第10話 海に説教する俺マジはんぱねぇ(最後)
「………」
俺は海にかける言葉が無かった。
海は俯いたままだ。
「その後、川越は捕まった。当分出てこないそうだ。」
「綾ちゃんとは?」
「葬式に来てたな。でも、兄貴が死んだ日から話してねぇ。」
だからこっちに来たのか……
海が嘲るように笑いだした。
「クク…笑えんだろ?俺は兄貴に勝てないままだ…。一生な…」
「…そうだな。耕一さんがいても、今のおまえじゃ絶対勝てねぇよ。」
海は驚きの表情のまま、俺を睨み付けた。
俺はかまわずに話し続ける。
「テメーは耕一さんが死んだ日からずっと足踏みしたままじゃねぇか。そんな風になんないようにおまえに“俺に勝ってる”って言ったんじゃねぇのか?」
「…わかってるよ…そんな事…。わかってても悲しいもんは悲しいんだよ!結局兄貴がいなかったら俺は一人なんだよ!」
「ちげぇだろ?」
海が再び黙り込む。
「おまえが一人なのは、人がおまえを避けてんじゃなくて、おまえが人を避けてんじゃねぇのか?綾ちゃんだってそばに居たじゃねぇか。同情とかじゃなくて、本気で一緒に悲しんでくれたんじゃねぇのかよ?」
「…うるせぇ…うるせぇ!」
海が俺に殴りかかる。
バキッ!
俺は避けずに顔に拳を受けた。
「!」
「なんもわかっちゃいねぇな。」
俺はそう言いながら海の横ッ面を思いっきり殴った。
「グハッ!」
海は衝撃で地面につまずいた。
「オラ、来いよ。体で分からしてやるよ。」
海は俺を睨み付けながら、立ち上がった。
「…なめんじゃねぇ…」
―――――。
俺は拳を振り上げる。
「オラァ!」
バキッ!
「クッ!」
海はフラフラになりながら持ちこたえた。
今度は海が拳を振り上げる。
「ッラァ!」
バキッ!
「グッ!」
俺は倒れそうになるのをなんとか持ちこたえ、海に笑いかける。
「フッ、そんなモンかよ?」
「…うるせぇよ。」
「今のおまえじゃ勝てねぇよ。仲間がいるくせに一人ぼっち気取りやがって。」
「仲間なんていねぇ。」
「いるじゃねぇか。綾ちゃんとか、クラスの奴等とか、それに、俺も…」
「………!」
「俺が勝ったら足踏みしてねーでちゃんと歩きやがれ。」
俺は拳に力を込める。
「…ああ、勝ったらな…。」
海の顔に狙いを定める。
「じゃ、歩け。」
バキッ!
海は地面に崩れながら、何かが吹っ切れたような顔をしていた。
―――――。
『おまえは本当俺がいないとダメな。』
ああ、兄貴。
でも、もう大丈夫だ。
『みたいだな。高校生で兄貴ばなれかよ。遅いねー。ん?高一で耕一ばなれ……うまい!あ、でも海は高二か。チッ』
………。
『あっ、やめて。その視線。』
なんか、兄貴と政人って似てんな。
『かもな。じゃあ、今度から政人君がおまえの兄貴だな!』
ハハッ、それは嫌だな!
『そうだ、綾ちゃんにもちゃんと謝れよ!』
…わかってる。
『ん?綾に謝れ……うまい!はっはっは!』
………。
『……ごめん…。』
……本当にこれでお別れだな。
『ああ…。でもいつでも見守ってやるよ。』
フッ、ノミかっつーの。
『おっ!言うねー!』
……またな。そっちにいったらタイマンだからな。
『ハハッ、おまえがくる時は寿命だよ。勝負になんないね。』
フッ……じゃあな、兄貴。
『じゃーぬーん、わが弟よ。』
最後くらい真面目に言えっ!
―――――。
「………う…っ」
あ、起きた。
今、俺と海は俺のアパートにいる。
さすがにほっぽっとくのは可哀相だったので、俺は海を担いできた。
「ここは…」
「俺んち。取り敢えず風邪引きそうだったから、服は俺のと取り替えたぜ。あーあ、おまえが女だったら、素敵なシチュエーションだったのに……」
「余計なお世話だ。」
「まっいいや、取り敢えずなんか飲むか。」
俺はそう言って冷蔵庫に向かい、扉をあける。
「……政人。」
「なーにー?」
「…俺…綾に謝るよ…」
「おっ!男だねー!じゃあ、気合い入れるために今日は飲みますか!」
「飲むって、何を?」
「男の飲み物って言ったらこれっしょ!」
俺は日本酒を持ちながら言った。
海は呆れた顔をしている。
「おまえな……」
「えっ?なに?まさか海君お酒飲めないの!?」
海の眉が一瞬釣り上がる。
「…上等…飲み比べだ。」
「なんだ?俺に勝てっと思ってんのか?」
その夜、俺達は鬼神の如く飲みまくった。
そして鬼神の如く吐きまくったのも、言うまでもない。
話が長引いてしまって、申し訳ありません。 次話からはちゃんとコメディーです!