第14話 こっくりさんを“さん”付けしたら、こっくりさんさん。亀吉さんと同じだな
それは、一つの出来事から始まった……。
昼休み。
俺は教室で自分の席につき、やる事もなく、まったりとしていた。
ふと、前の席にいる三人組の会話が耳に入る。
「なぁなぁ、久しぶりにさ、こっくりさんやんねぇ?」
こっくりさん。
他の地域ではエンジェル様など、呼び方は違うらしい。
やり方は、みんな知っていると思うが、ひらがな50音、はい、いいえなどを書いた紙に10円玉を乗せ、その10円玉の上に指を乗せ、こっくりさんに質問をする。すると、10円玉は勝手に動きだし、質問に答える。まあ、大体そんな感じだ。
「なつかしー!小学校で、はやったなぁ。」
「暇だし、やってみようぜ!」
お、なんか楽しそうだな。
「ヘイ、メーン!俺にもやらしてくれよ。」
「おお、政人。いいぜ。人数が多い方が楽しいしな!」
―――――。
机の上に紙、その中心に10円玉を置き、机の周りを4人で取り囲む。
クラスメイトA(名前忘れた)が、重苦しい感じで喋りだす。
「じゃあ、はじめるぜ…」
クラスメイトB、C、そして俺が、ゆっくりと頷く。
10円玉の上に指を置く。
「こっくりさん、こっくりさん。おいでください」
すると、10円は“はい”と書いてある所に止まった。
「き…来たようだな…」
クラスメイトBがごくりと生唾を飲む。
「おい、だれから質問する?」
「じゃあ、順番に行こうぜ。」
順番はクラスメイトA、B、C、俺の順になった。
「えーと、こっくりさんの好きな食べ物はなんですか?」
質問が地味だぞA!
10円玉が動きだす。
『あたりめ』
おやじくせーよ!!
てかAはこっくりさんの好きな食べ物を知って得はあったのか!?
「次は俺だな。こほん、こっくりさんは巨乳と貧乳、どっちが好きですか?」
だから知ってどーすんだよ!?
『おおきさよりもかたちがだいじだとおもう』
胸について真剣に語りだしだぞ!
「だよな!俺もそうだよ!」
『かたちだよな(わら)』
すごいフレンドリーだよ!てか(わら)ってメール気分かよ!
「つ…次は僕か…」
Cは緊張している様だ。
「こここっくりさんはははは」
緊張しすぎた!
『だいじょうぶ?』
心配されてるよ!!こっくりさんに心配されてる奴、始めて見たよ!
『ゆっくりしんこきゅうして?』
やさしい!!
「ぼ、僕ダメだ。政人君先にやって…。僕トイレ行ってくる…。」
あれ?これ途中で抜けちゃダメなんじゃないの?
『きをつけてね』
こいつホントにこっくりさんかよ!!
「次は政人だぜ?」
「お、おう。えーと、じゃあこっくりさん。俺はいつ彼女ができますか?」
うん。我ながら悲しい質問だ。でもこっくりさんって普通こうゆう質問をするんだよな?
10円玉が動く。
『あ?しらねーよ』
えーっ!?なにそれ!?
「こっくりさんひどくない!?俺にだけひどくない!?」
『んだテメー。けんかうってんのか?』
すげーグレてる!
「おい政人。その質問はダメだよ。」
「こっくりさんに失礼だよ。こっくりさんがそんな事しってるわけないじゃん。」
おまえもちょっと失礼だぞ。
「わかったよ。こっくりさんごめんなさい。」
『ゆるすかよ。あたりめもってこいや』
こいつすげー態度でけぇ!
「ああもう!こんなのやってられっか!」
俺はそういって立ち上がり、机をぶちまけた。
『いたい!』
痛がった!こっくりさん痛がったよ!
「まっ、政人!ヤバいって!」
「しるか!」
紙と10円玉は机から落ちた………かに見えた。
机は倒れている。
しかし、紙と10円玉は不自然に机に張りついている。
「…なっ…なんで……」
Aは机を立てる。
10円玉はひとりでに動きだす。
『まさとテメーやりやがったな?やっちゃいけねぇことやりやがったな?』
マジ切れしてる!
