第15話 みんなー!海君の幽霊退治のお話がはじまるよ!(外伝)
外伝なので、読み飛ばしてもストーリーに支障はありません。笑いもほとんどありません。
意識が覚醒していく。
ここは……。
意識ははっきりしてるのに視界は一向に見えない。
何やら息苦しく、冷たい空気に疑問を持ちながら、立ち上がろうとした時、何かを蹴ってしまった。
俺はそれを拾う。
これは…ライト……?
何も見えないので、確信は持てないが、形はライトのそれだった。
俺は手探りでスイッチらしき物を押す。
カチッ
すると、ライトに明かりが灯る。
ここは……まさか…。
記憶がよみがえる。
俺は、政人とハルの三人で病院に入った。
いつもは開かない筈のドアが開いていて、それに気付いた瞬間にドアが閉まった。
それで気を……。
そういえば二人は……。
「おーい!政人!ハルー!」
俺の声は暗闇に吸い込まれていく。
二人からの返事は無い。
恐怖感が全身を侵していく。
そうだ!ドアは…
俺はドアの場所へ走り、鉄のドアノブを回す。
ガチャガチャッ
ガチャガチャッ……
ドアは無情にも開かなかった。
「クソッ!」
木が打ち付けてある窓を思いっきり蹴り飛ばす。
しかし、思ったよりも頑丈な木は、微動だにしなかった。
「…嘘だろ…」
俺は、消え入るような声しか出なかった。
なんとか気持ちを落ち着かせよう…。
俺は煙草を吸おうと、ポケットに手を突っ込んだ。
すると、ポケットに覚えの無い紙が入っていた。
これは……?
「501号室に来てください。五階からは決して後ろは振り向かないでください。」
これは…政人の書き置きか…?後ろは振り向くなっていうのが気になる……。
しかし、これで希望は持てた。501号室に行けば、政人達が待っているんだろう。
五階か…。エレベーターは使えるはずは無い。階段で行くしかないだろう…。
俺は辺りをライトで照らす。
「階段は…ここか…」
2階―――。
2階の踊り場には、不自然な通路があった。
少し覗き込むが、ライトを照らしても、先は暗く、何やらここより空気が重い。
行かないほうが良いな…。それに5階に行けば政人達がいるんだし。
俺は階段を上り、5階を目指した。
4階―――。
「ハァ…ハァ…」
さすがにここまで来ると息が上がるな……。
自分の息遣いしか聞こえないと、ますます孤独感が込み上げる。
今、ここには俺一人しかいない。そんな事を考えてしまう。
しかし、階段を上がる毎に、空気が重くなっていく。これはただの思い込みか?それとも……。
書き置きの言葉を思い出す。
“5階からは決して後ろを振り向かないでください”
5階には、“なにか”が居るってのか……?
考えを巡らしているうちに、5階が見えてきた。
4階と5階の踊り場から上を見上げる。
5階には、髪の長い人が後向きで立っていた。
一気に鼓動が早くなる。
人である事はたしかだ。
しかしこんな所に、人がいる筈が無い。政人達でもないだろう。あいつらは髪が短い。
つまり、あれは人じゃない“なにか”だ。
ゆっくり階段を上がる。
本当なら今すぐ逃げ出したい。
が、5階への道はここしかない。
第一、戻っても意味が無い。外には出れないのだから。
階段を上がる毎に、そいつの輪郭がはっきりしてくる。
そいつは前、俺のいる方向を向いていた。後向きだと勘違いしたのは、長い髪が見えたから。
しかし、それは違った。
そいつは髪を振り下ろし、だらんと首がすわっていた。服装はワンピース。
色は、元は白なのだろう。しかし、汚れで所々黒ずんでいる。
俺は、よく喧嘩をするから解った。
これは血が乾いた後だ。
そして、全身に力なく立ったまま、こちらに向いている。
これは夢か?まるであの映画だ。
しかし、この生々しい空気と、自分のリアルな息遣いが、現実である事を痛いほどに証明する。
そいつは動く気配がない。
俺はそのまま動かない事を祈りつつ、階段を進む。
そいつとの距離は、もう目と鼻の先だ。
そいつは全く微動だにせず、俺は無事にそいつを通り過ぎ、5階に辿り着いた。
俺は安堵の息を吐く。
さて、501号室はどこだ?
