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第12話 海!おまえの心の中は昼ドラ並にドロドロだな!・前半戦

橋河峠。時刻は12時。


スタート地点には海が原チャリにまたがっている。



ふう……なんとか間に合ったな。


俺の原チャリはフル改造して、100キロ近く出るようになった。


海も、原チャリを乗る姿はなんとか様になってる。


一応、奥の手も用意したし……。


色々不安要素はあるけど、もう後には戻れねぇな。



俺は海の近くに行って、話し掛ける。


「おい、大丈夫か?」


「あ、ああ。大丈夫だ…。」


海は真っすぐ前を見たままだ。


…不安だ……。


リーダーらしい男が近づいてきた。


「僕達は上で待機だ。行こう。」


「ああ、わかった。……海。頼んだぞ?」


「……ああ……。」


不安だ…。



―――――。



政人が俺を不安気に見つめている。


「海……頼んだぞ?」


「……ああ……。」


自分でも驚くほど情けない声だ。


俺がそう言うと、政人は峠の上の交代地点に向かっていった。


隣の奴を見る。

そいつはフルフェイスをかぶっていて、表情は見えないが、余裕気に鼻歌を歌っていた。


クソ、むかつく野郎だな…一発ブン殴ってやろうか…


「はい、じゃあ12時10分にスタートです。」


このレースのレフェリーらしい奴が、俺と隣の奴、ギャラリー達に知らせた。


ハァ…なんでこんな事になってんだ……?


俺は原チャリの上で脱力感と迫りくる緊張感を感じた。

それを紛らわせるために、煙草に火をつける。

ふと、ギャラリー達の方を見ると見知った人影が見えた。


…あれは…綾……?

いや…いるわけねぇか…。


「はい、はじめまーす。」


「早っ!まだそんなにたってねぇだろ!」


「ストーリーの進行上、短縮されました。はい、位置について。」


「…………。」


……やってらんねぇ。


俺は煙草を捨て、スタート位置についた。


鼓動が少しづつ高まっていく。


「5秒前!」


レフェリーが手を上げる。


ギャラリー達の大声が聞こえる。


「4!」


「海くーんっ!」

「!」


「3!」


なんでいんだよ…。


「2!」


「がんばれー!」


「2!」


俺は声を出さずに、左手を上げた。


「1!」


「…いくぜ。」


「スタート!」



ブォーーン!


アクセルを回し、原チャリのマフラーから白煙を撒き散らす。


スタート地点から、しばらくは直線だ。

周りの景色がどんどん速くなっていく。

メーターを見ると、針は軽く60を振り切っていた。


…こわいんだけど…。


「なあっこれ速くない!?速すぎじゃない!?どーやって止めんの!?」


「いや、そこのブレーキを握るんだよ……」


俺はブレーキを握った。

すると、速度はみるみる下がっていき、メーターの針は30を下回った。


「ふう……」


「いや、ふうじゃねぇよ!!何やってんの!?」


「ば…バカヤロー、俺は道路交通法を守ってるだけだ。」


「え!?何こいつ!レースなのに道路交通法持ち出したよ!」


「おっと、こっちは反対車線だな。」



ブォー……



「……って何だよこれ!もうレースじゃねぇよ!!ツーリングだよ!」


「あっ、俺無免だしノーヘルだよ。」



ブォー……



「気付くのおせぇよ!!」



…うん。大体コツは掴めてきたな。

いや、俺コツ掴もうとしただけだから。びびってないから。


「俺はアクセルを最大まで回す。すると、それに応じるかのように速度はみるみる上がってゆく。周りは風の音しかしない。一人の世界。いや、一人じゃない。俺と言う存在さえも風に」

「説明なげーしうぜーし速度上がってねぇよ!!」


お、でもマジで慣れてきた。


「るせぇ。これから上げんだよ。」


俺はアクセルを最大まで回す。原チャリは急速に速度が上がる。


「なっ、だましたな!」


フルフェの奴も速度を上げる。


やっと一つ目の右カーブが見えてきた。


「ついてこれんのか?この俺によ。」


俺は速度を下げずにカーブを進む。


「なっ…!」


ぎりぎりまで体重を内側に倒す。


「ウォォ!」


俺は更にアクセルを回す。メーターはとっくに振り切れていた。


カーブを抜けると、また長い直線が見える。


後ろからフルフェの奴が追い掛けてくる。


「んだ、よく追い掛けてこれたな。」


俺はバカにするようにフルフェに話し掛ける。


「君、速いね。本気で勝負してみたくなった。」


フルフェはそう言うと、両手を離し、フルフェを取ろうとする。


「おっ、おい!そんな事したらあぶねぇぞ!てかフルフェ取ったらフルフェって呼べねぇじゃんかよ!!」


…なんて呼ぼう……。


「何言ってんの?僕はフルフェって名前じゃないし。それにフルフェイス取ったらすごいんだから。何ていうの?こう、脱いだらすごいんですみたいな…」



「何が言いた……い…」


俺はそいつの顔に驚いた。


お…おんな……?


しかも中々可愛い。

……いや!違う!違うぜ?俺は客観的に物を言っているわけでして………って、誰に言い訳してんだ?綾はここにはいねぇんだし。


その時、どこからともなく、紙切れが俺の前を横切り、原チャリのポケットに不自然に入った。


…?


