中華料理店・龍火楼
空太とエラは、夜の道をバイクを引きながら、空太の働いている中華料理店「龍火楼」に到着した。
「スイマセン、店長…。今戻りました。」
「空太!お前どこほっつき歩いてんだよ!!」
店中に「龍火楼」の店長、王の罵声が飛ぶ。
「あの…。店長さん、彼を叱らないでくださいませんか?」
そこへエラが割って入る。
「おたく、誰だい?」
王は、ちょっとだけ優しい顔になってエラに尋ねた。
「私、エラと申します。実は、先ほど、お仕事している空太さんにぶつかってしまいまして…。それで、お仕事の邪魔をしてしまいました。申し訳ありません。」
「なぁに!!お嬢さんが悪いわけじゃないよ。悪いのは、ボーっと仕事しているこいつだから。がはははっ。」
そういうと、王は豪快に笑った。
「で、店長、迷惑ついでに頼みがあるんですけど…。あの…、この子をうちの住み込みに…。」
「えぇ?なんだって?声が小さすぎて聞こえねぇよ。」
「店長!!エラさんをうちの店で住み込みで雇ってもらえませんか!?行くところがないんです。店長!!お願いします。」
空太は店長に頭を下げた。エラも合わせてお辞儀をした。
「エラさん言ったね。行くとこないって、何か理由でもあるのかい?」
王は不審そうにエラに尋ねた。
エラは、少し考えてから口を開いた。
「私が話すことを信じてはいただけないかもしれないのですが…。」
「まぁ、いいから話してみな。話さなきゃわからないこともある。」
「はい、店長さん。私、実は本日、月からやって来たのです。」
「え?月?」
エラの言っている事が、王にも空太にもちんぷんかんぷんの事で、今の信じがたい一言に目を丸くするしかなかった。エラは、話を続ける。
「はい。信じていただけないかもしれませんが、私は月の中にある月の星の王国という星の人間です。昨日、私の星が破壊され、消滅してしまいました。私は、国王の力をいただき、この地球へと逃げてきたのです。」
「おい、ちょっと待って、逃げてきたってことは誰かに追われてるの?」
空太が口を挟んだ。
「はい。星を消滅させた者たちが私と星の力を狙っています。」
「なんだか、信じがたい話だが…。」
王は、腕組しながら首をかしげた。
「えぇ、とても信じれるようなお話ではないと…。」
「まぁ、いいさ!!俺は難しい話はよくわからないけど、困ってる美人をほっとくわけにはいかないからな!いいよ。エラを雇おう!空太、お前がちゃんと面倒見ろよ。」
「お!店長、ありがとうございます!。さすが、店長、太っちょだねぇ!!」
「空太、お前それ、使い方間違ってるからな。頭良くねぇんだから、難しい言葉使おうとすんな。がっはははは。」
王は、大口を開けて笑い出した。
「ありがとうございます、店長さん。私、一生懸命働きます。迷惑かけるかも知れませんが…。それと、もう一つ言っておきたい事が…。」
エラは、ちょっとだけ言いづらそうに、顔を歪めた。そこへすかさず、王が聞いた。
「なんだい?」
「あ、あの、昨日の流星群を覚えていますか?」
「あぁ、覚えてるよ。かなりの量だったし、客もみんなで外に出て、手合わせて拝んでたぜ。」
王が言った。
「俺も覚えてるよ。ガキじゃないけど、俺も星に願いをしちまったもんなぁ。」
空太も照れながら話した。
「あの流星群で、月の力が三つ、この星に堕ちました。そして、地球人の魂に共鳴し、三人の人間にそれぞれの力が取り込まれました。その一つが、空太さん、あなたに堕ちたのです。」
「えぇ!!!!?俺?」
空太は驚くような話ばかり聞かされて、さらに目が丸くなったようだった。
「はい。昨晩、空太さんの体を突き抜けたのがそれです。その光には力が宿っていて…。」
