


立ち止まり、俯いていた俺を、満が覗き込んでくる。


「おう、わかった」


俺はみんなが歩いている所へ、満と早歩きでついていった。


追い付くと、ハルに抱きついては殴られ、抱きついては殴られていた友基が俺の方を向く。


「あ、政人。引き分けだから二人とも罰ゲームな」


「……え?」


「うん、それが妥当だな」


克也も納得したようにうなずいている。


「え、罰ゲームってなに?」


ハルが後ろを歩く俺に振り向き、さも不思議そうな顔をする。


「ハルちゃん、それがね。こいつがさくらに」


ゴンッッッ


「はぁぁぁぁ……てっ、テメー政人!」


「うるせぇ!みんなに言う事じゃねーだろうが」


「なんだと!ってか俺はハルちゃんに殴られるのは認めるけど、テメーに殴られんのは気に入らねーんだよ!ねー、ハルちゃん!」


ギュッ


「しつこい!」


バキッ


「……ね?」


村上綾。身長160。体重44。海の中学3年からの幼なじみ。成績優秀、容姿端麗。腰に掛かるほどの黒い艶やかな髪。性格よし。……完璧ですね。たまらんですね。実は、最初は政人とくっつけようとしたんですが、なんだか成り行きで海とくっついてしまいました。政人かわいそう(笑)最近は海に暴力三昧みたいですね。海かわいそう。

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