第3話 むかーしむかし、ボクは不良でした。
笑える所はあまりありません。
「これのセット下さい」
俺はメニューを指差しながら言った
「はい!かしこまりました。コレノセット入りまーす!」
「…あの、コレノセットじゃなくて」
「2500円になりまーす!」
「高っっ!だからコレノセットじゃなくて……」
「2800円になりまーす!」
「えっ!?なんでちょっと高くなったの!?」
「じゃあ3100円になりまーす!」
「じゃあってなんだよ!!」
俺は駅前のハンバーガー屋、“ハン・バーガー”にいる。
コレノセットは、結局かった。後ろの並んでる人の視線が痛かったからだ。
うふふ。いつか訴えてやる……。法律の恐ろしさを知るがいい。
そんなことを考えながら、俺は二階に上がり、窓際の席に座った。
壁掛時計に目をやると、約束の時間の三十分前だった。
早く来過ぎたな…。
今日は日曜日。昨日の天気とは、打って変わっていい天気だ。
外を見ながら、約束した人物がいないかキョロキョロしていた。
早くこないかなぁ……。
俺が待っている人物とは、ふっふっふっ……そう、綾ちゃんだ!
今日の朝電話があって、遊ばないか、と言うことを言われ、俺は即答した。
「さいっ!」
と。
突然の誘いに焦りすぎて、“はい”と言おうとしたのに、“さい”と元気よく叫んでしまったのだ。
………。忘れよう。
まあ、と言うわけで今日は綾ちゃんとデートなのです。
俺が外を見ながらそわそわしていると、聞き慣れた声がした。
「政人じゃん!偶然だね。」
里奈の声が。
ああ、空耳だな…。きっとそうだ。いや、そうであってください…。
「何ぶつぶつ言ってんの?」
そういって、里奈は俺の正面の席に座った。
はぁぁ…現実か…。
今、綾ちゃんが来たら、確実にこいつは大騒ぎするだろう。そして、綾ちゃんに俺のある事無い事吹き込むだろう。
こいつをどこかにやらなければ……。
「ワタシ政人アリマセーン!ワタシボブデース!ドッカイッテクダサーイ!ドッカイッテクダサーイ!ドッカイッテへぶっ」
「うるさい。」
「はい。」
「で?政人は一人で何やってんの?」
「いっいいいや、ななになになにもやってへん!なにもやってんへんよ!」
「凄い動揺してるね。気になるじゃない。もしやデート?」
「そっそんなわけっ無いにきまってるじじゃん↑?」
「本当にー?」
「そうだよっ!ホントだよっ?ボブウソツカナイ!」
「ふーん、まあどーでもいいや!政人が死のうが何しようが私には全く関係ないしね。」
ひでぇな、おい。
「あのー…。」
うーん、正に時間ぴったりだね!綾ちゃん。
おぢさん泣きたくなっちゃう……
里奈は綾ちゃんと、しばらく見つめ会ったあと、ゆっくりと俺の方に振り向いた。
「…ボブ、ウソツイタネ…?」
「…こっ…殺される…!?…ひゃっ………!」
バキッ
――――――。
「いやぁ、綾と政人が知り合いだったなんてねぇ。」
「私もびっくりしたよ。里奈と政人さんが知り合いだなんて。」
俺達は今、駅前の商店街をプラプラ歩いてる。
二人は、同じクラスで一年生からの友達らしい。
あっ、今俺達は二年生ね。
結局、里奈はついてきた。くそっ、綾ちゃんとの二人きりのデートだったのに。
「…暴力女。」
「なんか言った?」
「いや、拘束された女が目の前にいたらなぁーってさ。」
「変態。」
ううっ…。くそっ。
いつか殺ってやる…。
綾ちゃんは、楽しそうに里奈と会話をしている。
ふう、まあいいか。綾ちゃんが楽しそうなら。
俺は二人を眺めなから、ボーッとしていた。
「……って言う事で、どう?」
「いいね!行こう行こう!」
「えっ?何が?」
「もう。何も聞いてなかったの?映画でも行かないって話してたの!」
「ふーん、いいんじゃねぇ?」
「やったー!綾。映画代は政人持ちだって!」
「いや、俺何も……」
「ホントですか!?ありがとうごさいます!」
「えっ?うっうん!女の子に金を出させるわけにはいかないからね!」
「よし!じゃあ映画館へしゅっぱーつ!」
「おーぅ!」
「おっ…おーう……」
かっ金が……しどい…。
―――――。
映画館に着くと、結構混んでいた。日曜日だからな。
「さて、何見ようか?」
「あっこれなんかどう?“メソポタニア文明”。」
おいおい。渋いな。
「これは?“稲の刈り方”。」
渋すぎるぞ!そんなの見る奴いんのか?
