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第30話 俺は何も知らない俺は何も知らない、俺は何も知らナイダヨ……

……ん?


よっしゃぁぁぁ!今回も俺視点!


俺は自然公園から歩くこと20分。ようやく目当ての家の前まで来た。


門を開け、未だに流れる血を押さえながら、インターホンを連打する。


「さぁぁくらちゃん!あっそびぃましょっ!」


その刹那、扉が勢い良く開いたかと思うと、気付いたら俺の大事な大事なデリケートゾーンに蹴りが飛んできていた。


「あはぁぁぁぁっ!?」


「うるさいっ!何時だと思ってんのっ!?」


俺は膝を付き、股間を押さえながら、目の前に仁王立ちしている人物を見上げた。


背中を少し隠す程度の、赤みがかった綺麗なセミロングの髪を、今はダックカールで後ろにまとめている。

顔は透き通るような白い肌に、目付きが鋭い……のは今だけか。いつもは可愛いのに今はただひたすら恐い。体は……うんうん、2年前と比べると成長したな!おじさんは嬉しいぞ!


「さくら、久しぶりだな!おじさんは嬉しいぞ!」


「おじさんの知り合いなんて私は……友基?え……友基なのっ?」


さくらは俺に駆け寄り、俺の顔を間近で確認する。


何コイツ、俺とチュウしたいの?いた仕方ない……いや、かたじけない。


ん〜〜……


「え……きゃあ!」


バキッ


え……?バキッ……?パチンならわかるけどバキッ……?


さくらが俺を揺さ振る振動を感じながら、俺は意識を手放した。



―――――。



「アレは、友基が口を近付けるからでしょっ?」


さくらが俺の傷口を消毒しながら抗議する。


「それにしたって、2年振りの再会で、のっけから蹴りかまして最後に殴って相手を落とすって……これどうよ?」


「乙女の家にアポなしで来ておじさんは嬉しいぞとか意味わかんない事言ってしまいにはキスを迫って……これはどうなの?」


俺は頭に包帯を巻かれながら、反論できなくなってしまった。


「まったく……それでも手当てをする私って、天使?」


「は?天使?おまえいかれてんな」


「できたよバカヤロウ!」


バチーン!


「あはぁぁぁぁ!?」


こ、こいつ、俺の頭を……。


「ふう、久しぶりに手当てしたら、なんか疲れちゃったなぁ」


さくらはそう言いながら、キッチンへと入っていった。あ、ちなみにここはリビングね。


さくらの両親は仕事が忙しいだのなんだので、ほとんど家に居ないらしい。さくらは一人っ子だから、家には俺とさくらだけだ。

……って、こんな事言うと、とっても素敵なシチュエーションに聞こえるが、そういう雰囲気には全くならないぞ。いやなりたくねーな。アレは完璧な恋愛対象外だ。


クリーム色のソファに深く腰掛けながらそんな考えていると、芳ばしい薫りが鼻をくすぐってくる。


この匂いは……。


「さくらー!俺は砂糖3つだからな!」


こいつの家はダイニングキッチンだ。だから、キッチンに立ってるさくらがみえるので、それに話し掛ける。


「わかった!佐藤さんが3つねっ!」


「だれ佐藤さん!?その人コーヒーカップの中入るの!?まず人間じゃねーな!」


さくらはコーヒーカップを2つ持ってリビングに戻ってきた。適当にソファに腰掛けると、1つを俺に寄こす。


「はい、佐藤さん3つ」


「入れちゃった!?可哀相な佐藤さん!きっと佐藤さんは35歳の妻子持ち、長男まさるが小学校に入学したてで、入り用だからお父さん頑張っちゃうぞ!って。髪が薄くなりはじめて上司にもいびられ医者にも糖の摂り過ぎと宣告されてもお父さん頑張っちゃうぞ!って!ねぇ!頑張ろう!?」


立ち上がって熱弁する俺に、さくらはコーヒーを一口飲んでから答える。


「砂糖だよ」


「はあっはあっ……うん、そっか……」


俺はソファに再び腰を降ろし、コーヒーをすすった。うん、甘い。さすが砂糖さん。……佐藤さんじゃないよ?


