第21話 ああ…金髪ボーイがトラウマになりそう………。(後編)
俺とジャックは裏路地についた。後ろは壁で、逃げ道は無い。
そろそろ来る頃だな……。
「待てっつってんだろ!」
俺の予想通り、不良達の声が聞こえてきた。
あれ?でも……
「やっと捕まえた」
「覚悟しろや!」
「ブッ殺してやんよ!」
「最初はどっちだよ?」
「最近の政治はダメだ〜」
増えてる!ていうか最後の奴は状況わかってんの!?
不良達は俺を囲んだ。不良達はそれぞれ警棒やら鉄パイプやらを持っている。
チッ…やっかいだな……。
「ジャック!おまえは安全な所にいろ!」
ジャックは頷くと、脇にあった階段をのぼりはじめた。
「オイ!待ちやがれ!」
「いや、最初にこいつをやっちまおうぜ!」
「……そうだな。」
不良達は意見がまとまると、各々の武器を握り締めた。
来るか……
「オラァ!!」
背後から怒声が聞こえた。俺は最小限の動きで右に避け、そのまま振り向いた。
振り下ろされたパイプは、勢いのまま地面にぶつかり、鈍い金属音が響く。
そいつを見ると、テープでパイプを手に固定していた。
俺はパイプを掴む。
両手はパイプに固定されているので、そいつはその態勢のまま動けない。
みぞおちに狙いを定めて、パイプを引き寄せ、カウンター気味に膝を入れた。
「背後から攻撃すんのに、声だしちゃ意味ねーだろ。」
そいつは膝を付き、気を失った。
よし。あと4。
「こ、この野郎!」
こいつ等わざわざ1人ずつ攻撃してくれて親切だな。
そいつはパイプを大きく振りかぶると、ステップを踏み、こちらにやってきた。俺はそいつに向かって走る。
振り下ろされたパイプの根元を左手で掴み、勢いのまま、みぞおちに右を打ち込む。
そいつは力無い表情になると、パイプを離して地面に突っ伏した。
あと3。パイプも手に入れたし、楽勝だな。
「あんた達何やってんの!」
突然、裏路地の入り口から声が聞こえた。
その人物がこちらに走ってやって来る。
「……って、里奈!?」
「え?いじめられっ子かと思ったら政人!?」
オイ、政人の前はよけいだ。
ふと、不良達を見ると、何やら耳打ちをしている。
そして、にやりと笑うと、里奈の方へ向かっていった。
まさか……。
「里奈危ない!」
俺は里奈の方へ走り出す。
ウォォォ!!
ゴッ!
―――――。
不良達が、私に向かってパイプを振りかぶってこっちに走ってくる。
私はとっさのことに身がすくんで、目をつむった。
ゴッ!
……あれ?痛くない…。
目を開くと、政人の背中が見えた。
政人は頭でパイプを受けていた。
「ま、政人!」
私は政人の表情をうかがう。顔には、一筋の血が流れていた。
そして、笑っていた。
…ま…まずいかも…。
「てぇぇめぇぇえぇぇらぁぁぁァァァ!!」
政人は右手を振りかぶる。
誰でも避けれる遅いパンチ。
だけと、相手は政人の声に怯んで、避けられなかった。
パンチは相手の左頬に当たる。
相手は人間じゃなくて人形じゃないのかと思うほど吹っ飛んだ。そして、地面に転がると、目を見開いたまま痙攣していた。
「そんなに殺されてぇか!だったら殺ってやるよ!」
政人はそう言うと、不良二人に突っ込んでいった。
一人が怯えながらも、前に出る。
「お、オラァ!」
不良が警棒を政人に向かって振り下ろす。
政人はそれを腕で受けた。
「ヒャハハハ!!」
政人は笑いながら左手に持っていたパイプを横殴りに振った。
パイプは見事に相手の側頭部に当たった。相手は白目をむいてよろめく。だけと、政人は攻撃を止めない。
パイプを振った勢いを利用して一回転。もう一度、同じ所にパイプを打ち込む。そして足を踏張り、上半身だけその勢いのまま捻る。
「イッッッちまいなァ!」
気付いたときには、拳は相手の鼻っ柱に当たっていた。
相手は吹っ飛び、後ろの壁に全身を打ち付けた。
「ヒャッハァァ!!」
あーあ、キレちゃった。
政人ってキレるとこうなっちゃうんだよね。もうキャラ違うよね。恐すぎ。
でも、こんなに強いけど、残酷になるだけで力は変わんないみたいだよ。
ただ、いつもは手加減してるから、強くなったみたいに見えるんだね。
というかギャングチームに入ってた頃はさらにキレやすかったんだから。迷惑以外の何物でもねーよ!!