「待て」
背後からの、人間とは思えない声に、反射的に歩みが止まる。
背筋に冷たい物が走る。
ヒタ…
こっちに歩いてくる…!
ヒタ…ヒタ…
じょじょに音が近くなる。
“後ろを振り向くな”
その言葉で、俺はかろうじて前を向いている。
…走れ!
自分の体とは思えない程、足が思うように回らない。
俺は無我夢中で走る。
走っているうちに、行き止まりになってしまった。
どこは隠れられる場所は……!?
俺は隣の部屋を見る。
番号を見ると、そこは運良く、501号室だった。
俺は滑り込むようにそこに入ると、急いでドアを閉め、鍵を掛けた。
「ハァー……」
再度、安堵の息を吐く。
俺は辺りを見回すためにライトを向ける。
あれ…?
ライトは、さっき無我夢中で走っている最中に落としてしまった様だ。
俺は月明かりを頼りに辺りを見回す。
ここは相部屋の様だ。
「来てくれたんだね。」
「!!」
俺はその声に身構える。
今の声は、政人でもハルでもなかった。
しかし、不思議とさっきの奴とは違う雰囲気の声だ。
悪意が無いのか…?
「………誰だ。どこにいる?」
「ここだよ。」
声と、窓から差す月明かりを頼りに探す。
声の主は、ベットに座っていた。
肩にかかるくらいの髪の長さに華奢な体。そいつは柔らかい笑みを俺に向けていた。
―――――。
「この紙を書いたのは、おまえ…?」
「うん。」
俺の心情を知ってか知らずか、そいつは無邪気に微笑む。
政人が書いたんじゃねぇのかよ……。
とんだ無駄骨を食らった俺は、パイプ椅子に脱力して座りこむ。
…?
「そういや、なんでこんなもん書いたんだよ?てか、なんでこんな所にいるんだ?…えーと…」
「瑞穂。あなたは?」
「海だ。で、なんでだ?」
「いやー、気付いたらここにいてね。なんでここに来たのかよく分かんないんだよね…。」
瑞穂が頭を掻きながら、照れ笑いをする。
「は?記憶喪失……って事か?」
「軽いね。ここはどこ?私はだれ?みたいな重傷な物じゃないよ。自分の名前とか覚えてるし。でも、気付いたらここにいて、なんでここにいるのか、いつからいるのかとかが全く思い出せないんだ。」
瑞穂は真剣な口振りで喋る。
…嘘はついてないみたいだが……
「名前は?」
「森丘瑞穂。」
「歳は?」
「17歳。」
「何でここにいる?」
瑞穂は腕を組み、うつむいた。
「…うーん。もしかしたら私は有名な霊能師で、おばけ退治で来たのかも!」
「はあ?」
何を言いだすかと思ったら…。
「だって女の子が一人でこんな所に来るわけないでしょ?」
…たしかに。
「それに、その書き置きだって、私が念じたらできたんだよ。」
「…頭が痛いのか?」
「ちがうよ!もし床に落ちてたって、あなたのポケットに入るわけないでしょ?」
「それはそうだけと…」
瑞穂は、見てて、と言うと、目を瞑って手を組んだ。
……………。
「……オイ。」
「…………ふぅ。煙草の箱を見てみて?」
…なんで煙草を持ってるって分かるんだ?
俺はポケットから煙草を取り出した。
「なっ……!」
煙草の箱には、焼いたような黒い文字で“みずほ最高”と書いてあった。
瑞穂は自慢気に鼻で笑う。
「ふふん、どう?信じた?」
「…おまえ、ナルシストだな。」
「え?殴っていい?」
「……まあ、アンタが霊能師だって事は信じよう。で、もう一つ質問だ。なんで俺をここに呼んだ?」
「あなたなら、除霊の協力してくれるかなって。」
「除霊って、まさか5階にいたあれか…?」
瑞穂は黙ってうなずいた。
「…冗談じゃねぇ。」
「なんでよー!いいじゃない!」
「ふざけんな!てか、何でアンタはそんなに除霊したがんだよ?そんなに無理してまでやることないだろ。とっとと帰りゃいいじゃねーか。」
「…うーん、それがね。この病院自体が呪われててね、外に出れないんだよね…」
……マジか?
