転生
まどろみの中にいた源蔵は、気が付くと法廷の中央に立っていた。
白い壁と茶色の机に囲まれ、背中には無数の視線が浴びせられているように感じる。テレビで何度も見た場所ではあるが、実際に自分が立つなど想像もしてなかった。
だが、源蔵を取り囲むように座っている者たちは、人間とは異なる姿をしていた。
右側の席に座っているのは、袈裟を身にまとい、頭を丸めている人物。数珠を手に持っていて、見た目は人間である。しかし、肌も袈裟も石で覆われていた。
左側の席に座っているのは、額から太い角を二本生やした、厳ついた表情の人物。体格がよく、この法廷で最も大きい。机に立てかけている金棒も、源蔵ぐらいの大きさはあった。
そして、源蔵の正面に座っているのは、冠をかぶり、尺を持った人物。この法廷の源蔵を抜いた人物の中で最も人間のようで、最も偉そうな雰囲気を持っていた。
現代的な法廷にいる、見た目が異質な者たち。源蔵は、ここが現実ではないことを彼らを見て感じていた。
「これより、山内源蔵の死後裁判を始めます。故人は証言台へ」
正面に座っていた人物が、開廷を宣言した。この人は裁判長だった。美しい声が静かな法廷に響いた。同時に“故人”と呼ばれて、自分が死んだことを知った。薄々は感じていたが、やはりそうだったようだ。
「初めに故人の身元を確認します。山内源蔵で間違いありませんね?」
裁判長の質問に答えようとした源蔵だったが、声が出せなかった。まるで縫い合わされているかの口が固く閉ざされている。どうにも開けることができない。
「どうしましたか? 名前に間違いないがないようでしたら、頷いて下さい」
源蔵は、裁判長に言われた通り、一度頷いた。
「分かりました。続いて検察側より、故人への求刑をお願いします」
裁判長は、源蔵が話せないことを気にすることもなく、裁判を進行していった。裁判長に支持されて動き出したのは、左側の席に座っていた、角が生えた人物だった。彼は検察官だった。
検察官は立ち上がり、裁判長に向かって求刑を述べ始めた。
「故人は生前、ご子息に対して厳しい教育を行ってきました。時には暴力を振るったこともあり、教育という名の恐怖を与えていました。よって検察側は、地獄行きを求刑します」
検察官の最後の言葉に、源蔵は目を見開いた。言われた通り、子供が幼い頃は厳しく接していた。しかし、それは愛が故であり、成長してからは接し方も優しくしてきたつもりだ。子供達とのも関係も良好であったし、地獄行きとなるほど罪は犯していないと思った。
だが言葉を発することは、いまだ源蔵にはできなかった。
「続いて、弁護人からの求刑をお願いします」
検察官と同様、今度は右側の席に座っていた、石の人が立ち上がった。硬そうな見た目だが、動きに硬さはなかった。弁護人は、手を合わせて話し始めた。
「弁護側からは、天国行きを求刑します。故人の厳しさは愛であり、当時の時代背景と照らし合わせると、故人の行動に問題はないと思われます。亡くなった後、遺族から手厚い供養がされていますので、前言を求刑します」
弁護人の言葉に源蔵は、鼻から深く息を吐いた。自分が思っていたことを代弁してくれたと感じた。このまま天国へ行けることを願う。
「それではこれより、判決を言い渡します。故人、山内源蔵への判決は、異世界への転生とします」
予想外の判決に、開かない口が開きそうになった。
孫たちが見ていたアニメ作品に異世界に転生とする話があった。孫たちが内容を丁寧に説明してくれていたが、大体が若くして亡くなった者が救済として転生しているようだった。自分のような老人がいくような世界ではないと思う。転生するとしたら、同じ世界の生き物が相場だろう。
「検察側、弁護人、双方から異議はございますか?」
「「ありません」」
左右から同時に声がした。源蔵は心の中で、「異議を唱えろよ」と叫んだ。だがその思いはどこにも届かず、裁判長が法廷を閉め始めた。
「これにて、故人、山内源蔵の死後裁判を終了します。判決により、故人はこのまま異世界へ転生します」
裁判長がそう言った途端、源蔵の周囲が光に包まれた。そのまま、源蔵は一言も発することなく、法廷から姿を消した。
ろうそくの明かりが石壁を照らす部屋で、一台の乳母車がゆっくりと揺れていた。乳母車には赤子が寝ていたが、目を開けた途端、大きな泣き声をあげた。