俺は紙切れを取出す。

紙切れには文字が書いてあり、俺はそれを読む。



浮気…シタラ…カイクンノ…スネヲ中心ニ


……こわっ!

てか中心になんだよ!すげぇ気になるんだけど!


すると、俺の心を読むように、また紙切れが飛んできた。

俺はそれを恐る恐る読む。


毛を5〜14本抜いておきます。


地味だよ!!しかも曖昧だよ!

て言うか“晩ご飯は冷蔵庫に入れておきます”みたいなノリで書くんじゃねぇ!


…あとで謝っとこう。


「おーい、大丈夫かー?」


…!そうだ、今、俺はこいつと勝負してんだ。


「女だからって手加減はしねぇぞ。」


「おー、大体僕の顔見ると男は手加減するのに君は差別しないんだね。」


「…んな奴と俺を一緒にすんな。」


ちげぇよ。こえーんだよ。背後からすげぇ殺気を感じんだよ。


そうこうしている間に、長い直線を抜け、カーブ続きの所が見えてきた。ここは、ヘアピンカーブが3回続く一番難しい所だ。

「これを越えたら最後の直線で交代か。」


「ここで前を行った奴が勝利だね。僕はヘアピンの女王と言われるんだよ?」


「フン、言ってろ。フルフェを取ったフルフェ。」


「ネーミングセンスわりーよ!なんかもう顔自体がフルフェみたいじゃん!」


そいつはショートカットの髪をなびかせ、俺を指差す。


「僕の名前は水島ハル。今から君に勝つ乙女だ!」


「…フッ…つまんねーキメゼリフだな。」


俺もこいつに習い、指を差す。


「俺は氷室海。今からテメーに勝つ男、氷室海だ。」


「今自分の名前二回いったよね!?何!?演説気分!?」


90度の左カーブが近づく。


「しゃべんな。舌噛むぜ。」


俺はいっきに車体を左に傾ける。


カーブを軽く抜けると、すぐに一つ目のヘアピンカーブが見えてくる。


「ねぇ!演説気分!?演説気分なの!?答えろよ!」


「もうしつけーよ!そんなに俺悪い事言った!?」


俺はブレーキを握り、ゆっくり曲がっていく。


一つ目を抜けると、二つ目までは少し距離がある。

カーブを抜けた瞬間にアクセルを回し速度を上げる。


「演説気分なんだね!!本当ありえない!僕って君のなんなの!?」


「テメーがなんなんだよ!!なんでテメーにそこまで言われなきゃいけないの!?演説気分をどう解釈すればそんな反応ができんだよ!」


ヘアピンが近付き、俺はブレーキを握る。

しかし、あいつは速度を下げなかった。


ぎりぎりまで近付き、ヘアピンの入り口付近でブレーキをにぎり、アクセルを回す。


すると、昨日の雨で地面が濡れているせいか、後輪が面白いように回る。


「……!…」


「しってる?これ、ドリフトって言うんだよ?」


水島は自慢気にニヤけると速度を上げた。


二つ目のカーブを俺が抜けると、あいつは余裕気に俺を待っていた。

ニヤつきながら俺の反応をまっている。


「ちくしょう…また一つ知識が増えちまった。」


「君って知識が増えると死ぬ病気でも持ってんの?」


三つ目、最後の右ヘアピンが見える。


「俺だって、できるさ。」


「え…?」


俺は速度を下げずにヘアピンに入る。

「たしかこうだよな。」体重を内側に乗せ、いっきに後輪のブレーキを握る。すぐにブレーキを離し、アクセルをフルスロットル。後輪のタイヤは、地面に食い付けずに回転する。

その後ハンドルを左に向ける。すると、車体は弧を描くように鋭く曲がっていく。


「これが“どりふと”だから。」


水島は唖然としている。


「き…君、何者…?」


俺はニヤつきながらアクセルを回す。




―――――。


交代地点。

ギャラリー達がざわめく中、俺はスタート位置につきながら、原チャリのハンドルに顎を乗せ、脱力していた。


……おそくね?なんかやる気無くなってくるんだけど。


「なあ、リーダーらしい男。こんなに遅いもんなの?」


「そろそろくると思うけど……て言うかリーダーらしい男って何?僕の名前は………」


あー、周りの音が遠退く。


「ねぇ、さっきから耳ふさぐのやめてくんない?」


「おお、体が勝手に。」


「ちゃんと聞いてくれよ?僕のなまえは」

ワァーー!!

「…帰っていいですか?」


お!来たみたいだな。

先頭は……海だ!あいつ運転うまくなったな。


レフェリーが話し掛ける。


「パートナーが交代地点の白線を通った瞬間、スタートですよ。」


よし!こいや!


自然とハンドルに力が入る。


「政人ーーー!!」


海が白線を抜ける。


「一発かましてやれ。」


「オウ!!」


俺はアクセルを最大まで回す。


「ブォー!!すごい、この風を切るように走るこの姿!」


「…………。」


「私の中に、俺が帰ってくる……。」


「…何やってんの?」


「うん。あのね、キー回してなかったみたい。キャッ恥ずかしっ」


「てーめぇー!!」


バキッ


「デ…デシャヴ…」



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