第13話 は…鼻血が止まらん…ハァハァ・後半戦
「おい!早くキーを回せ!」
「おっおう!」
俺はキーを回し、セルを押す。
キュルッブォンブォン!
よし!改めて……
「行くぜ!」
ブォー!
ん?向こうに見えるのは…敵チームの奴か…。フルフェイスを取ってるぞ。
………女!?
しかもスゲー可愛い…。
…………。
「おい!何原チャリ止めてんだよ!!」
海が交代地点から叫んでいる。
「いやぁ、心のアイドリングが高まっちゃって。でもしってる?心のアイドリングは地球にも優しいんだぜ?」
「うまくねーよ!?なんか自慢気だけどうまくねーよ!?」
ブォー!
「君達はバカだね。はっはっは!」
やべ、リーダーらしい男が出発しちゃった。
真面目にいかないとな。
ブォー!
オイオイ、これ相当速いぞ。
もう追いついたよ。
「なっ!なんて速さだ!すごすぎる!」
「だろ?まだまだ速度伸びるぜ?」
俺はそう言うとアクセルを回す。
原チャリの速度は更に上がっていく。
「へっ、どう…だ…」
リーダーらしい男は俺の真横にぴったりくっついていた。
「……うわっ!キモいよ!」
「言うことそれ!?てか軽く傷つくからやめて!」
「…おまえの原チャリもはえーな…。」
「フン、まあね。原付バイクのセッティングなんて目を瞑ってでもできるよ。」
「なんだと!俺だって原チャリのセッティングなんて目を瞑ってベットに寝そべり羊を数えながらでもできるぜ!?」
「それ寝てるよね!?セッティングもクソもねーよ!」
ヘアピンカーブの入り口が見えてくる。
速度を落とし、アウトコースにそれないように慎重に曲がっていく。
ヘアピンを抜け、速度を上げる。
すぐに次のヘアピンが見えてくる。
「フッ、君も中々やるようだね。だが、」
リーダーらしい男は速度を上げる。
「おっ…おまっ!」
リーダーらしい男はそのままヘアピンに入っていった。
入った瞬間に体重を内側に倒し、すぐに後輪ブレーキを以下省略。
リーダーらしい男はニヤニヤしている。
省略された事にも気付かずに。
「これがドリフトって言うんだよ?」
「へぇー!後輪ブレーキを以下省略すればドリフトができるのか!」
「え?なんの話?」
「いや、知らない方がいい……」
俺は普通に曲がって、リーダーらしい男の後を追い掛ける。
最後のヘアピンが見えてくる。
俺は更に速度を上げる。
メーターは振り切れ、スピードメーターは激しく点滅する。
リーダーらしい男の横に並ぶ。
「フッ、君がドリフトできなきゃ、この勝負は僕の勝ちだね。」
「ドリフトはできねーけど」
ハンドルをアウトコースに向け、アウトコースぎりぎりまで近づく。
「なっ…!」
「こんな事はできるんだぜ。」
俺はガードレールの側面に足を付ける。
予想通り、昨日の雨でガードレールが濡れて足を付けてもツルツルと滑る。
ヘアピンに入る。
更に原チャリをガードレールに寄せ、ハンドルをいっきにインに向け、後輪ブレーキを一瞬握り、アクセルを回す。
「オォォ!」
ガガガガッ!
原チャリの車体がガードレールに擦れる。
遠心力で足の負担が、どんどん重くなる。
クッ!
俺は足を曲げないように、必死に堪える。
速度は60をオーバーしたままだ。
ヘアピンの中間地点を過ぎる。
今だっ!
俺は足に全力を注ぎ、ガードレールを思いっきり蹴った。
バランスを崩しそうになるが、なんとか堪える。
「これが、ドリフットンって奴だ。」
俺はそう言いながら振り返る。
「見た目は派手だけど、」
リーダーらしい男は俺のすぐ後ろにいた。
「ドリフトと速さは変わらないね。」
リーダーらしい男はそう言うと、速度を上げ、俺を追い抜く。
「はっはっは!速度は僕のバイクの方が上のようだね!」
チッ、まずいな…。
コースは90度カーブの後、緩いカーブがあるだけで速度はあっちの方が上となっては、勝ち目がない。
奥の手を使うか……。
俺は携帯を取出し、奥の手の人物に電話した。
「俺だ。作戦通り行くぞ。」
『おっけい!まっかしときなさーい!』
「頼むぜ。里奈、綾ちゃん。」
フッ、これで俺の勝利も確実だな……。
―――――。
最後のカーブの中間地点。
「あのー、里奈?」
「ん?何?」
里奈は何やら楽しそうだ。
「ホントにやるの…?」
「あったり前じゃない!せっかく着たんだし。綾も似合ってるよ。」
里奈は茶化すように、綾に言う。
「なっ……!」
「シッ!……来たみたい。行くよっ!」
里奈が物陰から出る。
「私…応援しに来ただけなのに……」
綾は里奈につづく。
原付バイクで向かってくる男は驚嘆する。
「こっ…これは…!!」
―――――。
ブォー!
クソッ、すっかり見えなくなったな…。引っ掛かってくれてるといいんだけど…
その時、一台の止まっているテールランプが見えた。
よし!作戦成功だ!
