第16話 来襲!おまんじゅうおばあちゃん!
白い部屋。
白いベット。
白い包帯。
俺は病院のベットの上にいた。
なぜだろう。なんで俺がこんなめに……
いや、理由は明確だ。
俺は昨日のこっくりさん、その名もあたりめ太郎の会話を思い出す。
―――――。
すでにハルは帰って、俺はあたりめ太郎と二人で飲んでいた。
「あ、そうだ。あたりめ持ってきたんだから呪わないでくれるんだろ?」
顔が赤いあたりめ太郎が気まずそうに喋る。
「いやぁ…それが、もう政人を呪っちゃったんだよな……。」
しばし、二人に沈黙が生まれる。
「……なっ…!じゃあ、呪い解けよ!」
あたりめ太郎は全く気負いなく喋る。
「え?無理。早くても呪いが解けるのは明日中だよ。明日は気を付けるんだな。」
「てめぇ!ふざけんな!!テメーの名前から“り”を取って、ただのコックさんにしてやろうか!」
「なんだと!洋か!?和か!?まさか中じゃねーだろうな!?」
「テメーすでにコックさんになる気まんまんかよ!」
―――――。
と言うわけで、俺は今日は不幸の真っ只中です。
今もなぜかお婆ちゃんが“現代のおまんじゅうの傾向と対策”というテーマを熱く語ってきます。
「お饅頭ていうのはね。遥か彼方、饅頭星からやってきた侵略者なんだよ。」
話が壮大すぎてついていけません。
俺は空虚を見つめ、今日あった不幸の連続を思い出す。
―――――。
昼過ぎ。学校も終わり、俺は原チャリで自分のアパートへ向かっていた。
学校では何事も無かったけど、今日は呪われてるらしいし、家に帰ってのんびりするか……。
そんな事を思っていた矢先、不幸がはじまった。
ププププスン……
屁じゃない。原チャリだ。原チャリは屁の様な音を出すと、エンジンが止まった。
スピードは落ちていき、ついに止まってしまった。
……交差点のど真ん中で。
横からは、そばを配達中のカブが迫ってくる。
運転手は…居眠りをしていた。
「ちょっ…どんだけ器用なんだよォォォ!」
ドゴーン!
読んで字のごとく、まさにドゴーンとぶつかった。
俺は2メートル程吹っ飛び、全身をしたたかに打ち付けた。
カブの運転手も、ぶつかって目が覚めたみたいだ。
そして、今の惨状を目の当たりにする。
「…あーあ、だからアジは開きにしとけって言ったのに……。」
「変わんないよ!?アジを開きにしても状況は変わんないよ!?」
運転手はまだ寝呆けているらしい。
この際だから、全部相手のせいにしちゃおう……。
「どーしてくれんの!俺の原チャリ壊れちゃったじゃん!」
「あ、すんません。自分、直すの得意なんでやりますよ。」
そう言うと、運転手は原チャリのエンジンをバンバンたたきまくった。
「うつりの悪いテレビじゃねーぞ!?たたいても直んねーよ!」
「いや、大丈夫です。って、アッチィィ!!」
「あんたが大丈夫!?」
運転手は手に息を吹き掛けながら、原チャリを睨み付けた。
「このヤロー…やってくれんじゃねぇか……!」
「原チャリは悪くないよ!?全面的におまえが悪いよ!?」
運転手はどこからか、大ハンマーを持ち出した。
「ちょっ、それどうすんの!?」
「口を出さないでください、これは俺とこいつの正々堂々のタイマンですから。」
「何こいつ!?原チャリとタイマン張って大ハンマー持って正々堂々とか言ってる奴初めてみたよ!!」
「うし、じゃあ俺から行くぜ。」
「俺からっていうかあんたからしか行けないからね!?」
「いや、こいつは“おまえから来いや”っていってましたよ。」
「原チャリと会話できんの!?どんだけいらねー能力だよ!?てか俺の原チャリも意地張りすぎだろ!負けるの確定だろ!」
「“それでも…俺は戦うことしかできないんだ……”って言ってます。」
「戦うことはできないんだよ!!」
「“じゃあおまえがカブの運転手さんに謝って”って言ってほしいです。」
「言ってほしいだけじゃねーかァァァ!!」
俺は視界が歪む。
どうやら、軽い怪我じゃないみたいだ。
「クッ……」
俺は思わずしゃがみこむ。
「だっ、大丈夫ですか!?救急車呼ばなきゃ…!」
運転手は慌てて携帯を取り出し、電話をする。
しかし、何も喋らずに電話を切った。
「どうした…?」
「4時44分をお知らせしますだって!ふきつ〜!」
「ベタベタな事してんじゃねー!」
すると、救急車のサイレンの音が聞こえた。
どうやら通行人が見かねて、連絡してくれたみたいた。
サイレンの音が近づいてくる。
「ふぅ…なんとか助かったな…」
救急車は俺の近くに止まる………はずだった。
ドゴーン!
