表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/50

第25話 だって若い子がお金持つとイケないことするでしょ?〜母の言い訳〜(後編)

扉を開けると錆びた蝶番の音がする。


扉の向こうには、下へ向かう階段がどこまでも続き、途中からは闇が広がり、終わりが見えない。


その光景は、何度目だろうか。


「なあ、迷路って階段を下りることを指すんだっけ?」


「ボクに聞かないでよ。」


この会話も何回もした。


田中さんの部屋を出てから、階段を下りて下りて下りて………。それだけしかやっていない。

俺達は、とりあえず階段を下りることにした。


あー……。なんか腹立ってきた…。


「俺は終わりの見えない迷路は大っ嫌いなんだよ!」


「ボクだってそうさ!終わりの見えないレースと希望の見えない明日は嫌いですから!」


「俺だってそうさ!見えそうで見えないぐらいのスカートは好きだけどね!」


「しらねーよ!」


バキッ


「あ、暴力ですかい?これだよ、最近のキャラはさ!俺殴られてばっかじゃん!」


「政人が殴られるような事ばっかするからだろ!この殴られキャラ!君の天職はサンドバックさ!」


「あ、いったね?いいの?俺、目覚めるよ?目覚めさせちゃいけねーもん目覚めさせるよ?」


「どうぞ〜?……うわぁー!」


俺はハルに後ろから抱きついた。そしてすっぽんのように離れない。


「ぐひょぐひょ!お持ち帰りぢゃー。ていくあうとぢゃー。」


一瞬、ハルが空気を吸い込んだかと思うと、一気にそれを吐き出し、それと共に強烈な後ろ蹴りを炸裂させた。


ボクのお股に。


「しょ…しょれは…はんしょく……」


ダメだ。二つのエナジーボールの内、一個は確実に破壊された。もう一つも三割の損傷が予想される。ああ、痛い痛い痛い痛い……。まさにドラゴンボールをドラゴンに鷲掴みにされてる気分。


「まだまだぁ!」


ハルはそう言うと、俺の腕を掴んだ。足を折って少し態勢を屈められ、引っ張られると、俺の体はハルの背中に乗った。

そう思った瞬間、ハルが物凄い力で引っ張ると共に、上半身をさらに屈め、一気に足を立てる。

すると、俺の体は面白いように……っておいおい…。ココ階段だよ?わかるよね?ハルちゃんは、もうお姉さんだからわかるよね?


「とりゃあぁ!」


「…マジで……?」


グンッ


「死ぬってェェェ!」


俺は階段を転げ落ちました。コロコロ、コロコロと。ええ、そりゃもうおむすび落としたじいさんのおむすびの様にね。


「痛い!」


体に、より一層大きな衝撃があったと思うと、俺の体は止まっていた。


立ち上がって、体の具合をたしかめてみる。どうやら大きなケガは無いようだ。


「大丈夫〜っ?」


上を見上げると、ハルが笑顔で手を振りながらやってきた。


いや大丈夫〜て。人を階段からたたき落として大丈夫〜て。


大丈夫なわけないでしょーが!!


俺はそう思いながらうんこ座りをして、ハルを睨み付けた。


「な…なんだよ…?」


「いや、別に。確認作業してるだけ。」


ハルは不思議がりながら、ふと前を見つめると、目の前の何かを見つめたままになった。


「政人…これ…。」


ハルが俺の後ろを指差しながら言う。


俺は確認作業を中止して、後ろを振り返る。


そこには、先程と同じように扉があった。

ただ、違うのはその大きさと作りだ。

明らかに他の扉より豪華。


俺がそれを見つめていると、ハルがようやく俺のところまで辿り着いた。


ハルが、また何かを見つけた様で、扉に近づいていく。


「また貼り紙だ。なになに……。」


何で見たことないものを見るときって、なになにっていうんだろうな。

何故“なに”を二回繰り返すのか。一回でよくない?


おさむ、コレ読んでみなさい。


えー、めんどくさいなぁ。


お母さんの言うことを聞きなさい!


ああ、ハイハイ。


ハイは一回でしょ!


