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第6話:迷いと覚醒
前回の続きです。少しずつ関係が変化する回です。
部屋の扉を開けた瞬間、空気が少し違った。
前回よりも、緊張が肌にまとわりつくような感じ。
「来るの早かったね」
軽く声がかかる。
私は小さく肩をすくめるだけで返す。
「……別に」
嘘ではないけれど、本心でもない。
ただ、自然に出た言葉だった。
「ふーん」
彼の視線がじっと私を捉える。
押し付けがましくはないけれど、心臓が少し早くなる。
手のひらが触れる直前、息を整える。
逃げることはまだできる。
でも、私は動かない。
「怖くないの?」
問いかけられ、少し迷ったあと答える。
「……少し」
正直な気持ち。
言葉にしなくても、伝わっている。
距離が縮まるにつれ、心の境界線が揺れる。
――恐ろしくもあり、抗えない感覚。
「大丈夫?」
短い声に、身体と心が反応する。
息を整えながら目を閉じる。
静かな渦の中に、少しずつ沈んでいく自分を感じる。
何も起きていないはずなのに、確かに変化している。
「……」
言葉にならない余韻だけが、部屋に漂う。
揺れる境界線を一歩踏み越え、
私は知らぬ間に自分の感覚の深みに触れていた。
怖いけど、どこか心地よい。
一歩ずつ、少しずつ深みへと。
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読んでいただきありがとうございます。
少しずつ、物語は深みを増していきます。