「それ私見たよ!」
いたよ!見た奴!
「凄い感動するよ!」
しかも感動系!?
稲の刈り方見て感動すんのかよ……。
「じゃあこれは?ホラーだって。“おばあさんの夜の営み”。」
「きゃー!恐そー!」
確かに。違う意味で。
「じゃ、これにする?」
やめとけよ!そんなの見た日にゃあ、人格障害をおこしかねねぇ!
「違うのにしようぜ?ほら、これは?“ファイナルアンサー〜私とあなたと住宅ローン〜”………て、映画化されてるよ!!」
「いいですね!それ!」
「よし!それにしよう!」
「いや…俺はやめとくよ……」
俺は二人にチケットを買い、外で待ってると告げ、映画館を後にした。
「ったく、なんなんだ?あの映画館は…。」
俺は、近くのベンチに座り、煙草に愛用のオイルライターで火を付け、煙を深く吸い込んだ。
ん?そうだ。俺は愛煙家だ。不良ではないがな。
不良はとうの昔に卒業した。
あの頃は、やりたい放題やってたな……。
―――――。
中学三年の頃、俺はギャンクチームに入っていた。まあ、大人の言うことなんかクソ食らえだぜー!みたいな、典型的な不良だった。
中学二年の時、克也はどこかに引っ越していった。
里奈は、一度、ギャンクチームから抜けろと言われ、大喧嘩した。
結局、決着はつかないで、俺と里奈は、その日から他人になった。
だから当時は、仲間と呼べるような奴はいなかった。
ただ、テキトーに集まって、テキトーに騒いで、テキトーに荒らしていた。
何にも楽しくなくて、何だか無性にムカついてて、ムカついた時は、そこらへんにいる奴等をボッコボコにした。
ハッパだってやっていた。今思うと、本当どーしようもないクソガキだな。
ある日、克也が帰って来た。あいつは驚いていた。
そりゃそうだろう。
俺は髪は金髪だったし、ピアスだって三個していた。服装もガラが悪かった。
でも、俺も相当驚いた。
まさか、克也が帰って来るなんて思わなかった。
克也は優等生だから絶交だーなんて言われたらどうしよう?ってな。
でも克也は、笑って、 「おまえ、服装のセンスが無いな。」
と、言ってくれた。
その日から、あまりギャンクチームと絡まなくなった。ハッパもやめた。まあ、なんとなくやってたから、やめるのに苦労はしなかったな。
里奈にも謝った。
そしたら、あいつは笑って
「じゃあそのセンスの無い服装直しなよね。」
と、言った。
俺の服装そんなにセンス無いのか……?と、ちょっと落ち込んだ。だから、B系の服装はやめる事にした。
いつもの日常が戻った。
俺が馬鹿やって、克也がつっこんで、里奈が笑ってる。
毎日が楽しく、無性にムカつくと言う事がなくなった。いつしか、俺はギャンクチームと一切関わらなくなった。
そんな時、事件は起きた。
―――――。
俺は学校の帰り、いつもと同じように克也と帰っていた。
「そう言えば、里奈の奴どうした?」
「ああ、なんか、友達と寄り道するって言ってたぞ。」
「ふーん。あ、そういえばさ!昨日のドラマ見た?」
「あの、おばあさんとイケメンホストが恋に落ちるってやつか?」
「そうそう!あのおばあさんがときめく表情がたまんないよなー!」
そんな他愛ない会話をしながら、俺は帰路に着いた。
「ただいまーっと……」
ピリリリリッピリリリリッ
携帯を取り出すと、登録されていない番号からの着信だ。
「知らない番号だな。だれだ?」
俺は携帯の通話ボタンを押した。
「はい。もしもし。」
『政人ー?久しぶりじゃん。』
「!!」
電話の声はギャンクチームの頭、西村と言う男だ。
