表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/65

第5章:サンフランシスコ研究所潜入

【第5章:サンフランシスコ研究所潜入】


霧の街、サンフランシスコ。

東條玲司は、フェリー・ビルディングから伸びるマーケットストリートを、 フードを目深にかぶって歩いていた。

冷たい海風が、コートの裾を翻す。

目的地は―― ダウンタウンから少し外れた、旧工業地帯にある「バイオテック研究所」。

表向きは、認知症やアルツハイマー治療のための医療開発機関。 だが、裏では――「人間の精神と肉体を制御する技術」の研究が進められていた。


冷たい海風を浴びながら、東條はフードを深くかぶった。 ポケットには、ベインズから渡された偽造ID。 正面突破しかない。

白亜の建物に入り、 静かにエレベーターで地下2階へと降りる。



通路には消毒薬の匂いが立ち込め、 白衣の研究員たちが、無言で端末を操作していた。

ガラス越しに見えるのは、 透明なカプセルに浮かぶ、無数の人工細胞。

血液製剤の、配管のラインも並んでいる。

12ポッド、3ポッド。

第4レーンと、自動的に、クリーンアップした、ポッドが

動いている。

──生と死の境界を、弄んでいるような光景。

東條は呼吸を整え、目的の部屋【B2F-13】へ向かった。


モニタールーム。

そこには、管理用サーバーが並んでいた。

慎重に端末を操作する。

ファイル一覧が現れる。

•【PROJECT LUCIFER】

•【NEURAL CONTROL EXPERIMENT】

•【HUMAN REPLICATION PROGRAM】

その中に、 ふと目に留まったデータファイル。

【JAPAN-17S: General Public Clone Program】

(……17S?)

指先が震える。ディスプレイに、ファイル内容が展開される。



画面には、日本の市街地を模したCGマップが表示された。

そこに暮らす住民たち―― 老若男女、学生、サラリーマン、主婦、子供たち。

その顔は、全て日本全国の監視カメラ、顔認証、役所記録から集めたデータをもとに作られていた。

「違和感のない市民」を再現するため、 行動パターン、言葉遣い、購買履歴まで、徹底的にプログラムされている。


東條は、スクロールしていく途中で、 ふと、ある女性の顔に目を留めた。

スーパーで子供と歩いていた、あの女性。 新幹線の第17セクターで出会った、“美代さんに似た”女性。

画面に映る彼女のファイルには、こう記されていた。

【Clone Code: MIYO-017】【設計日:20XX年】【特記事項:市民生活適応率95%】

(……やはり)

東條は、無言で画面を閉じた。



人間たちの幸福そうな暮らし。子供たちの無邪気な笑顔。

それらすべてが、 計算され、設計された“幻”だった。

(こんなものまで、作り出すのか……)

拳が、静かに震えた。

東條は証拠データをこっそり複製すると、 冷たいサーバールームを後にした。


エレベーターに飛び乗り、 地上階へ。

建物を出た瞬間、 夜の冷たい空気が、鋭く肺を刺した。

(まだ間に合う―― 少年たちだけは、救わなきゃならない)

コートのポケットには、 未来を賭けたデータが眠っている。

東條玲司は、 静かに夜の闇に消えた。




警備シフトの時間を見計らい、 東條はサーバールームを離れた。

出口に向かう途中、 ふと見た廊下の端。

そこには、 白衣を着たまま、窓越しに空を見上げている ひとりの子供がいた。

研究員ではない。 患者でもない。

あきらかに、 "作られた存在"の気配。


東條は拳を握りしめた。

(……俺たちは、ここまで来てしまったのか)

エレベーターの扉が閉まる直前、 振り返る。

少年の無垢な瞳と、東條の視線が一瞬、交錯した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