俺は呑気にコーヒーをすすっているさくらを見る。こいつと思い出話に花を咲かせる前に、聞きたいことがあった。


「おまえ、政人と会ってねーの?」


質問が唐突過ぎたのか、さくらは『むぐっ』と奇声を発した後に、口に手を添えながら、激しくむせている。


「なっ……なんで」


さくらはその言葉を絞りだすように言った。その後、咳も治まってきた所で、平静を装うように、再びコーヒーを喉に運ぶ。


「いや、別に、なんとなく。だっておまえら付き合ってんじゃねーの?」


「かはっ」


……大丈夫?


と、心の中で言いながら、俺はさくらが呼吸困難気味な姿を傍観していた。

二度目の咳もやっと治まり、さくらは喉を押さえながら苦しそうに喋る。


「付き合ってなんて……ナイダヨッ!」


「ふーん。会ってもナイダノ?」


「う……うん、会ってもナイダヨ……」


……あ、なんだろうこの雰囲気。俺もしかしてやっちゃった?


さくらは膝に、手を強く握り締めながら置き、少し俯いている。


「い、いや、だっておまえら、なんか約束してたじゃんっ!?会って話せばいいだけだろっ?」


不自然に明るく振る舞うが、さくらはまったく姿勢を変えない。……どころか、更に表情を暗くさせた。


「だって……もし、政人が約束を忘れてたら……?言ったら……全部、無くなっちゃいそうなんだもん……」


やばいやばいやばい……。帰りたい。どうしよう、俺、帰りたいよ。この雰囲気に耐えられないよ。


…………帰ろう!


「大丈夫!俺も帰ってきたんだし、ちょっとくらいは手伝ってやんから!あっ、やっべー!家にいるゴキブリにエサやる時間だ!それじゃっ!」


俺は立ち上がり、有無を言わさずに玄関へと走った。玄関で靴を中々履けず、もどかしい。


くそっ、ティンバーなんて履いてこなきゃよかった……!


「友基」


背中から声がする。思わず背筋を伸ばして、ゆっくりと振り向く。さくらはリビングへの入り口に立っていた。表情はまだ晴れていない。


「……ありがとう。その時になったら手伝ってもらうね」


遠慮気味にほほ笑み、少し晴れた表情で、俺を頼る様に見つめる。


言わなきゃよかった……。断れ友基!おまえにゃ無理だ!いまなら間に合うって!


俺は丁重にお断わりすべく、口を開いた。



「ああ、まかせろって!」



―――――。



「……とか言っちゃいました……」


翌日の昼。昨日と全く同じ所でタバコをふかす。今の俺の心情には、自己嫌悪、という言葉がよく当てはまる。


部屋に充満した煙を見つめながらも、換気する気力さえ起きない。灰皿にある吸い殻も、昨日から捨てていないので、山のように……なんて比喩じゃ生易しいな。もうエベレストだ。

