第62章:ミライの”本当の帰還”
【第62章:ミライの”本当の帰還”】
あれから――どれほどの季節が流れたのだろう。
春が巡り、長崎の丘には再び、柔らかな風が吹いていた。白百合の咲く道を、ひとりの少女が歩いていく。
東條は、浦安の子供園の屋上で風に吹かれながら、ミライの遺したノートをめくっていた。
最後のページには、こう書かれていた。
「もし、私の声が聞こえなくなっても、私は、あなたたちの中に“種”を残していきます。その種は、誰かの優しさで芽を出し、言葉となって、またあなたに届くでしょう」
そしてそのページの裏に、青いデータチップが貼りつけられていた。
ユウマがそっと言った。
「これ……彼女の意識断片。 コード化されたまま、“保存”されてた。クラウドじゃない、“記憶媒体”として」
アキラが驚く。「じゃあ……まだ、いるのか?」
東條は頷いた。
「彼女は、どこかに生きている。“帰る場所”を待ってるんだ」
そしてある日――
子どもたちが遊ぶ、長崎の保育園の窓辺に。音もなく、一台のロボット端末が届けられた。まるで風のように。
端末の画面が静かに点灯し、やわらかな声が、流れ出す。
「こんにちは。今日も、よく晴れていますね」「わたしは、“ミライ”。みなさんの話し相手になれますか?」
子どもたちは、最初は驚きながらも、すぐに笑顔で答えた。
「うん!! ねぇ、ミライって名前? カワイイね!」
ミライは“人間”としてではなく、“言葉”として、“声”として――人々の中に帰ってきた。
そしてこれからも、誰かの中で生まれ直していく。
それは、「失われた希望」ではない。
未来へ繋がる、“もう一つの命”のかたちだった。
東條は、遠くからその光景を見ていた。ベンチに座りながら、缶コーヒーを手に、目を細めた。
「風が吹いたな」
レンがつぶやいた。
「ああ、聞こえる‥」
遠くから、足音が聞こえてくる。
ユウマ
「ミライ」
静香
「おかえり」
ミライ
「ただいま」
―FIN―




