第25話 だって若い子がお金持つとイケないことするでしょ?〜母の言い訳〜(後編)
扉を開けると錆びた蝶番の音がする。
扉の向こうには、下へ向かう階段がどこまでも続き、途中からは闇が広がり、終わりが見えない。
その光景は、何度目だろうか。
「なあ、迷路って階段を下りることを指すんだっけ?」
「ボクに聞かないでよ。」
この会話も何回もした。
田中さんの部屋を出てから、階段を下りて下りて下りて………。それだけしかやっていない。
俺達は、とりあえず階段を下りることにした。
あー……。なんか腹立ってきた…。
「俺は終わりの見えない迷路は大っ嫌いなんだよ!」
「ボクだってそうさ!終わりの見えないレースと希望の見えない明日は嫌いですから!」
「俺だってそうさ!見えそうで見えないぐらいのスカートは好きだけどね!」
「しらねーよ!」
バキッ
「あ、暴力ですかい?これだよ、最近のキャラはさ!俺殴られてばっかじゃん!」
「政人が殴られるような事ばっかするからだろ!この殴られキャラ!君の天職はサンドバックさ!」
「あ、いったね?いいの?俺、目覚めるよ?目覚めさせちゃいけねーもん目覚めさせるよ?」
「どうぞ〜?……うわぁー!」
俺はハルに後ろから抱きついた。そしてすっぽんのように離れない。
「ぐひょぐひょ!お持ち帰りぢゃー。ていくあうとぢゃー。」
一瞬、ハルが空気を吸い込んだかと思うと、一気にそれを吐き出し、それと共に強烈な後ろ蹴りを炸裂させた。
ボクのお股に。
「しょ…しょれは…はんしょく……」
ダメだ。二つのエナジーボールの内、一個は確実に破壊された。もう一つも三割の損傷が予想される。ああ、痛い痛い痛い痛い……。まさにドラゴンボールをドラゴンに鷲掴みにされてる気分。
「まだまだぁ!」
ハルはそう言うと、俺の腕を掴んだ。足を折って少し態勢を屈められ、引っ張られると、俺の体はハルの背中に乗った。
そう思った瞬間、ハルが物凄い力で引っ張ると共に、上半身をさらに屈め、一気に足を立てる。
すると、俺の体は面白いように……っておいおい…。ココ階段だよ?わかるよね?ハルちゃんは、もうお姉さんだからわかるよね?
「とりゃあぁ!」
「…マジで……?」
グンッ
「死ぬってェェェ!」
俺は階段を転げ落ちました。コロコロ、コロコロと。ええ、そりゃもうおむすび落としたじいさんのおむすびの様にね。
「痛い!」
体に、より一層大きな衝撃があったと思うと、俺の体は止まっていた。
立ち上がって、体の具合をたしかめてみる。どうやら大きなケガは無いようだ。
「大丈夫〜っ?」
上を見上げると、ハルが笑顔で手を振りながらやってきた。
いや大丈夫〜て。人を階段からたたき落として大丈夫〜て。
大丈夫なわけないでしょーが!!
俺はそう思いながらうんこ座りをして、ハルを睨み付けた。
「な…なんだよ…?」
「いや、別に。確認作業してるだけ。」
ハルは不思議がりながら、ふと前を見つめると、目の前の何かを見つめたままになった。
「政人…これ…。」
ハルが俺の後ろを指差しながら言う。
俺は確認作業を中止して、後ろを振り返る。
そこには、先程と同じように扉があった。
ただ、違うのはその大きさと作りだ。
明らかに他の扉より豪華。
俺がそれを見つめていると、ハルがようやく俺のところまで辿り着いた。
ハルが、また何かを見つけた様で、扉に近づいていく。
「また貼り紙だ。なになに……。」
何で見たことないものを見るときって、なになにっていうんだろうな。
何故“なに”を二回繰り返すのか。一回でよくない?
おさむ、コレ読んでみなさい。
えー、めんどくさいなぁ。
お母さんの言うことを聞きなさい!
ああ、ハイハイ。
ハイは一回でしょ!