テールランプの所までいくと、リーダーらしい男は原チャリを放り投げ、里奈と綾ちゃんを凝視している。
二人は、ナースの服装をしていた。
更にこのナース服は普通のナース服じゃない。
スカートの丈はぎりぎりまで短い。胸の部分はこれまたぎりぎり。ほとんど放り投げているに近い。
こんな服装をした可愛い女が目の前に現れたら、男だったら確実に凝視するだろう。
案の定、リーダーらしい男は俺に全く気付かずに、正座をしながら二人を凝視している。
ハハハ!俺の作戦勝ちだな!
里奈は俺に向け、親指を立てた。
俺はそれを親指を立てて返す。
そしてゆっくり止まる。
さてさて……
俺はリーダーらしい男の隣に正座する。
ハァハァ…見えそで見えない……。
この綾ちゃんの恥ずかしそうにしている姿………
たまらんですな!
「さっきの言葉言って!さっきの言葉言って!」
リーダーらしい男が叫ぶ。
綾ちゃんは恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「と…止まらないと…お注射しちゃうぞ…」
ウォォォォォォ!!!
俺はリーダーらしい男と、泣きながら固く握手をした。
「男冥利に尽きますね!」
「はい!まさにその通り!」
「てか、あんた達レースの途中じゃないの?」
「「…………あ。」」
―――――。
ブォーー!
「くそ、レースなんてすっかり忘れてしまった。」
もっと見たかったな…
「フッ、これから最後の直線。ストレートで勝つのは僕さ。」
カッコつけてるけど鼻血出てるぞ。
「いや、勝つのは俺さ。」
「カッコつけてるけど鼻血出てるよ。」
……はっ!
俺は鼻にティッシュを詰めながら言う。
「最後に笑うのは俺さ!」
俺はアクセルを最大まで回す。
次第にゴールが見えてきた。
「はっ!直線じゃ勝てないということを忘れたのか!」
「いや、忘れてねぇよ。」
俺が一台分前に出る。
俺とリーダーらしい男の差が離れていく。
「だから勝つんだよ。」
「なっなぜ……!」
俺が先頭のまま、ゴールの白線を踏んだ。
ワァーー!!
ギャラリー達が湧く。
リーダーらしい男はレースがおわった後も、ショックを隠しきれないようだ。
リーダーらしい男は地面に膝を付く。
「なっ…なぜなんだ……」
俺はリーダーらしい男に近付き、話し掛ける。
「フッ、原チャリを良くみてみな。」
リーダーらしい男は顔を上げ、自分の乗っていた原チャリを見る。
「これは…僕の原付じゃない……?」
「そう。それは俺の原チャリだ。さっき乗り間違えたのさ。それにおまえは気付かないで乗ってたんだよ。」
「ひ…卑怯…」
「先に間違えたのはおまえだぜ?それに、卑怯なんて言ったらおまえ等の方が卑怯だろ?」
「くっ……負けた…。」
―――――。
橋川ライダースの倉庫。
俺は目の前の光景に歓喜した。
バイク類のパーツが腐る程あるのだ。
「これ、なんでも貰っていいのか!!」
「うん、いいけど……」
リーダーらしい男が俺たちを見て喋る。
「人数多くないか…?」
俺たちと言うのは、俺、海、里奈、綾だった。
そう、俺はこれを理由に里奈と契約したのだ。
ちなみに二人は着替えた。ちょっともったいないが…。
「まま、いいじゃないの。さっ、みんな。気張って行こうぜー!」
「「「「「おーー!!」」」」」
「ん?かっこ一つ多くない?あっ!水島!なんで君まで!」
「まま、いいじゃないの。」
ん?
「おまえ橋川ライダースじゃないの?」
「ああ、違う違う。僕は助っ人なんだ。」
「助っ人?」
「そっ。このレースだけの助っ人。いつもはただの一人の乙女。橋川ライダースとは何の関係もないのさ。」
「ふーん。じゃあ、一緒に気張って探そうぜ!」
「おう!」
「もう好きにして…。」
―――――。
「お、エンジンあった。」
「よかったね!」
海と綾ちゃんはゼファーのエンジンを見付け、ホッとしているようだ。
「おおっ!これは最新のマフラー!いただきまーす!」
水島は興奮しっ放しだ。
「ん、このパソコンもらうね。」
里奈は見境無く貰っているみたいだ…。
おっ!ゲーム機あんじゃん!ソフトもけっこうあるな。もーらい!
「あ…ああ……」
リーダーらしい男はずっとうなだれている。
「よし、こんなもんかな。じゃ、皆さん帰りますか。」
「待ってくれ……」
「ん?」
リーダーらしい男が立ち上がる。
「せめて、最後に言わせてくれ…リーダーらしい男じゃない。僕の名前は……」
はい、周りの音が遠退く。
「みんなして耳ふさぐんじゃねー!!」
―――――。
ガチャ…
「ただいまーっと。」
俺は靴を脱ぎ、部屋着に着替えながら壁掛時計を見た。
うわっ、もう3時じゃん……メシ食って寝よ…。
俺はご飯かわりにパンを食べていると、ふと、亀吉さんが視界に入った。
そういや、この頃、亀吉さんとの交流が無いな。
俺は水槽に近付き、亀吉さんを眺める。
……なんにも楽しくねぇ……。
「亀吉さん。」
「………」
「今日はいろんな事があったよ。」
「………」
「今日も楽しかったね。明日はもっと楽しいといいね。ねっ?亀吉さん。」
「……へけっ」
!!!!!!!!!!