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第26話 登場!バス停絡みの友基!

ジュー……


牛肉の焼ける音と共に、香ばしいブラックペッパーの匂いが鼻をくすぐる。

キッチンには白い煙が少し立ちこめているが、その煙さえもうまそうだ。


……グフフ……そう!今日はステーキなんです!


最近、金が無くて、まったく良い物食ってなかったから、今日は奮発しちゃったのですよ奥さん!


お肉屋さんで一番高い牛肉だよ奥さん!?

スーパーの肉じゃないんだよ奥さん!?そのへんわかってる!?


俺はミディアムレアに仕上げた牛肉を皿に盛り、リビングテーブルに置いた。


さてさて……。後はワインがあれば最高ですよ奥さん!


……奥さん?


……あれ?って、アァァァァァ!!

ワイン買うの忘れたぁ!


俺は湯気の立つ、舌の上でとろけてしまいそうな高級牛肉を見つめる。


「……ちくしょう!ワインの無い高級ディナーなんて、ウォシュレットの無い洋式と一緒だ!!」


俺は牛肉から目を離し、玄関へと走った。



―――――。



コンビニでワインを買い、急いで家に向かう途中、いきなり男の怒声が静かな住宅街に響いた。


「何だテメー!肩ぶつけやがってよ!一言も言わねーのかコラ!」


その声の主はかなり近く、目の前にある十字路の、左の曲がり角にいるみたいだ。そして俺はその曲がり角を行かなくては家に帰れない。


ああ……曲がりたくねーけど、遠回りしたら牛肉冷めちゃうし……。


俺は面倒に巻き込まれない事を祈りながら、左へと曲がった。


「おいテメー。びびって一言も喋れないってか?」


誰かに絡んでると思っていたが、その声の主以外、人はいない。


……なにやってんだろ?


俺は立ち止まり、そいつを見る。


「テメー細い体してる割には、けっこう筋肉かてーじゃねーか。」


……そいつは、バス停に絡んでいた。


「なんか喋れって……言ってんだろ!」


男はそう言うと、バス停の時刻表の部分を掴み、バス停の名前が書かれた部分に、思いっきり額をぶつけた。


バカだぁぁ!!


男はかなりよろめいて、額に手を当てて顔をしかめていた。


「ふっ、なかなかやるじゃねーか。」


バス停に中々もクソもねーよ!