ちょっとまずいかも…。
AとBは後退りする。
『のろってやるかんな。おれがほんきだしたらすごいんだかんな!』
なんかあんまり恐くねーな……
「オイ、おまえホントに俺を呪えんのか?」
その時、教室のありとあらゆる物が浮かびだした。
「キャーー!」
「うおーー!」
教室はパニック状態だ。
次々と生徒が教室から逃げていく。
「逃げろーー!」
「ギャァァァ!」
「恐いよーー!」
「ワン!ワン!」
オイ!教室に犬が混じってるぞ!
『ハァハァ…ど…どう…?わかってくれた?』
疲れてるよ!
すると、教室に浮いていたペンが動きだし、浮いていたノートに何かを書き出した。
『今日の夜、橋河病院の廃墟の1122号室にあたりめを持って来い。』
それは、地元で有名な幽霊スポットだった。
そう、橋河峠の近くだ。
「ハァ…そこに持ってきゃいいの?」
『うん!ホントたのむね!きょうだよ!?きょうだからね!』
10円玉がひとしきり動いた後、教室に浮いていた物は一斉に落ちて、動かなくなった。
「ハァ…めんどくさ…」
「ま…政人…大丈夫かよ…?」
Aが心配そうに話し掛ける。
「ああ、大丈夫でしょ。」
でも、一人はちょっとやだな……。
みんなを誘ってみるか。
―――――。
「「「やだ。」」」
海、克也、里奈が口をそろえて言う。
学校帰り。
俺達は駅前のハン・バーガーにいた。
「なんでだよー!」
「面倒だ。」
克也が小説を読みながら、本当にめんどくさそうに答える。
クッ、久しぶりに出てきたと思ったら、憎たらしい………。
「何?いったらなんかくれんの?」
里奈はポテトを貪りながらだるそうに答える。
「おう!特別に俺の使用済みめんぼうぐはぁ!」
里奈が俺の顔にトレーを投げ付けた。
い…いたい……。
ふと、俺は海と目が合う。
「………フッ。」
ほ…本当にこいつらは…。後は頼みの綱、綾ちゃんだけだな……。
後ろから、タイミングよく声が聞こえる。
「ごめんなさい!委員会で遅れちゃって!」
―――――。
「ええー!そんな事があったんですか!?」
「ああ。それで、一人じゃ恐いからさ。一緒に来てくんないかな?」
綾ちゃんが興奮して立ち上がる。
「はい!そんな所に政人さん一人じゃ危ないです!」
「お…おい綾、あんたが行かなくても…」
「何言ってるの!海君も行くのよ!」
「……え?マジで?」
「みんな行くなら私も行こうかなー。」
「お、じゃあ俺も。」
おお!綾ちゃんのおかげでみんな乗り気になったぞ!
「よっしゃー!じゃあこっくりさん退治に、行くぜーー!」
「「「おー!」」」
里奈、克也、綾ちゃんが元気に答える。
「……え?マジで?」
―――――。
「……で?…なんで俺しかいないのかな?」
「うん、海君。それはね、俺が聞きたいよ?」
橋河病院に来たのは海だけだった。
綾ちゃんは両親が承諾しないため。ま、そりゃそうだわな。
克也と里奈は、今日中にやらなければいけない事があるからいけないらしい。
残ったのは海だけ。
…なんスか?この状況。
綾ちゃんはともかく里奈と克也はぜってー嘘だろ!
クソ…覚えてろよ…。
「まあいいや。海、行こうぜ。」
「…俺、帰るわ。」
「ちょっ、何言ってんだよ!ここまで来て!」
「お…俺、用事思い出したわ!じゃ!」
こいつ、まさか…。
「おまえ、びびってんの?」
俺の言葉に、海の動きがとまる。
「は…はあ?何言ってんだよ?俺は……」
「あ!海の後ろに!」
あれっ?海が消えた。
「草が生えてる。」
「びびらすんじゃねー!」
うおっ!俺の背後にいた!
