従妹が付き纏ってくるせいで、完璧婚約者に婚約解消されかけた愚かな公爵令息の話
エドワードは両親から聞いて驚いた。
「嘘だろ。アウド公爵家が婚約解消を申し出てきたって???私はコレンティーヌを愛している。コレンティーヌとの関係だって上手くいっていたはずだ。それなのに?」
エドワード・ラルク公爵令息は金髪碧眼の美男である。
もうすぐ、婚約者であるコレンティーヌ・アウド公爵令嬢と結婚式を控えていた。
共に18歳。もうすぐ貴族なら誰しも行く王立学園を卒業する。
卒業したら結婚する予定だ。
コレンティーヌはそれはもう気高く美しい令嬢だ。
何もかも完璧で、名門アウド公爵家の令嬢と婚約が出来て、エドワードも鼻が高かったのだ。
コレンティーヌはエドワードの家、ラルク公爵家に嫁いで来る。
父も母も何もかも完璧で銀髪碧眼の美しいコレンティーヌを気に入っていて、
「コレンティーヌが嫁いでくるのが楽しみだ」
「そうですわね。コレンティーヌなら我がラルク公爵家に相応しい公爵夫人になることでしょう」
エドワードとコレンティーヌとの仲も良好だった。
「コレンティーヌ。ここの数式はどうやって解くのだろう」
「エドワード様、ここはこのようにですね」
「さすがコレンティーヌ。こういう解き方もあるのだな。私はこっちの数式の解き方で解いてみたのだが、納得出来なくてね」
「あら、この数式でも解けますわ。さすがエドワード様。わたくしの上を行きますわね」
互いに尊重し合い、互いに思いやって。
「コレンティーヌ。今年の冬は冷える。何か暖かいコートでもプレゼントしようか?」
「あら、わたくし、公爵家の娘ですのよ。コートなら何着も持っておりますわ。でも、エドワード様がプレゼントして下さるだなんて。身も心も暖まりそうで嬉しいですわ」
「君の好きな色のコートをプレゼントするよ。今度、君が家に来た時に、商会の者を呼んで作って貰おう」
「嬉しいですわ。わたくしからも何か、プレゼントしたいですわ。ああ、わたくしもエドワード様にコートを差し上げますわ。お揃いの刺繍をアクセントに入れたら素敵ですわね」
「それはいいな。一緒に歩いて、一目で婚約者だって解りそうだ」
思いだすだけでも胸が温かくなる。
エドワードは黒の、コレンティーヌは深紅のコートを作って、胸に薔薇と鷹の刺繍を入れて貰った。
薔薇はコレンティーヌの好きな花だから。
鷹はラルク公爵家の家門だ。
揃いのコートを着て、お忍びで街に出かけ買い物を楽しんだ。
深紅のコートはコレンティーヌに良く似合っていた。
ショーウインドウを二人で見て歩く。
後ろに勿論、護衛が二人ついてはいるが。
雪が降って来た。
コレンティーヌは微笑んで、
「寒くなってきましたわね。でも、貴方と二人でこうして歩くのも素敵だわ」
ふわふわと降る雪がコレンティーヌの銀の髪に引っかかる。
それを指先で掬って。
「そうだな。雪の中のコレンティーヌもとても綺麗だ」
「有難うございます」
二人で見つめ合った。
幸せだ。とても幸せで。
エドワードには大事に思う幼馴染の従妹がいた。
マデリーヌ・ラディク伯爵令嬢は赤毛に青い瞳の令嬢だ。
エドワードの母方の従妹に当たり、幼い頃からマデリーヌの事はよく知っている。
前ラディク伯爵の祖父から、可愛いマデリーヌの面倒をよく見てやってくれと言われていた。
だから、王立学園でマデリーヌが困ったことがあって頼ってくれば、相談に乗ってあげていた。
彼女は一つ年下の17歳。
学園でエドワードを見かけると、走り寄って来て。
「エドワード様。困ったことがあるのです。私、今、抱えている課題が難しくて。教えて貰えませんか」
「解った。放課後に見てあげよう」
従妹が困っているのだ。
コレンティーヌにその話をしたら、一緒に見てくれるという。
二人で教室へ行けば、マデリーヌはコレンティーヌに向かって、
「申し訳ありません。コレンティーヌ様の手を煩わせる訳にはいきませんから。お帰り下さい」
「でも、わたくしも見て差し上げたいわ」
「いえいえ、申し訳ありませんから」
コレンティーヌが帰ってしまった。
でも、従妹が困っているのを見ていられない。
マデリーヌの勉強を見てあげた。
マデリーヌは困ったことがあるとすぐに頼って来る。
その頻度がだんだんと増えてきた。
「エドワード様。今度の休みに一緒に本を買いにいきませんか?エドワード様に勉強に役立つ本を教えて貰いたいのです」
「いや、今度の日曜日はコレンティーヌとのデートがあるから」