「力って、どんな?俺の体、どうなっちまうんだよ?」
突然の突拍子もない話に、まったく頭では理解ができない。
「それが、どんな力か私にもわからないのです。その光は、共鳴した者の力を引き出す力を持っているのですが、人それぞれ力の形が違うので、私にもどんな力に変化するのか、わからないのです。ちなみに、私の父、亡き王には、テレポーテーションの力が宿っていました。その力で私は地球へと…。」
エラは、少し悲しそうな表情を見せた。
「じゃぁ、俺、どうなるかわからないんだな…。」
空太もまた、少し悲しそうな表情をした。
「しかし、月の力が体に悪影響を及ぼすことはないはずです。地球人には宿ったことがないので、王のような超能力が宿るかはわかりませんが、言い伝えによれば、『月の光が他の星の者に宿りしとき、全宇宙の危機を救う勇者となり、世界が光に包まれる』とあります。」
ここで、王が口を挟んだ。
「なんか、話が難しすぎて、俺にはよくわかんねんだけど、な、空太。女を守るのは男の務めだろう?それに、俺はお前に、エラちゃんの面倒はお前が見ろって言ったよな。だったら、守れ。つべこべ言わずに守れ。面白い力つくんだろう?それ使って、精一杯守れ!!なっ!!」
王は、今までとは比べ物にならないくらい真剣な表情だった。
「店長さん…。」
「わかりました、店長。俺、守ってみせますよ!!よし、今日から俺が、エラのことを守ってやっから!!なっ!」
「あ、ありがとうございます。それでは、この呪文を…。」
エラは、空太に小さな紙を渡した。空太はそれをゆっくりと受け取った。
「その言葉を唱えれば、空太さんへ宿った力と空太さん自らの力が、最大限に引き出されます。」
「あ、あぁ、わかった。忘れないようにしないとな。」
そう言いながら、受け取った紙を自分のポケットに無造作に入れた。
「お前、なんか軽いんだよなぁ…。大丈夫か?本当に。」
王は、冗談めかして空太をからかう。
「大丈夫ですよ!!俺、嘘嫌いですから!!」
少しだけ、怒ったような表情を見せて答えた。
「じゃ、部屋は二階にあるから。荷物もそんなにっていうか一つもないのか…。布団とかは貸してやれっけど…。明日、店休みだから、服とか買いに行って来たらいいよ。空太、買い物がてら色々案内してやれよ。給料は…、前貸ししてやっから!!がっははは。」
「店長、せこっ!!。」
「うっせいや!!だまって、従え!!」
「はーい、店長。」
空太は苦笑いしながら、挙手して答えた。
「スイマセン、何から何まで…。」
「良いってことよ。困ったときはお互い様だし。これからバリバリ働いてもらうから!!じゃ、俺、寝るから。空太、そこ片付けておけよ。掃除さぼったんだから。おやすみ!」
「うっ!!わかりました。やっときまーす。お疲れ様です、おやすみなさい。」
そう言うと、王は二階へと上がっていった。
「空太さん、本当にスイマセン。私なんかが来たばっかりに…。こんな面倒なことに巻き込んでしまって…。」
「まぁ、こういうことになったからにはやるよ!!守るし。俺が世界を救うヒーローになれるかも知れないし。ははは。そうはならなくても、困ってる女子をほっとけないでしょ!?まぁ、なるようになるさ。」
空太は、満面の笑みでエラに答えた。エラは、その笑顔を見て、急に涙が止まらなくなってしまった。
「ちょ!!泣かないでよ。俺は女の涙に弱いんだ。さぁ、今日はもう疲れてるだろうから、寝よう!ね、寝ようって一緒にじゃないよ?誤解すんなよ。な!」
「は、はい。ふふ。ぐすん。私も片付け手伝いますね。」
エラの顔にはちょっとだけ笑顔が戻り、鼻水をすすりながら、空太の片付けの手伝いを始めた。