「やっぱ、びびってんじゃん。」
「ちっちがう!びびったんじゃねぇ!……恐がったんだ!」
「変わんねーよ!?何一つ変わってねーよ!?」
「……何やってんのー?」
「うおっ!…って、水島。なんでここにいんだ?」
「いやー、バイクで峠に来たの忘れて、歩いて家まで帰っちゃってさー。」
ああ、この子頭が痛いんだ。
「あれ?また海がいない……」
「君の後ろにいるよ。」
「………オイ。」
「…はっ!……恐がったんだからな!」
「だから変わんね……」
オオォォォ……
俺達はその声のする方向を向く。
今、たしかに病院の方からしたような……。
「君達、ここに行くの?やめといたほうがいいよ?この病院に肝試しでいった人が帰ってこない事とかもあるんだって。」
「そうか、じゃあやめよう。」
「待て待て待てーぃ。俺等にはやることがあんだろ?」
俺だって、こんなとこいきたかねぇよ。
「理由があるんだ?」
「ああ、実は……」
―――――。
「ひぇー、そんな事が!」
「で、だな。海と二人じゃ心許ないし、一緒についてきてくんないかな?」
なんか、さっきからRPGみたいだな。
水島は腕を組んだまま、しばらく考えた後、顔を上げ、手をたたいた。
「……わかった!君にはパーツをくれた恩もあるし、ついていくよ!」
水島が仲間になった!
「でも、何か起きたら、別料金頂きます。」
水島は悪徳業者だった!
「まあ、よろしくな。っと、名前言ってなかったな。俺は斎藤政人。政人でいいよ。」
「僕は水島ハル。ハルでいいよ。よろしくね。」
自己紹介もすんだし、そろそろ行きますか…。
「おい、海。行くぞ。」
「…月が綺麗だな……」
海は煙草を吸いながら、空を見上げたままだ。
「ここにいてもいいけどな。こういうのは、一人になった奴から狙われるんだぜ?」
「フン、しょうがねぇな。ついていってやるか。」
ったく、こいつは……
―――――。
ギィィィィ……
病院に入る鉄の扉を開けると、錆びた蝶づかいのおとがする。
俺、ハル、海の順で入っていく。
病院、1階、入り口。
「真っ暗だな…」
「政人、ライトは?」
「ああ、ここにある。」
カチッ
ライトを点けると、廃墟らしく色々な物が散乱していた。あれ?でも…
「廃墟って、普通扉は閉まってんのにここは開いてんだな。」
「いや?ここは扉に鍵がかかってるから通れないよ。……あれ?」
その瞬間、扉が勢い良く閉まった。
バタン!
「…マジかよ…。」
行くしかねぇみたいだな。
「よし。みんな、気を付けろよ。…あれ?海は?」
ライトを後ろに向けると、海は地面に突っ伏していた。
「……おーい。」
「さっきので気を失ったみたいだね……。」
「…こいつは本当に…」
俺とハルは、取り敢えず海を壁にもたれかけさせて、ライトを一つ置いた。
「これでたぶん大丈夫だろ。」
俺は海を置き去りにして、2階へ進んだ。
2階、階段。
「うーん、1122号室ってどこなんだろ?1122って事は、11階って事だろ?ここって、外から見た感じじゃ、5階立てくらいにしか見えなかったけど…」
「あ、それ聞いた事あるよ。なんでも、ここには、僕達がいる本棟から続く、離れの隔離病棟があるって。たぶんそこじゃないかな。」
「その隔離病棟の入り口はどこにあんだ?」
「さあ?」
「だよな…。」
こっくりの野郎……。人をこさせんならもっと詳しく書けっての……。
「うおっ!」
俺はバランスを崩し、横の壁に手をついた。
今、何かに掴まれたような………
ん?この壁……。
「どうしたの?」
「なんか、ここだけ壁が薄いような…。」
そこを叩いてみると、音がエコーする。
俺は近くに落ちていた松葉杖を手に取り、そこを叩く。すると、
「やっぱり…」
壁は薄いボードのみで、何度も叩くと、簡単に壁はこわれた。そして、そこには木造の通路が広がっていた。
通路には窓は無く、ライトで照らしても、先は暗闇だ。
「ここだな。」
「うん…。」
ハルは俺の上着をぎゅーっと握っている。
…おお、なんか可愛いぞ…
ぎゅーっ
「……なんで、君は僕を抱き締めてるの?」
「え?まーまー。」
バキッ
「ごめんなさい。」
「早く行くよ!」
ハルはそう言うと、ずかずかと一人で歩いていく。
……さっきまで恐がってたくせに……。
―――――。
隔離病棟。
「ここか。」
俺とハルはようやく1122号室に辿り着いた。
ボロボロの木造のドアに立つ。
「きてやったぜ!こっくりさんよ!」
ガラッ!