もう、わかったよ。えーと、なになに……


「なには一回でしょ!」


「うわっ!……いきなりなんだよ!」


「あ、わり。おさむが言うことを聞かなくてさぁ。」


「おさむ!?だれ!?」


「心の中で飼っている奴さ。」


「心の中におさむ飼ってんの!?なんか怪物よりタチわりぃよ!」


「まま、続けて続けて…………続けては一回でしょ!」


「どうしたの!?またおさむが言うことを聞かないの!?」


「ちがう、今度はおさむのお母さん。」


「お母さん出てきた!?ファミリー総出で飼ってんのかよ!」


あ、やべ。これ話すすんでねーや。


「じゃあ、気を取り直して読んでくれ。」


「もう……。」


ハルがそう言いながら、読み始めた。


「『おめでとう!この扉の先はゴールです!でもこの扉は合い言葉を言わなければ開きません。合い言葉は全部で10文字です。(ヒント!最初の文字は“は”)がんばって!』だってさ。」


合い言葉?10文字ってかなり難しくねーか?

最初は“は”か。ふーむ……。


俺が思案に耽っていると、ハルが急に笑いだした。


「ん?どうした?」


「簡単じゃないか!ボクはもうわかったよ!」


「おお!おまえすごいな!」


ハルは扉と向かい合って、大きく息を吸い込む。


「ひらけゴマ!」


バカ!?最初の文字も文字数も完全無視かよ!!


「あれ?違ったかな……………じゃあひらけゴマ!」


だからちげーんだよ!!じゃあひらけゴマってなんだよ!なんも変わってねーだろ!


「うーん、ひらけグォマァ!」


見直す所そこ!?発音の問題じゃねーだろ!


「ひらけゴマプリン!」


ゴマがプリン化しただけじゃねーか!!


「ひらけゴマもどき!」


にせもの!?


……アホはほっとこ。


うーん……10文字か…。パソコンのロックパスワードみたいなもんだからな……。


「ひらけスリゴマ!」


それであの博士に関係する物……。たとえば、好きなものとか……。


「ひらけシロゴマ!」


好きなものか……なんだろう…。最初は“は”だから……。


「ひらけクロゴマ!」


そうだな…クロゴマとか好きそう……。


「ひらけアワセゴマ!」


あ、でもやっぱりどっちもある合わせゴマの方が………って。


「うるせーよ!!」


「なっ…なんだよ!人がせっかく頑張ってるのに!」


「おまえゴマにこだわりすぎだよ!なに!?こだわりの頑固ラーメン屋気取りですか!?今、考えてんだから静かにしてなさい!」


「もう…ハイハイ。」


「ハイは一回でしょ!」


ギギギギ……


「「……え?」」


扉はゆっくりと開き、やがて完全に開くと、錆びた蝶番の音も消えた。


「…開いたよ…。」


「ウソ…今のが正解なの……?」


俺とハルは、驚きの感想を言った後、互いに見つめ合い、同時に顔がほころんだ。


「「200まーん!」」


俺とハルは同時に駆け出す。

階段は上りになっていて、上りきると扉があった。


それを開ける。

光が差し込んだと思うと、そこは建物に入った時と同じ場所に出た。


俺の前には博士が居て、かなり驚いた顔をしている。


「まっ政人クン!ゴールできたのかね!」


「おう!余裕だぜ!こんなの!」


「ボク達にかかればね!」


おまえはバーサンに飛び蹴りかましただけだけどな。


「さあ!実験代200万と成功報酬50万!」


「さぁさぁさぁっ!」


俺達は満面の笑みで言う。それとは対照的に、何故か博士は冷や汗をかきながら、目を合わせようとしない。


「どうした?博士。」


「…ねが……い…」


「え?」


「……お金が無いんです……。」


俺達はいまだに笑顔だ。


「ハルぅ。どーするよ?金がないんだってよ?はっはっはっ。」


「じゃあ何で呼んだんだろうねぇ?只働きさせるつもりだったのかなぁ。ふっふっふっ。」


「ホントだのう?ほっほっほっ。」


「テメーが笑えた義理か?コラ。」


俺が博士のむなぐらを掴む。


「きっちりとお支払い頂くからな?オイ。」


ハルも博士のむなぐらを掴む。


「……1000回ローンじゃダメふぉっほう……?」


「「ふざけんなァァァッ!!!」」


バコーンッ!




博士は星になったよ。西に輝くふぉっほう座にな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