救急車は勢いあまって、近くの電柱に正面衝突した。
救急車の運転手が出てくる。
「救急車を…呼んでください…。」
「やりやがったァァァ!!」
救急隊員は皆、重傷を負っていた。
「アタシがみんなを運ぶわ!!」
背後からの声に振り返ると、そこにはヨボヨボのおばあちゃんが仁王立ちしていた。
「ほら!みんな乗りなさい!」
おばあちゃんは救急車の運転席に座り、みんなを促した。
「みんな乗ったね!行くわよ!」
救急車の後部座席には、俺、救急隊員3人、カブの運転手、俺の原チャリが乗っていた。
俺の原チャリを乗せたのは、カブの運転手だ。
原チャリと楽しく会話している。
「へっ。さっきはむかついたけどよ。おまえの言った言葉には、まいったぜ。」
ん?なんて言ったんだ?
「まさかあの場面で“おまんじゅうあげるから許して”なんてよ!」
降伏してんじゃねーか!
「おまんじゅう!?」
おばあちゃんは饅頭という言葉に過剰に反応した。
「お…お…おまんじゅうはおやつの内に入りません!!」
わけわかんねぇ!!
すると、おばあちゃんはアクセルを思いっきり踏み込んだ。
救急車の速度は100キロを越えた。
「おばあちゃんスピード出しすぎ!!踏んで!ブレーキ踏んで!」
「バカヤロー!饅頭と大福を一緒にすんじゃねぇ!!」
「バカヤローはテメーだ!!」
そうこう言ってる内に病院が見えてきた。
おばあちゃんはドリフトテクを駆使して、速度を落とさず病院の敷地へと入った。
「おばあちゃん病院だよ!速度落として!」
「おばあちゃんじゃねぇ!いや、見た目はおばあちゃんかもしれねぇ。でもな、心はいつまでも少女なんだよ!」
「わかった!お嬢ちゃん!速度を落として!!」
「貴様ワシが93歳と知っての事かァァァ!!」
「知らねーよ!!あああ!ぶつかるゥゥ!!」
「見た目はババァ。頭脳は少女。って最悪じゃねーか!!」
「……もういや…」
ドゴーン!
―――――。
で、今にいたる。
まあ、よくもこんなに不幸が重なったもんだ。
変人に振り回されただけの様な気もするが。
「おまんじゅうおいしいねぇ。」
おばあちゃんは饅頭討論をやめ、饅頭を貪っていた。
「さてさて、さっき拾った取っておきのおまんじゅうでも食べるかねぇ。」
ん?なんだそりゃ。
おばあちゃんは紙袋を取り出し、中に入っている物をだした。
それは、ボ〇バーマンが使うような、爆弾だった。
その時、黒服の屈強そうな男が病室に入ってきて、爆弾の導火線に火をつけた。
「ちょっ、あんた何やってんの?」
「こっくりさん様からのご命令です。」
あのシェフ何調子乗ってんだ!?
「おばあちゃん…?それ爆弾じゃないの?捨てたほうがいいって……」
おばあちゃんは爆弾にかぶりついた。
「堅ッ!なんじゃこりゃあ!」
「それ絶対爆弾だって…。」
「こんな老人にやさしくない饅頭は……饅頭じゃねー!!」
「だから爆弾だって!」
おばあちゃんは窓の外に爆弾を放り投げた。
俺は焦って窓の外を見る。
よかった…人はいないみたいだ……。
「…って、あれ?あそこにあるの俺の原チャリじゃねーか!」
あの運転手遊ぶだけ遊んで飽きたらポイか!
爆弾は一直線に原チャリに向かっていく。
「……ぁっ…」
ドゴーン!
……さて、何回ドゴーンって言ったでしょう………?