……こほん。まあ、とにかく止めなきゃだね。
政人は残り一人に向かってパイプを振り上げていた。相手は腰を抜かしながら、
「ほんっとダメ!最近の政治はほんっとダメ!」
とか、なんか意味不明な事喋ってる。
私は政人の背後に立って、拳を握り締め、頭に狙いを定める。これ痛いんだよなぁ〜…。
「目を…さませー!」
ゴッ!
―――――。
ぐあ!いってぇ!
後頭部の激痛に思わず涙が出てくる。
後ろから攻撃するなんて…
「卑怯だぞ!」
……あれ?里奈だ。
里奈は自分の拳を痛そうにしながらさすっている。
ん………?俺なにやってんだっけ?
「そうだ!不良達は!?」
俺は周りを見る。
不良達はみんな地面に突っ伏し、動く気配さえない。唯一意識がある奴は、
「ダメなんだ…政治はダメなんだ…」
と、呪文の様につぶやいている。
「……これ、里奈がやったのか?」
里奈を見ると、なぜかため息を吐いていた。そして口を開く。
「うん、そうだよ。」
「……マジか…。」
……女って恐いな…。
俺はしゃがんで、ぶつぶついってる奴の肩の上に手を置く。
「オイ。仲間を起こして行きなさい。」
そいつはつぶやくのを止め、顔を上げた。
「い、いいんですか!?」
「ああ。俺はおまえ等がやってきたから反撃しただけだからな。俺の方からおまえ等をやる気は無い。」
「やった!ありがとうございます!これもきっと政治のおかげだ!」
いや、俺のやさしさのおかげだろ。
そいつは他の奴等を起こすと、逃げるように裏路地を去っていった。
起きた奴等は、こちらを見て怯えていた。
里奈……どんだけひどい事したんだ…?
「あっ!私バイトの時間だ!」
「オイオイ。しっかりしろよ?」
バキッ
「おまえがしっかりしろ!」
里奈はそう言うと、走って裏路地を去った。
い、いたい……わけわかんねぇ…。そうだ!ジャックは……
俺は階段を見る。
骨組みだけの簡潔なその階段には、ジャックの姿は見当たらない。
上まで行ったのか……。
俺はため息をついて、6階建ての階段を上りはじめる。
―――――。
「や…やっと見つけた…」
ジャックはご丁寧に一番上まで上っていた。
6階のドアに背中を預けていたジャックは、俺を見るといっきに笑顔になり、立ち上がる。
「政人さん!やっつけてくれたんですか!?」
俺はとりあえず膝に手を付き、呼吸を整える。
「ああ……」
「さすが政人さん!さすがおやじ臭でゲリラ!」
「どんな奇襲攻撃!?たしかに満員電車で奇襲された事はあるけどさ!同じ穴のムジナだよ!」
「ああ、お菓子村のじーさんね。」
「どこのじーさんだよ!そんな夢のような村なんて無ぇよ!!」
「政人さん。夢はあきらめたらそこで終わりだ。あ、今良いこと言った。」
「勝手に喋って勝手に納得してんじゃねーよ!!」
俺はジャックの頭に手を置く。
「ほら、帰んぞ。」
「政人さん……それが……」
「オイ!そこにいんぞ!」
下で誰かが叫ぶ。
俺はてすりに手を付き、下を見下ろす。下の奴は、俺達の方をむいていた。
「え…?どういう事…?」
「いやぁ〜、実はさっき言った事をもう一回やってたんですよ。もう世の中腐ってますよね☆」
ジャックは無邪気な笑顔を浮かべる。
「……もういや……」
俺はこの日、一週間分の体力を使った。もう金髪ボーイがトラウマになりそうだ……。
あ、これサブタイトルに使おう。
「……うーん……もうお腹いっぱい……」
「………こら!」
[完]