『最近遊びに来ないじゃーん。なんでよー?』
「自分はもうチームを抜けるって言いましたけど。」
『うーん、言うだけじゃダメなんだよねー。わかるでしょー?示しがつかないってやつー。』
こいつの口調、ムカつくな。
「じゃあ、自分はどうすりゃいいんすか?」
『今からー、いつもの港の倉庫に来てよー。』
「いやです。」
『あはは、そう言うと思ってさー。政人といつも遊んでる女の子さらっちゃった。』
「はっ、うそつく……」
『政人ーっ!』
「!!」
今の声は、明らかに里奈の声だった。
『政人ーっ!早く助けにこーい!早くしないとケーキ100個奢ってもらうからなー!』
緊張感ねぇな。こいつ…。
『早く来ないとー、この子がどうなるかー、わかるでしょー?』
「ちっ、あんた、最低だな。」
『じゃあ、またねー。』
プチッ
「……クソが!」
俺は、外に飛び出て、原付バイクに乗って、キーを差し込み、アクセルを最大まで回した。
ブオォォォッッ
そして、そのままセンタースタンドを上げた。
ブオォッッガシャーンッ!
「……いたい…。」
気を取り直して、原付に乗り、フルスロットルで道路を走った。
港の倉庫に着くと、外にバイクが10台停めてある。
10人か…。これは勝てないか?
俺は倉庫の横に転がっていた鉄パイプに目をやった。
こいつを使うか……。
俺は倉庫の入り口に立ち、早鐘の様に鳴る心臓を押さえ、右手の鉄パイプを握り締め、意を決してドアを開けた。
「おらぁっ!宅配便だそ!てめぇら!」
「政人ちゃーん。いらっしゃーい。」
「政人!」
里奈は元気そうだな……。よかった…。
俺は里奈を見た。
里奈の顔は、痛々しく腫れあがり、紫色に変色していた。
「てめぇら……里奈に何をした…?」
「いやー、この子が生意気いうからさー、ちょっと数発殴っちゃった。」
その時、俺の中の何かが切れる音がした。
「政人ちゃーん。さー、今度はキミの番だよー。」
「ああ、やってみろ。やれんだったらな!」
そう言うが早いか、俺は持っていた鉄パイプを西村の腹に当てた。
「っっ!!ふ、まだまだだねー。」
!…こいつ、腹になんか入れてやがんな……
「タイマンなんて甘い事は言わないよー。みんなー、やっちゃってー。」
その瞬間、周りの奴等が俺めがけて、押し寄せてきた。
「ちっ、モテるのもつらいぜ……」
―――――。
「ハァ…ハァ…」
俺は地面に突っ伏していた。
「やっぱり政人はつよいねー。」
西村が俺の頭を踏んでくる。
クソッ、さすがに俺一人じゃ、5人が限界か…。
地面に倒れているのは、5人だけで、あとの西村を含む5人は、怪我さえしてるものの、まだピンピンしている。
「…てめぇ…俺の頭を踏んでいいのはハイヒールのお姉さんだけだ……。」
「あは、まだ余裕があるねー。その内笑えなくなってくるからねー。」
西村はそう言うと、俺の持っていた鉄パイプを取った。
「じゃあーまずは3回かなー。」
「くっ!」
西村は鉄パイプを構えると、俺の腹めがけて、振り下ろした。
「ぐあぁぁっっ!」
「うーん、いい手応えだー。」
ドゴッ
「がぁぁっ!」
俺は口に生暖かい物を感じて吐き出した。
「あれー?あばらが内蔵に刺さったかなー?すごいねー。」
「ぐっ!」
ドゴッ
「ッッッ!!」
「はーい。3かーい。もう十分かなー?」
俺はもう、腹に力が入らなかった。意識が朦朧とし始めた。
「もういいでしょ!?それ以上やったら死んじゃうよっ!」
里奈の大声が倉庫にこだました。嗚咽が聞こえる。泣いてんのか?
