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第2話:輪郭が戻る夜

少しだけ踏み込む回です。

思っていたより、普通の部屋だった。


特別なものは何もない。

整ってはいるけど、どこか無機質で、生活感も薄い。


「どうぞ」


そう言われて中に入る。


少しだけ躊躇したのに、

一歩踏み出してしまえば、それで終わりだった。


――帰ろうと思えば、まだ帰れたのに。


「緊張してる?」


後ろから声がする。


「別に」


振り返らずに答える。


嘘ではないけど、本当でもない。


少しだけ落ち着かないだけ。


「そう」


それ以上は何も言われない。


気を遣われている感じも、試されている感じもない。


ただ、そこにいるだけ。


それが逆に、少しだけ居心地が悪い。


「座れば」


促されて、ソファに腰を下ろす。


静かだと思う。


余計な音がない。


時計の音も、外の気配も、

やけに遠く感じる。


「やめるなら、今でもいいよ」


不意に言われる。


軽い調子で。


「……急にどうしたの」


「まだ何もしてないから」


当たり前のことを言われる。


確かにそうだ。


ここに来ただけ。


それだけで、何も始まっていない。


「やめないよ」


少しだけ早く答えてしまう。


自分でも、少し驚くくらいに。


「そう」


頷く。


そのはずだった。


深く関わるつもりなんてない。


ただ、少し確かめるだけ。


「じゃあ、大丈夫だね」


その一言で、妙に逃げ場がなくなる。


大丈夫、という言葉なのに。


戻る理由が、一つ消える。


少しだけ、息を吐く。


「なにするの」


聞いてみる。


具体的なことを知りたいわけじゃない。


ただ、この曖昧な状態を終わらせたかった。


「すぐ分かるよ」


曖昧な返事。


それ以上は説明しない。


私は少しだけ目を閉じる。


考えるのをやめるために。


――試すだけ。


その言葉を、頭の中でなぞる。


一度だけなら、大したことはない。


そう思っているうちに、

距離が近づく気配がした。


触れられる、少し前。


その瞬間が一番はっきりしている。


逃げようと思えば、まだ逃げられる。


でも。


何もしなかった。


そのまま受け入れる。


触れられた瞬間、少しだけ息が止まる。


強いわけじゃないのに、

感覚がやけに鮮明になる。


「……」


思わず目を開ける。


何かが変わった、というほどじゃない。


でも。


“遠かったものが近くなる”みたいな感覚。


ぼやけていた輪郭が、少しだけ戻る。


「どう?」


静かな声。


私はすぐに答えられない。


言葉にする前に、先に理解してしまう。


――ああ、これか。


「……ちょっと、変」


そう言うのがやっとだった。


「嫌?」


すぐに返される。


否定できる形で。


少しだけ考える。


嫌ではない。


むしろ。


「……違う」


首を横に振る。


うまく言えないけど。


前よりも、ちゃんと感じている。


それが何かは分からないけど。


「ならいい」


それ以上は聞かれない。


説明もない。


ただ、そのまま続く。


時間の感覚が、少しだけ曖昧になる。


長かったのか、短かったのかも分からない。


ただ。


終わったあと、静けさだけが残る。


読んでいただきありがとうございます。

この先もゆっくり進んでいきます。

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