「で、私が思うに、あの人がこの病院の幽霊の中で、一番呪いの力が強いのよ。だからあの人を除霊すれば、呪いが消えると思うの。」
あいつを成仏させなきゃ、ダメって事かよ……。
「あれは…あの女は幽霊なのか…?」
瑞穂はとたんに真剣な顔になる。
「……うん。あれは幽霊だよ。たぶん、私はあの人を除霊しに来たんだと思う。」
「って事は、あいつの事を少しは調べてんだろ?覚えてるか?」
「うん。全部知ってる。なんでここに留まってるのか、なんで成仏できないのか。」
「なんでだ。」
瑞穂はゆっくり、口を開く。
「むかしむかし、あるところに、仲の良い親子がいました。」
―――――。
その親子は母子家庭だったんだ。それでもその親子は幸せだった。
親の名前は恵子。うーん、名前は思い出せるのに、名字が思い出せないな……。
娘の名前は……思い出せない……。まあいいや!話を続けるね。
娘はある日、病気にかかって、大きな病院に入院したの。
それが、ここの病院ね。
でも、ここはあまり良い病院じゃなかった。
医療ミスを繰り返し、それをひた隠しにしてたの。
そしてそれは、娘にも降り掛かった。
娘は医療ミスで重傷を負ったわ。
親、恵子さんは娘の状態を疑って、病院に訴えたわ。
そして、病院は恵子さんの訴えを無視したの。
娘の病状はどんどん悪くなっていく。
恵子さんはそんな娘の姿を見て、ストレスで目が見えなくなってしまったの。
そして、娘は医療ミスで死んでしまった。
恵子さんはついに心まで病んでしまったの。
そして、娘が死んでしまった事も忘れてしまった。
恵子さんは娘のいた部屋に、毎日お見舞いしにきたわ。
それが迷惑になった病院は、恵子さんに娘は死んだんだって言ったの。
恵子さんは信じられなかった。そしてだんだんおかしくなって、最後にはノイローゼになって自殺したの。病院をひどく恨みながらね。
その後、病院は多くの医療ミスが発覚して、潰れたわ。
恵子さんは、死んでからも娘が死んだ事を信じられなかったのね。
恵子さんはこの病院の自縛霊になった。
今でも娘のお見舞いに来てるわ。
―――――。
そんな事が……。
「にしても、おまえ詳しいな…」
「うーん、自分でもなんでこんなに詳しいのやら………相当調べたんだろね。」
瑞穂は、えへへ、と照れ笑いをする。
自分の事だろ……。
瑞穂がベットから立ち上がり、人差し指をたてる。
「つまり、恵子さんに娘さんが死んだ事を気付かせれば良いんじゃないかな。」
「どうやって?」
「娘さんの死んだ部屋は402。隣の部屋の真下ね。多分、そこに行かせれば、記憶が戻って、娘さんが死んだ事に気付くんじゃないかな?」
俺は一つの疑問が浮かぶ。
「なんでその恵子さんとやらは、お見舞いに来てんのに娘の部屋に行かないんだ?」
「娘さんは死ぬ直前に部屋を移ったの。移る前の部屋は502。恵子さんは娘さんが死んだ事を忘れてるから、娘さんは移る前の部屋にいると思ってるのね。」
その時、隣で扉の開く音がした。
「……ね?」
俺は、瑞穂に近付き、小声で話す。
「そこまで分かってんだったら、アンタ一人でできるんじゃねぇの?」
「うーん、うまく誘導できないんだ。恵子さんは5階から動こうとしないんだよ。」
どうやって部屋に行かせるか。それが問題か……。
ふと、俺は一つの名案が浮かぶ。
「オイ、ここの建物はどんぐらい古いんだ?」
「え…?たしか、相当古いよ。思いっきりジャンプしたら床が抜けちゃうんじゃないかな…。」
「上等だな。瑞穂、こんなのはどうだ?」
俺は瑞穂の耳元で説明する。
「ええー!!無茶だよ!」
「ばっ!声がでかい…!」
「もごっ」
俺はとっさに瑞穂の口を手で塞ぐ。
「あいつはここから動く気がないんだから、強制的に行かせるしかねぇだろ。」
瑞穂は俺の手をはぎ取り、不安げな顔を浮かべる。
「なんかうまく行きそうに無いけど……。それに恵子さんは怨念が相当強いから、下手したら殺されちゃうよ…?」
「そしたらアンタの枕元に立ってやるよ。」
「それはやめて。うざいから。」
「……うん、わかった…」
…誰の枕元に立とう…?