「そのデートの時に私もついていって、本を見て貰いたいですわ」
「デートって二人きりでするものだろう?」
「でもでも、私、困っているのです。今度の日曜日、エドワード様。よろしくお願いしますね」
コレンティーヌと二人きりのデートのはずが、マデリーヌが着いてきた。
エドワードに腕を絡めて来て、
「私、幼い頃、引きこもっていたのです。外の世界の良さを教えてくださったのがエドワード様。私、エドワード様が初恋なのですよ」
コレンティーヌは微笑んで、
「まぁエドワード様が?お優しいのですね。エドワード様」
「いやその、祖父に頼まれたから」
マデリーヌはにこやかに、
「それからエドワード様は私の事を将来、妻にしたいって言ったのです」
「いや、言った覚えはないが」
「だって私にあれだけ優しかったじゃないですか。だから私はてっきり結婚してくれるかと」
「だが、この王国ではいとこ同士は結婚出来ないだろう?」
「でもでも、私、エドワード様の事が大好き。好きで好きでたまらないの。だから、エドワード様がコレンティーヌ様と結婚しても、私、遊びに行くから。エドワード様に面倒を見て貰わなかったら私‥‥‥引きこもってしまうわ」
エドワードは困った。
祖父に面倒を見てやってくれと言われているのだ。
「だが、いい加減に独り立ちしないと。マデリーヌだって困るだろう?」
マデリーヌは黙りこくってしまった。そしてコレンティーヌを睨みつけたのだ。
コレンティーヌはにこやかに、
「まぁ、困ったご令嬢ね」
と眉をわずかに顰めた。
エドワードは慌てて、
「祖父に面倒を見ろと言われていて‥‥‥本当に困った身内で申し訳ない」
コレンティーヌに謝った。
そういう事がたびたび起こるようになって。
コレンティーヌはにこやかに対応してくれるけれども。
とある日、コレンティーヌの家、アウド公爵家から婚約解消の申し出があったのだ。
エドワードの両親のラルク公爵夫妻は真っ青になって、
「エドワード、何をやらかした。これ程の良縁、婚約解消を申し出られるなんて」
「ともかく、アウド公爵家に参りましょう。訳を聞きに行きましょう」
先ぶれも出さず、三人は馬車に乗ってアウド公爵家に乗り込んだ。
アウド公爵夫妻とコレンティーヌの三人が客間で会ってくれた。
アウド公爵は、はっきりと、
「そちらのマデリーヌ・ラディク伯爵令嬢。ラルク公爵夫人の姪だそうですな。それにしても礼儀がなっていない。娘が結婚してからもあの令嬢と付き合うのは嫌だと言っておりましてな」
コレンティーヌは眉を寄せて、
「わたくし、随分我慢致しました。でも、あの令嬢が近づいて来て、エドワード様と慣れ慣れしくするのです。エドワード様も満更でもないのでしょう。これから先、そのような事が続くなんて耐えられませんわ。ですから婚約解消致したいと思いますの」
エドワードは慌てた。
「あれは祖父が命じるので仕方なく。それにマデリーヌは身内だ。冷たく出来ないだろう」
「身内を大事にするという事は素晴らしいと思いますわ。でも貴方のは度が過ぎております。どうかこれから先もラディク伯爵令嬢を大事にしてあげて下さいませ。わたくしの関わりのない人生を歩んで下さったら嬉しいですわ」
物凄く慌てた。
このままでは、愛しいコレンティーヌに婚約解消をされてしまう。
ラルク公爵夫人が、
「でもマデリーヌは大事な姪ですわ。エドワードが面倒を見るのは普通ではなくて?」
コレンティーヌははっきりと、
「度が過ぎていると申しているのです。学園でも勉強を教えて、休日も二人の婚約者の交流に割り込んで来るのですわ。どういう教育をしておりますの?そもそもラディク伯爵令嬢にだって婚約者はいるでしょう?」
ラルク公爵夫人は、
「10歳年上の男爵令息と婚約を結んでおります。でもマデリーヌは気に入らないらしくて」
ラルク公爵がきっぱりと、
「だから、あの娘を甘やかすなと。お前達のせいで、せっかくの婚約が解消されようとしているんだぞ」
エドワードはコレンティーヌに向かって、
「二度とマデリーヌを甘やかさない。君を一番に考えるから婚約解消を考えなおしてくれないか?」
アウド公爵はコレンティーヌに、
「ラルク公爵家程の良い嫁ぎ先は先々見つからないぞ」
アウド公爵夫人も、
「そうよ。コレンティーヌ」
コレンティーヌは渋々、
「仕方ないですわね。今回は許しましょう。でもこれから先、あの娘が付き纏うようだったら」
エドワードはコレンティーヌの手を両手で握り締めて、
「絶対に、あの娘とは付き合わないし、面倒も見ない。愛しているよ。コレンティーヌ」