「……じゃ、次は女の子だー。せっかくさらったんだしねー。」
「……どうぞ?このドS!」
西村がゆっくりと里奈に近づいていく。
ちっ、里奈の奴、黙ってればいいのによ……。
俺は西村のズボンを掴んだ。
「…おい…まだ足りないぜ…?……俺はドMだからな……。」
「……………。」
西村は俺に近づくと、ゆっくり鉄パイプを振り上げた。
「うざいねー。政人ー。もういいよー、これでおしまーい。」
俺は痛みを覚悟し、目をギュッと閉じた。
……が、なかなか鉄パイプが振り下ろされない。
目を開けて、西村の顔を見上げると、違う方向を向いていた。
視線の先は倉庫の出入口だ。
「ヒーロー参上!…てか?」
そこには、克也が立っていた。
「フッ……おせぇよ、ヒーロー。」
克也の後ろには10人はくだらない数がいる。
「さあ、悪者退治だ。」
そう言った瞬間、克也を先頭にみんなが一斉にこちらに向かってきた。
その光景を見ながら、俺の意識は遠退いていった。
気が付くと、俺は病院のベットだった。
「おっ!政人。気が付いたか。」
「政人、大丈夫ー?」
「克也…里奈…。大丈夫なわけないだろ…」
克也から説明を聞くと、どうやら俺はあばらが肺に刺さっていて、相当危なかったらしい。
奴等はボッコボコにしたあと、警察に突き出したらしい。奴等は少年院行きになった。ずいぶん前から色々やっていて、今回の事件で少年院行きが決まった。まあ、いい気味だな。
「あ、それから。……はい、これ。」
「なんだ?これ?」
それはくしゃくしゃの紙だった。
内容は、“すいませんでした。もう絶対かかわりません。西村”と、震えた字で書いてあった。
「里奈…おまえ…」
「いやー、私が鉄パイプ持って、これで殴られたら痛いのかなぁー?って言ったら土下座して謝ってきてさー。謝るなら政人に謝れって事で、これ書かせたんだ。」
…………女って恐いな…。
あの時、なぜ克也が来たかというと、俺が倉庫に行く前に克也に連絡して、なるべく多く人を呼んでから港の倉庫に来てくれと言った。克也は頭がいいので、それだけで分かってくれた。
こうして、俺は完全にチームを抜けた。
て言うか、西村を始め、チームの殆どが捕まったので、チームは壊滅状態だった。
その後、俺は晴れて退院し、いつもの日常に完全に戻った。
それから。代わり映えしない日常を送り、今に至るってわけだ。
「おーい。政人ー?」
「おおっ!なんだ!もう終わったのか?」
「うん!おもしろかったよ!ね?綾ちゃん?」
「うん!あの住宅ローンに苦悩する人の表情が涙を誘ったよ。」
「ああー、あれは涙無しには観れないよね!」
感動するのかよ!
ふう、昔の事思い出してたら、なんだか疲れたな…。
「どーしたの?疲れた顔して?」
「いや、おまえの顔を見たらなんだか気が滅入ってな。」
「やったー!綾、政人が焼肉奢ってやるだって!」
「は?俺なんにも……」
「いいんですか!?ありがとうごさいます!」
「あっああ!焼肉なんかでよかったらいくらでも奢ってやるよ!でも綾ちゃんお腹すいてないんじゃ」
「私お腹ぺこぺこなんです!政人さんって本当に優しいな!」
「…じゃあ…行こうか…。」
その日、俺は5日分の生活費を使うことになった。
て言うか、綾ちゃん……………確信犯……?