瑞穂は短くため息を吐く。
「たしかに強制的に行かせるしかないよね。やるしかないか!」
「でも、そしたら、どのタイミングで行くかだな。いつあの女が来るかわかんねぇし。」
「あ、それは大丈夫。恵子さんは決まって5分置きに娘さんの部屋に行くから。」
「じゃあ、その5分でできるかが勝負の鍵だな。あの女が部屋を出た瞬間に入るか。」
「だね。そうと決まったら早く行こう!」
―――――。
502号室前。
俺は501号室側の壁に張り付き、様子をうかがう。瑞穂は、俺の後ろにくっついている。
あの女はまだ中にいるらしく、歩き回っている音が聞こえる。
瑞穂が俺の耳元で話す。
「恵子さんは目が見えないから、音さえ出さなければ気付かれないからね。それだけは気を付けてよ。」
「ああ、わかってるよ。」
ヒタ…ヒタ…
…………ヒタ
こちらに近づいてくる。
ヒタ…ヒタ…ヒタ…
ドアの前まで来たようだ…。
ガラ……
大丈夫…目が見えないんだ…音さえ出さなきゃ大丈夫だ……。
女は全身を脱力したようなポーズで部屋を出ていく。
ヒタ…ヒタ…
女は俺達のいる反対方向へと歩きだした。
フゥ…これで安心だな……早いとこ入るか。
俺は慎重に歩く。
ドアは開いたままなので、そのまま入ろうとする。
メキッ
「「!!」」
病院の老朽化で床が軋んでしまった。
女の動きが止まる。
そして、ゆっくりとこちらに振り向いた。
俺は声にならない叫びをあげながら、動きを止める。
しかし、女は反対方向を振り返り、ゆっくりとした歩調で行ってしまった。
た…助かった……
「ほら、早く入ろう。」
「あ、ああ…。」
部屋に入ると、そこは隣の部屋と同じ相部屋だ。
「よし、時間がねぇ。始めようぜ。」
「うん。」
―――――。
「ハァハァ…なんとかできたな…」
「ハァハァ…そ…そうだね……」
俺達は、部屋中のベットを真ん中に積み上げた。
「いけない!もうすぐ5分経つよ!」
「マジかよ!早く登るぞ!」
俺と瑞穂は、なんとか積み上げたベットの一番上に立つと、ドアのスライドする音が聞こえた。
「きやがったか…」
ベットの足からは、メキメキと床の軋む音が聞こえる。女は早くもそれに気付いたようだ。
ゆっくりと、しかし確実にこちらに向かってくる。
ヒタ…ヒタ…
女が、ギリギリまで近づく。
今だ!
「「せーのっ!」」
俺と瑞穂は、同時に思いきりジャンプした。
着地する際に、足に力を込める。
ドンッ
すると、床は大きな音を立てて崩れていった。
ガラガラガラッ!!
「いてっ!」
俺は着地に失敗して、背中を床に打ち付けた。
…よかった…。402号室の床は抜けなかった…。
この部屋の床が抜けちゃ、意味が無いからな…。
しだいに砂煙が無くなっていく。
俺は辺りを見回した。
俺は目の前の光景に驚愕した。
女が、へたりこんでいる瑞穂に、ゆっくりと近づいていくのだ。
…そんな…呪いは解けてないのか…?
「瑞穂!何やってんだ!早く逃げろ!」
瑞穂は瞳孔が開いたまま、こちらを振り向く。
「……ひ…あ…こ、腰が……」
腰が抜けたのか!?
どこまでベタなんだ!