やっと婚約解消は勘弁して貰った。
マデリーヌの親であるラディク伯爵に、ラルク公爵が厳重に注意した。
マデリーヌをラルク公爵家と関わらせるなと。
そうしたら、前ラディク伯爵がマデリーヌを連れて、ラルク公爵家に乗り込んできたのだ。
「わしの可愛い可愛いマデリーヌの面倒をみないじゃと?どういうつもりじゃっ」
マデリーヌも涙を流しながら、
「そうよ。エドワード様に面倒を見て貰わないと。私、一生懸命、勉強も頑張っているのよ。エドワード様が面倒を見てくれるから。だから、これからもエドワード様に教えて貰いたいわ」
ラルク公爵夫人が眉を顰めて、
「お父様。マデリーヌを甘やかしてはいけませんっ。夫に怒られましたの。わたくしも可愛い姪を甘やかしていたと反省致しましたわ」
ラルク公爵も頷いて、
「エドワードにマデリーヌを付き纏わせないで貰いたい。アウド公爵家に婚約解消をと言われたのだ。やっと婚約継続にしてもらった。マデリーヌにはエドワードに会う事を禁じる。このラルク公爵家に来ることもな」
前ラディク伯爵は、
「お前達は人の心が無いのか?マデリーヌは母の命と引き換えに生まれてきた可哀そうな娘じゃ。母の温もりを知らない娘じゃ。だからわしが愛情を持って、沢山沢山愛してきた。息子は忙しくて構ってやれなかったからな。エドワードに頼って何が悪い。可愛い可愛いマデリーヌの面倒を見るのは当然じゃろう」
エドワードはイライラした。
マデリーヌの事は気の毒に思う。
幼い頃からサビシイサビシイとよく泣いていた。
人づきあいも下手な女の子で。勉強も苦手だったのだ。
だからエドワードは勉強を頑張っているマデリーヌの相談に乗ってあげていたりした。
だけども、コレンティーヌに愛想をつかされた。
よく考えれば当然ではないのか?
コレンティーヌとの仲に割って入って来るマデリーヌ。
これから先、これが続けばいい加減にコレンティーヌだってうんざりするだろう。
だから言ってやった。
「マデリーヌの事は気の毒に思っている。だからって、私にばかり頼るのは間違っている。婚約者がいるだろう?マデリーヌだって結婚するのだろう?だったら、私から離れてもっと大人になれ。自分の人生を受け入れろ。それは当然の事だろう?マデリーヌだって伯爵家の令嬢だ。貴族なら貴族らしくしっかりと生きて欲しい」
マデリーヌは涙を流して、
「エドワード様の事が好き。ずっと好きだったの。だから婚約者が出来たって聞いた時、寂しかった。いとこ同士は結婚出来ないって知っているわ。でもでも、私、ずっと傍にいたかったの。いたかったのよーー」
涙を流すマデリーヌ。
可哀想だと思った。自分に気持ちを寄せてくれて‥‥‥
でも、マデリーヌにはマデリーヌの人生がある。
「マデリーヌ。君は君の足でしっかりと人生を歩いて行って欲しい。いいね?約束だ」
マデリーヌは泣きながら頷いた。
「解ったわ。エドワード様。ごめんなさい。今まで迷惑をかけて。私、しっかりと頑張ってみるわ」
前ラディク伯爵だけが、
「エドワードは冷たいのう。マデリーヌが泣いておるのに」
というものだから、ラルク公爵がにこやかに、
「ど田舎で暮らしますか?お義父さん。いい空気でその空っぽの頭も澄み渡るでしょう」
前ラディク伯爵は真っ青になって。
「いやいやいや、今のままでいい。マデリーヌ、帰るぞ」
マデリーヌを連れて帰って行った。
改めてアウド公爵家に行き、客間に通されると、コレンティーヌに謝罪した。
赤い薔薇の花束と流行の店のチョコレート菓子を手土産に。
「申し訳なかった。不快な思いをさせてしまったね」
「いいんです。反省したのなら。わたくし、貴方との貴重な時間を邪魔されて、悲しかったのですわ」
「マデリーヌも反省した。だから、これから二度とこういう事はないだろう。愛しているよ。コレンティーヌ」
微笑むコレンティーヌがとても美しくて、愛しくて愛しくて思わずぎゅっと抱き締めて、口づけをした。
コレンティーヌとの仲は良好だ。
もうすぐ王立学園を卒業する。そうしたら結婚式を挙げて、結婚することになるだろう。
マデリーヌは王立学園で、エドワードを見かけても話しかけてこなくなった。
婚約者の男爵家に足繁く通い、男爵令息との仲を深めているという。
マデリーヌにも政略とはいえ、幸せになって欲しいものだ。
コレンティーヌと今日は、王都でデートをする約束をしている。
まだまだ寒いけれども、黒のコートを羽織りながら、ウキウキ気分で出かけるエドワードであった。