「だからって調子のんじゃねーぞ!」


男は力任せにバス停を突き飛ばした。バス停は倒れそうになるが、ぎりぎりの所で持ちこたえ、石の重みで一気に戻る。

そしてバス停の名前の部分が、男の鼻っ柱に命中した。


「うひゃっ!?」


男は反撃されると思ってなかったのか(当たり前だが)、かなり狼狽していた。


「テメー!上等じゃねーか!やってやんよ!」


うわー…バカだなー……。

てかバカだなー……。


……ん?つーか、こいつ、見たことあるような。


俺はそいつをまじまじと見る。

男はかなり小さい。160あるかないかぐらいだ。

短めのオレンジ色の髪に、半ば無理矢理パーマをかけている。

目は釣り目で奥二重。目付きは悪いが、なぜか悪そうな印象を受けない。


……こいつは…。


俺はそいつに近付き、話し掛ける。


「おーい、ともちゃーん。何やってんの?」


友基ともきは俺のいる方を振り返ると、驚きの表情を見せた。


「その声は……政人!?」


友基は俺だとわかると、ニヤつきながらバス停を見た。


「へっ、いくらテメーが強くてもな、二人がかりじゃかなわねーだろ!政人、こいつどーするよ?」


「いや、どーするよって……。そっとしといてやれよ。こいつもずっと立ったままでつらいんだから。」


「なに言ってんだよ!そんな事言ってたら、元クロスの名がすたるぜ!」


「いや、おまえそれバス停だよ?」


「……へ?」


友基はバス停を遠目でみたり、近づいて見たり、眉をひそめたりした後、バス停に手を置き、肩を震わせていた。


「なあ政人。俺ってなに?なにがいけなかったの?」


「……眼鏡しないからでしょ……。」



―――――。



「はぐっむぐ。ひょへほひひいは〜!」


テーブルの向かいで、友基は肉にがっつきながら、幸せそうに喋る。



今のうちに説明しておこう。


こいつは内田友基うちだともき

俺のいたチームの奴で、こいつとはけっこうウマが合った。

さっきの出来事でわかるように、こいつはかなり視力が悪い。

一回、あまりにも勘違いするから、眼鏡をしろって言ったんだけど、友基は

「眼鏡なんかしたら俺様の見える世界が変わっちまう。生まれたままの世界でいいんだよ。生まれたままの私を愛してほしいの!」

とか言っていた。

要するに眼鏡が嫌いなだけだな。こいつ似合わなそうだし。


で、俺がまだチームに入っていた頃に、幻の秘宝を探しに行ってくる!とか言って旅立ったはずだけど。



「おまえ幻の秘宝を探しに……つーかただ単に引っ越したんじゃないの?なんで戻ってきたんだ?」


幸せそうに肉を食っていた友基は、俺の言葉を聞いた途端、急に真剣な顔になった。

口に残っていた肉を、喉を鳴らして飲み込んだ後、友基は口を開く。


「俺、わかったんだ。幻の秘宝は遠くには無い。」


「じゃあ幻の秘宝はどこにあんだよ?」


あれ?引っ越しの話じゃなくて、幻の秘宝の話になってるんだけど。


「幻の秘宝は……そう、おまえさ……」


「ふーん、で?なんで戻ってきたの?」


「幻の秘宝は……そう、おまえさ……」


「ふーん、で?なんで戻ってきたの?」


「幻の秘宝は……」

「もう肉食わせねーぞ」


「いやぁ、地元に戻りたくなってさ。一人暮らしをしようと戻ってきたわけさ。あ、肉食べていい?」


「ふーん、じゃあ高校は?」


「高校もここらへんに転校した」


「よく転校なんてできたな」


友基は、それは俺の、と言いながら自分の腕を叩いた。


どこの高校だろ。


…………まさかね。


「…なあ、そこの高校の名前はなんて言うの?」


フォークに刺した肉を口に運ぼうとしていた友基は、そのフォークを皿に置いて、腕を組み、うつむいた。


「なーんつったけなぁ……」


覚えてろよ……。あ、いま不良の捨てセリフみたいになっちゃった。


「あっ、そうだ!たしか……」


「たしか……?」


「こうこう高校だ!いかれた名前だよな〜」


俺は無気力になり、テーブルの上に自分の頭を置いた。


「おい!何やってんだよ?おまえいかれてんな」


昂光高校。

まさに俺の通う高校だ。


こんな奴がいたらろくに勉強に励めない……。



……いや最初から励んでないけどさ。


俺は、はっとして顔を上げる。


「あァァァァァ!!俺の肉!」


友基の前にある皿。そこには肉のかけら一つ無かった。


……俺の肉……。高級牛肉……。


とろけるような舌触り。

俺はもうそれを確かめる事はできない。


「いや〜うまかった〜!久しぶりにうまいもん食ったぜ」


「なあ、おまえそれが幾らか知ってんか?」


テーブルの中心の、調味料がまとめられている所から、友基は楊枝を取り出し、口にくわえてシーシーと音を出している。


「あ?知らね。100円とか?」


「1980円だバカヤロウ!」


「値段が細かけーよ!いいじゃねーか!また買えばよ!」


「じゃあ約2000円……ってそんな事はどーでもいい!俺の肉だぞ!どうしてくれる!え!?どうしてくれるんだよ!」


「しらねーよ!食っちまったもんはしょうがないべ!?あっ、じゃあこうしよう。3時間待て。俺様のブラウンゲートから出してやるからよ。へっくそくらえ!」


「うっぜー。君は本当にうざいんですね!うんうん。オラァ!」


俺は友基に向かって、拳を振り上げた。


「おっ!上等!食後の運動だ、やってやんよ!」



――こうしていると昔を思い出す。友基とは、海と同じくらい殴り合っていた。


そうしていると、すぐにあいつが飛んで来て、強制的に止めるんだ。

あいつ、何やってんのかな。


「――アンタ等、今何時だと思ってんの!」


「「はい、すんません」」


管理人室。俺と友基は管理人の前で正座させられていた。

俺が思い出に耽るの止めて、取り敢えず頭に浮かんだ言葉を言うと、見事に友基とハモった。


「それで、なんで騒いでいたの?」


友基が膝を立てて、必死に喋りだす。


「聞いてくださいよ管理人さん!こいつったら、やっすい肉を食っただけで怒り出して、親にも殴られたことのない僕を殴ったんですよ!うう……」


友基の言葉に、頷きながら聞いていた管理人が、その言葉を鵜呑みしそうになっていたのに気付き、俺も必死になりながら弁解する。


「ちっ違いますよ!僕は殴ってないんです!この人が家に勝手に上がり込んで、僕の夕飯を食べたので、僕がやめてくれって言ったらいきなり殴り付けてきて、一通り暴れたかと思うと、この人がずっこけたんです!だから僕は何もやってません!いてて……こりゃあ鞭打ちだ」


「なっ!ふざけんな!たしかに俺はこけたけどさ!こけてテーブルの角に鼻をオモックソぶつけたけどさ!ここの目!これはテメーだろ!」


友基はそういいながら、俺に顔を近付け、自分の少し腫れた左目を興奮気味に指差す。


「え?なにそれ?目が腫れぼったいのは元からでしょ?現実を見ろよ。」


「うっせー!それはいつもねみーからだよ!奥二重だからだよ!眠気のない俺はすごいからね!きよし師匠並だから!」


「バレバレの嘘ついてんじゃないよ!『俺は奥二重』とか一重が言いそうな言い訳使いやがって!俺はモロ二重だからね!はっどうだ?この引きこもり二重が。」


「どうだじゃねーよ!二重がいいって訳じゃねーんだよ!テメーなんか死んだようなやる気のねぇ目してんじゃねーか!俺なんかすごいからね!この鋭い瞳で刺激の欲しい女子校生を中心に大人気です。」


「今、誰に言った!?俺だってなぁ。このとろけるような甘い瞳で現代社会に疲れたOLさん。そんなに肩肘張らないで。」


「どこのOLに言った!?もう人気とかないしね!ここにはOLなんていねぇんだよ!ここにいんのは、目の死んだ今時の若者と説教が趣味のいかれたババァ。そしてこの俺T・O・M・O・K・O!」


「ともこって誰?」


「うわぁぁぁ!昔の彼女の名前言っちまったぁ!」


「アンタ等ババァを無視するんじゃないよ!ババァも仲間に入れて!」


――こうして、夜は更けていった……。友基の転校によって、これからの高校生活が波乱になることは間違いない。




……いや最初から波乱だけどさ。



26話、読んでいただき、ありがとうございます!バス停に絡んだ話、かなり誇張していますが、実話です(笑)自分の友達の体験談です。視力が悪いとはいえ、バス停に絡むなんて……バカですねー。

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