病室は個室らしい。
「むにゃ」
誰かの奇声が聞こえた。
ベットから!?
俺はライトをベットに向けた。
そこには、俺と同い年くらいの青年が寝ていた。
こいつがこっくりさん…?
「うーん…もう食べられないよ………」
おいおい、ベタな寝言だな。
「だから石は無理だって……」
拷問されてんの!?
「え…?スイカ…?スイカなら食べれるよ…。え?ちょっ…違う…!」
うなされだしたぞ。
「そっちはケツだってぇぇぇ!!」
拷問されてんの!?
「はっ……!」
俺は青年と目が合う。
「あ、どーも。俺こっくりさんです。」
俺とハルは、ほぼ同時にため息をついた。
―――――。
「ハァ…俺はこんな奴のために……」
「まぁまぁ政人。いいじゃねーの。」
「馴々しいんだよ!あんたホントにこっくりさん!?」
「そうだ。俺が全国こっくりさん連合会所属、あたりめ太郎だ。」
「明らかに今考えたろ!?」
「てゆーか、こっくりさんって一人じゃないんだ……」
ハルはパイプ椅子に腰掛けて、くつろいでいる。
なんかもう座談会みたいだ。
「うん。全国にいっぱいいるよ。そりゃもう厳しい考査の後、よりすぐりのエリート達が選ばれるんだ。それが俺達、KOKKURISAN!」
あたりめ太郎はベットに立ち、自分でかっこいいと思っているんだろう決めポーズをした。
「「…………。」」
「K!O!K!けばぁ!」
ゴンッ
「もういいから。」
あたりめ太郎は頭をさすりながら、ベットに座り、おとなしくなった。
「しかし、君達が来てくれてよかったよ。もう、暇で暇で……。」
こいつ、暇つぶしに俺をこんな所まで呼んだのか……。
「まぁまぁ、そんな恐い顔しないで。今日は飲みましょう!!」
あたりめ太郎はそう言うと、ベットの下に手を潜り込ませ、ビンとコップを取り出した。
「おお、こ、これは幻の日本酒……。」
「ふふん、どうだ!」
「中々やるな!あたりめ太郎!」
「なんだその名前!バカにしてんのか!?」
「テメーが言ったんだろ!」
「まーまー、二人とも。」
ハルは俺達をなだめて、コップに酒を注いだ。
「まあ、いいか。」
「だな。」
「それじゃあ…」
「「「かんぱーい!」」」
―――――。
チュンチュン…
んはっ!?
………ここは…病院の前?
うーん、うろ覚えだが、ハルはほろ酔いでとっとと帰って、あたりめ太郎と朝まで飲み明かしたんだっけ?
俺は立ち上がり、病院を見上げる。
…こっくりさんって奴も悪くねぇな。
「あっ!海の事忘れてた!……まあ、いいか…」
俺はこの後、海に物凄く怒られた。相当恐い思いをしたらしい。
ちょっとむかつくので、綾ちゃんに、海が橋河峠でハーレム状態になった事を言った。海は相当恐い思いをしたらしい。