第22話 フタゴ…?アネ…?オンナノコ…?……………ロリ?
「昨日は散々だったな……」
登校中。俺は思わず不満を声に出してしまう。
本当に昨日は散々だった。あのあと、ジャックと逃げまくったが、結局は俺が全員倒した。その夜は頭が痛いわ全身筋肉痛だわで、まったく眠れなかった。
校門に辿り着き、下駄箱へ歩いていると、見慣れた奴等が声を掛けてくる。
「政人。おはよーう。」
「おう、A。おはようさん。」
「え?Aって何?」
「あ、いや、おまえの名字の頭文字だよ。」
「俺の名字は木ノ下だけど?」
妙な場面で名字発覚!
「おはよ〜!」
「おう、里奈。おっさん。」
「何おっさんって!?朝っぱらからおっさん呼ばわり!?」
「おはようさんの略だよ?まさか知らねーの?」
バキッ
「すいません知らないですよね。」
「ふふ、朝からデンジャラスね。」
綾ちゃん。立ち振る舞いは優雅だけど、デンジャラスはないと思う。
「綾、氷室っち。おはよ。」
「綾ちゃんおっさん。」
「やだ〜政人さんったら朝から私をおっさん呼ばわりですか?あ?」
「すいません。」
……キャラ違くね?
「……フッ…」
「おいこら氷室っち。それがテメーの挨拶か?」
「アンタ等朝からデンジャーズだな。」
「なにそれ!?新しい球団!?俺等よりテメーの頭の方がデンジャラスなんだよ!なんだそれ?じいちゃんの陰毛か?」
「フッ…そうだよな……ってなるかボケェェェ!」
こいつ朝からテンションたけーなオイ!
俺達は下駄箱の前で全員集合した。
あ、克也忘れてた。
「こんな所で集まっていたら教師に注意されるぞ?」
「お、忘れられた存在が来た。」
「え?泣いていい?」
「克也おはよ〜!」
「柏木さん、おはよう。」
「ヨウ、柏木。」
「よう、過去の人。」
「政人はいつでも情け容赦ないな〜…ハハ…ハ……」
あっ、本当に泣いちゃった。
……ま、いいや。
「「「よくねぇよ!」」」
皆俺の心が読めるらしい。恐ろしい奴等だな。
「政人さん、おはようごさいます。」
「おう、ジャック!おはようまてまてまてまて!」
靴を履き変えようとしていたジャックの肩を掴む。
「…えーと…君はなんでここに居るのかな?君はロリータだろ?」
「なんですかその理由!?僕は15歳!高校1年生ですよ!それで、引っ越したから、ここに転校したんです。」
……あーあ、ロリータのくせに。
「政人。この子知り合い?」
「あ、初めまして。」
ジャックは俺達に向き直り、手を前に組む。
「1年生の、斎藤充です。政人さんとは従兄弟なんです。よろしくおねがいします。」
ジャックはそう言うと、深々と頭を下げた。
「こいつの容姿に騙されてはいけない。とんでもないデンジャラスロリハーフボーイだからな。略してデンジャラスロリハーフボーイだ。」
「なにこのボンクラ?略せてないし〜。あ、僕の事は充とか名前で読んでください。」
……なんか今ものすごくバカにされたような…。
「あ、じゃあ僕行きますね。オイ、ボンクラ。テメーもちゃんと勉強しろよ?」
……あれっ?おかしいよね……?
「あっ!今日の1限目は抜き打ちテストなんだ!私行くね!」
綾ちゃんは慌てた様子で靴を履き変える。
「海くん、さぼっちゃダメだからね!ボンクラ、テメーもちゃんと勉強しろよ?じゃあね!」
………ん?
キーンコーンカーンコーン
「マズッ!私たちも早く行かなきゃ!オイボンクラ!いつまでつっ立ってんだよ!」
里奈も慌てながら靴を履き変えるってあれ?おかしいな。みんな俺をボンクラ扱いか?
「オイボンクラ……フッ…」
海テメーは呼んだだけか?
ポンッ
ん?なにこの肩に乗ってる手は。
横を見ると、克也がうれしそうに俺を見つめている。
「過去の人とボンクラ。いいじゃないか。共にいこう。」
なにがいいの?不安材料だらけですけど?そしてボクのあだ名はボンクラに決定なんでしょうか?えーと、まだまだ言いたい事があるのですが、場面が変わるらしいのでこのへんで。次は昼デスヨー。
―――――。
……えーと、昼です。見事に変わりましたね。
えーと、ボクは今、屋上のフェンスに背中を預け、タバコをふかしています。一人です。
えーと、昼メシはありません。忘れました。それを気付いたのが遅すぎて、購買には不人気のパン一つしかなく、それを泣きながら食べました。
購買に残った一つのパンは、涙の味がしました。
えーと、だれか食料をください。栄養と言う名の人生の活力をください。
ペチャッ…
えーと、鳩さんがボクの頭にフンをくれました。
これを食べろと言うのですか?文字通りくそ食らえと。うまいですね、鳩さん。
……うん。頭洗いに行こう。
―――――。
俺は4階のトイレの近くの水道で頭を洗っていた。
くそ、あの鳩……。丸焼きにして鳩達に共食いさせてやろうか。
俺がそんなことを考えていると、ふと、横に人影が見えた。
「…もしかして、政人さんですか?」
落ち着いた物腰の女の子の声。
綾ちゃんか……?