俺はエベレストの頂上に、うまく灰を落とす。


突然、アパートのインターホンが鳴り響く。俺はその音に驚き、腕がエベレストに当たってしまった。


崩れゆくエベレスト。俺は為す術も無く、それを見ているしかなかった。


「あー、くそっ。誰だよ……」


俺は怒りを覚えながら、床を強く踏みしめ、玄関に向かうと、扉を強引に開けた。


そこに立つ人物に思わず昨日の事を思い出し、少し動揺してしまう。


「ま、まさてぃー」


「何そのあだ名!センスわりーよ!」


政人は何も知らずに、いつものテンションで突っ込む。


こいつは、まぁよくものうのうと……。


「何の用だよ?俺は今色々あったり豆乳のストック切れてたりでイラついてんだよ」


「……おまえは相変わらずだな。でもぉ、そんな態度取っていいのかなぁ〜?」


政人はニヤつきながら、両手に持つビニール袋を掲げる。


「そ、それは」


一つは豆乳1リットルサイズ。俺は心踊った。

てか踊った。


もう一つは俺の大好きな弁当屋、『けせらせ・ら』の高級ステーキ弁当だった。俺は舌なめずりしつつ、踊った。

てか疲れてきた。


最後に、政人が手に持っている、俺の吸う銘柄『マールボロ・メンソール博士』。俺はゼイゼイ言った。

もう体力の限界だった。


「は、入って……」


政人はいつもの呆れた表情を浮かべながら、俺のアパートへと入った。


俺は元いた場所へと戻り、腰を降ろす。政人も適当な所に座った。


「うわっ、おまえ何これ?」


政人は灰皿を指差す。灰皿の辺りは吸い殻と灰でいっぱいだ。


「は?どう見てもエベレストだろ」


「どこをどう見れば!?」


政人はため息をつきながら、散らばった吸い殻を片付ける。


「聞いたぜ?海とケンカしたって」


……そうだっけ?ああ、そうだった。俺は氷室がうざいんだったよ。だから停学なんじゃん。


「その包帯もその時のケンカ傷なのか?」


……そうだっけ?いや、そうじゃねぇ。


「これはクロ……」


クロス狩りの事は言わないほうがいいな……。こんな問題、俺一人で十分だ。


「クロ?」


「あ、いや、クロ〇コ大和の宅急便さんに一歩前に行かれてよ、そしたらこのザマさ」


「なにがどうなれば!?」


吸い殻を片付け終わった政人は、俺に弁当と豆乳を投げて寄こしてくる。


「ほらよ。ありがたく頂戴しろ」


「おおっ、ありがたく頂戴する!」


俺は弁当を開けて、無心で貪った。



…………。



…………。



……

「おい」


政人は自分の弁当を食べながら、呆れた表情で俺を見ている。


「ふぇ?ふぁひ?」


「無心で食うのはやめろよ……」


……ああ、物語が進まないってやつね。


「大丈夫、もう食ったから」


俺は空になった弁当を投げ捨て、豆乳を口に残っているステーキと一緒に、喉に流し込んだ。


「っぷはー!で、なんで来たの?」


「唐突すぎない!?」


「物語をすすめなきゃだからな」


「……いや、まあ、な。まだおまえらケンカしてんのかな、と」


まだ言ってんのか……。


「言ったべ?俺ァあいつがウゼーって。なんでおまえ、そこまでこだわんだよ?あいつの良さがわかんねぇ」


「いや、あいつだって良いところはあるよ?それに仲間なんだし」


「仲間?はっ、ざけんな」


俺はその言葉を嘲笑しながら、政人からもらったタバコから、それを一本取り出し、デュポンで火を付ける。


「ん?おまえデュポンなんて……あれ?」


政人は俺がタバコに火を付ける姿を見ながら、固まっていた。


「あ?なんだよ。タバコに火を付ける俺ってそんなに渋い?そうだろう?うんうん」


「そのデュポン……海のじゃん」


「え……」


俺は口にくわえたタバコを落としそうになった。


「うん、間違いない。この黒い大理石に銀のフレーム。なんでおまえが持ってんの?」


「え、いや……うん!そういう事だ!さっ、俺様に食物を献上するのは済んだんだ。ほら、帰った帰った」


俺は弁当を両手に持つ政人の背中を押して、玄関へと促す。


「どういう事だよ!しかも、献上っ?ふざけ……!おまっ……ちょっ……」


バタン


政人を追いやった俺は、玄関の扉に背を預けながら、手に持つデュポンを眺めた。


「これは氷室の……じゃああの時、俺を助けたのは…………やべっ」


俺は体ごと振り返って、急いでドアノブに手を掛けて押した。


「まさっ……と。……いねぇ」


さくらの事聞くの忘れちまった……。いや、それより今は……。


俺は再びデュポンを眺める。



手に持つデュポンが、なんだか暖かく思えた。



人物設定!まずは主人公、斎藤政人!パチパチパチ!身長177、体重68。無造作に伸ばした茶髪は目にかかるが、ワックスで適当にあしらっている。やる気の無い目。面倒事が嫌いで事無かれ主義だが、いつも事になる。ナルシストのボケ役……でしたが、作者は気付いたのです。『こいつ一人じゃ何もできねぇ』と!1話あたりを読めばわかりますが、一人だとかなりグダグダです。……ええ、変えましたとも。初期設定なんて関係ねぇっすよ!それと共にナルシストも消えました。まあ、要所要所で眠れるナルシスト魂を発揮しますが(笑)――NEXT・柏木克也

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