もう、わかったよ。えーと、なになに……
「なには一回でしょ!」
「うわっ!……いきなりなんだよ!」
「あ、わり。おさむが言うことを聞かなくてさぁ。」
「おさむ!?だれ!?」
「心の中で飼っている奴さ。」
「心の中におさむ飼ってんの!?なんか怪物よりタチわりぃよ!」
「まま、続けて続けて…………続けては一回でしょ!」
「どうしたの!?またおさむが言うことを聞かないの!?」
「ちがう、今度はおさむのお母さん。」
「お母さん出てきた!?ファミリー総出で飼ってんのかよ!」
あ、やべ。これ話すすんでねーや。
「じゃあ、気を取り直して読んでくれ。」
「もう……。」
ハルがそう言いながら、読み始めた。
「『おめでとう!この扉の先はゴールです!でもこの扉は合い言葉を言わなければ開きません。合い言葉は全部で10文字です。(ヒント!最初の文字は“は”)がんばって!』だってさ。」
合い言葉?10文字ってかなり難しくねーか?
最初は“は”か。ふーむ……。
俺が思案に耽っていると、ハルが急に笑いだした。
「ん?どうした?」
「簡単じゃないか!ボクはもうわかったよ!」
「おお!おまえすごいな!」
ハルは扉と向かい合って、大きく息を吸い込む。
「ひらけゴマ!」
バカ!?最初の文字も文字数も完全無視かよ!!
「あれ?違ったかな……………じゃあひらけゴマ!」
だからちげーんだよ!!じゃあひらけゴマってなんだよ!なんも変わってねーだろ!
「うーん、ひらけグォマァ!」
見直す所そこ!?発音の問題じゃねーだろ!
「ひらけゴマプリン!」
ゴマがプリン化しただけじゃねーか!!
「ひらけゴマもどき!」
にせもの!?
……アホはほっとこ。
うーん……10文字か…。パソコンのロックパスワードみたいなもんだからな……。
「ひらけスリゴマ!」
それであの博士に関係する物……。たとえば、好きなものとか……。
「ひらけシロゴマ!」
好きなものか……なんだろう…。最初は“は”だから……。
「ひらけクロゴマ!」
そうだな…クロゴマとか好きそう……。
「ひらけアワセゴマ!」
あ、でもやっぱりどっちもある合わせゴマの方が………って。
「うるせーよ!!」
「なっ…なんだよ!人がせっかく頑張ってるのに!」
「おまえゴマにこだわりすぎだよ!なに!?こだわりの頑固ラーメン屋気取りですか!?今、考えてんだから静かにしてなさい!」
「もう…ハイハイ。」
「ハイは一回でしょ!」
ギギギギ……
「「……え?」」
扉はゆっくりと開き、やがて完全に開くと、錆びた蝶番の音も消えた。
「…開いたよ…。」
「ウソ…今のが正解なの……?」
俺とハルは、驚きの感想を言った後、互いに見つめ合い、同時に顔がほころんだ。
「「200まーん!」」
俺とハルは同時に駆け出す。
階段は上りになっていて、上りきると扉があった。
それを開ける。
光が差し込んだと思うと、そこは建物に入った時と同じ場所に出た。
俺の前には博士が居て、かなり驚いた顔をしている。
「まっ政人クン!ゴールできたのかね!」
「おう!余裕だぜ!こんなの!」
「ボク達にかかればね!」
おまえはバーサンに飛び蹴りかましただけだけどな。
「さあ!実験代200万と成功報酬50万!」
「さぁさぁさぁっ!」
俺達は満面の笑みで言う。それとは対照的に、何故か博士は冷や汗をかきながら、目を合わせようとしない。
「どうした?博士。」
「…ねが……い…」
「え?」
「……お金が無いんです……。」
俺達はいまだに笑顔だ。
「ハルぅ。どーするよ?金がないんだってよ?はっはっはっ。」
「じゃあ何で呼んだんだろうねぇ?只働きさせるつもりだったのかなぁ。ふっふっふっ。」
「ホントだのう?ほっほっほっ。」
「テメーが笑えた義理か?コラ。」
俺が博士のむなぐらを掴む。
「きっちりとお支払い頂くからな?オイ。」
ハルも博士のむなぐらを掴む。
「……1000回ローンじゃダメふぉっほう……?」
「「ふざけんなァァァッ!!!」」
バコーンッ!
博士は星になったよ。西に輝くふぉっほう座にな。