「チッ!」
俺は瑞穂の方へ走る。
しかし、どう見ても女の方が瑞穂に早く着く。
「クソッ!瑞穂ォォォ!…………なっ……!」
俺は目の前の状況に、思わず歩みを止めてしまった。
女が瑞穂を抱き締めたのだ。
女からは先程のような、悪意は消えていた。
「どこに行ってたの!ずっと探してたのよ!」
女が涙を流しながら叫ぶ。
どうやら、瑞穂を自分の娘だと勘違いしているみたいだ。
「……え……?あ。」
瑞穂はしばらく惚けていたが、やっと状況を理解したみたいだ。
瑞穂は恵子さんを引き離す。
「お母さん、聞いて?お母さんも私も、もう死んでるんだよ。」
恵子さんは驚愕している。
「…そうだったのね…ああ…思い出したわ…」
恵子さんが光に包まれていく。
その姿は、とても綺麗だった。これが生前の姿なんだろう。
「ごめんなさい…あなたをこんなに早く死なせてしまって…。」
恵子さんは、再び瑞穂を抱き締める。
瑞穂はやさしく微笑んだ。瑞穂も泣いているようだ。
「ううん。私、後悔してないよ。だって、お母さんの子供に生まれてこれたんだもん。」
恵子さんはやさしく笑う。体は無数の小さな光になって、天に上がっていく。
「ふふ、私も生まれて来て後悔してないわ。あなたを生めたんですもの。」
二人は笑い合う。
ああ…恵子さんとその娘も、こんな感じで笑い合っていたんだろうか……。
「ありがとう………」
恵子さんはそう言うと、完全に無数の光の粒となった。
それはゆっくりと消え、病室は、また元の暗いものとなった。
「終わったな…。」
「ひっく…ひっく……うん…。」
瑞穂は座り込みながら、嗚咽混じりに喋る。
「ああ!泣くなよ!恵子さんは成仏したんだ。多分、1階の扉も開いてるから行こうぜ?ほら。」
俺は、瑞穂の前に手を差し出した。
瑞穂は俺の手を取り、起き上がる。
………ん?手握ったままなんだけど…。
「ひっく…ひっく……」
……ま、いいか。
―――1階。
フゥ…やっとここから出れる…。
瑞穂の嗚咽も、いつしか治っていた。
手は握ったままだ。
「海君、ありがとね。」
「……ああ…。」
なんか素直に感謝されると照れるな。
俺は扉の前まで行き、ノブを回す。
「お、開いてる。やっと出れんな。」
俺は扉を開ける。外は日がのぼろうとしていた。
俺は、外へ足を踏み出そうとするが、瑞穂が手を引っ張った。
「私…忘れてた……」
「は!?忘れ物!?ふざけ………」
俺は振り返る。
瑞穂は光に包まれていた。
「えへへ、私もしんでたんだったよ。」
瑞穂はいつも通りに、無邪気に微笑んだ。
「は…?嘘だろ…?なんで……?」
「私は森丘瑞穂。森丘恵子の娘です。あは、ばかだね。私も忘れてたんだ。」
繋いでいた手が離れる。
正確には離れたのではなく、瑞穂の手はすでに光の粒となっていた。
「まったく…アンタ等親子には騙されたぜ……」
「あはは、そうだね。」
瑞穂が笑う。笑っているが、目からは涙がこぼれる。
「ったく、泣くなって。」
そう言う俺も、目からは涙が流れていた。
瑞穂が俺に抱きつく。
体は、次第に小さな光になっていく。
「お別れだね…。あーあ、せっかく素敵な人を見つけたのにな。」
「フッ…残念だな。俺は彼女持ちだ。」
「あっ、うわき〜!いってやろ〜!」
俺は抱き締める力を強くする。
「…向こうでお袋さんと仲良くな。」
「何言ってんの。仲良いのはわかってるでしょ?」
「ハハッ、そうだな。」
「海君…。」
瑞穂の体は、完全に光の粒となった。
ありがとう……
光は天にのぼり、やがて消えてなくなった。
「フッ…幽霊も悪くねぇな……」
―――翌日。
「海くーん!昨日はおいてけぼりにして悪かったね!」
遅刻してやってきた政人が俺に笑顔で言う。
「テメーは………」
バキャッ
「グハァ!」
「フン!」
1発でも殴らねーと俺の気がすまねーからな。
ん?政人が綾に耳打ちしてる……。
ヒタ…ヒタ…ヒタ………
「海君……?走り屋の女達に囲まれてハーレム状態って、どうゆうことかしら………?」
あ、瑞穂。俺すぐにそっちにいけそうだよ。
どごごごご午後ッ!!
「ご…午後ってなんだよ…」
ドサ…
薄れゆく意識の中、瑞穂が笑顔で手招きしていた……。
気がする……。