俺はそう思い、水をかぶりながら声のした方向に顔を向ける。
そいつは正面を向いていた。端正な顔に、艶のある金髪が強く印象を受ける。
って、ジャックじゃん。
「おう、政人デスヨー。いやぁ、鳥のフンを頭に受けちゃってさ。まだついてる?」
「いや、もう大丈夫ですよ。」
俺は安心して、蛇口をひねり、水を止める。髪に浸透した水分を、手でできるだけ押し出す。
それをあきらめると、髪を掻き上げて顔に濡れた髪がつかないようにする。
髪から水滴がたれるが、もう十分だろ。
「ホント鳩うぜぇ……」
俺はジャックの下半身を見て絶句する。
スカートを履いているのだ。
「おまっ…おか…」
「初めまして。」
…初めまして?
そいつは俺に向き直ると、深々と頭を下げる。艶のある長い金髪は、その動きに習ってサラサラと揺れる。そして頭を上げると、ほほ笑みながら喋りだした。
「私は1年生の斎藤満です。弟の充とは、もう会っているんですよね。私は充の双子の姉なんです。」
フタゴ…?アネ…?オンナノコ…?
あ…あの野郎…。姉貴がいるんだったら言えっつーの……。
「み…満か…よろしく……」
俺はそう言いながら、手を差し出す。彼女はほほ笑みながら、俺の手を握った。
「よろしくお願いしますね。あ、名前は呼び捨てでいいですよ。」
…や…ヤッタァァァ!!
新キャラは金髪美女ですよ!この前はお妙とかいうフザけたカマ野郎だったけど、今度はマジだ!マジだァァァ!!
「あ、そうだ。政人さんお昼まだですか?私、間違えてお父さんのお弁当持ってきちゃったんですよ。良かったら一緒に食べません?」
…きゅ…救世主…?あなたは救世主ですか?
「へい!あっしでよければ喜んでついていきやすぜ!」
俺がそう言うと、フフ、とミチルは口に手を添えながら微笑んだ。
……あー、この子が俺の家に挨拶に来て、ジャックみたいに俺のベットに寝てくれてたら、どんなに良かったか……。
「じゃあ、屋上でも行くか。」
「はい、そうですね。今日は天気もいいし。」
では、夢の世界へしゅっぱーつ!
俺とミチルは階段を上り、俺は屋上への扉を再び開く。
そこはさっきと何も変わりの無い、いつも通りの屋上だった。まぁ、こんな短時間で屋上に変わりがあった方がおかしいけど。
俺は屋上のフェンスの近くに腰掛け、再び背中を預ける。
ミチルは俺の向かいに行儀よく座った。
「これです。大きいでしょ?」
ミチルはそう言いながら、手に持っていた弁当を置いた。青いフロシキに包まれたその弁当箱は、なかなかの大きさだ。あのおっさんでけぇからな。
フロシキの結び目を丁寧にほどき、フタを開けると、その大きな弁当箱にはギッシリと色々な食物が入っている。
たしかに、女の子一人でこれを食うのは厳しいかもな。
「ん…?箸、一膳しかないよな……。」
「そんなの。一緒に使えばいいじゃないですか。」
ミチルは当たり前の様に喋る。
………マジかっ?
「それとも、政人さん、お箸もってるんですか?」
「持ってない!持ってないよ!持っていてもそんな物は心の食器棚にしまってしまうさ!」
「フフッ、そうですか。じゃあ、食べましょうか。」
ミチルは箸を取り、弁当の中のおかずを一口食べる。
「さすがお母さん!おいしいです!政人さんもどうぞ?」
ミチルは俺に弁当箱を差し出す。
待ちに待ったこの時!
これにはミチルの母、ビック・ママの(見たことは無いが)愛情がいっぱいいっぱい詰まったお弁当なんだねっ!
ではでは!いただきまーす!
俺は差し出された弁当箱を受け取ろうとした。その時。
「斎藤くん!!」
うおっ!
ビクッ
ポト……
俺は声のした方、屋上の扉をゆっくりと見る。
そこには、一太郎が全身白タイツで立っていた。
一太郎は俺達へと駆け寄る。そして、いきなり土下座をした。
「おねがいします!もう一人モジモジ君は無理です!これで勘弁してください!」
一太郎が背中を見せると、“大日本帝国”と、震えた文字で書いてあった。
「…フッフッフ…一太郎君、答えはノーだよ…」
俺は体育館裏へ連れていき、今度は全身白タイツではなく、全身網タイツを着させ、日本一のストリッパーになれと、一太郎の将来を決めてやった。
うんうん、これで一太郎のパパとママも安心だな!!