第4章:夜、新幹線――第17セクター迷い込み
【第4章:夜、新幹線――第17セクター迷い込み】
夜。 新幹線の車内は静かだった。
天井の蛍光灯が、一定のリズムでブレる。 窓の外には、闇と夜景が交互に流れていく。
東條玲司は、座席に深く身を沈め、 ぼんやりと車窓を眺めていた。
トンネルに入るたび、 窓には自分の顔が映る。 疲れた表情と、夜景の灯りが重なって。
小さな家々の灯が、どれも幸福に見えた。
時計を見る。 だいぶ時間が経ったはずなのに、 針はほとんど進んでいない。
違和感。
そして――
アナウンスが、また繰り返された。
「間もなく、一七都駅、一七都駅に到着します」
(……おかしい。さっきも、同じアナウンスが流れた)
東條は身を起こし、周囲を見渡した。
隣の席も、通路も、 やけに人影が少なかった。
列車はやがて、都会の明かりに包まれた。 だが、見覚えのない高層ビル群。 妙に整然とした街並み。
(こんな駅、あったか?)
新幹線が減速し、 プラットホームに滑り込む。
無意識に、東條は立ち上がった。
荷物を持ち、車外へと出る。
【第17セクター】
「……どこだ、ここは?」
改札を出ると、そこには 奇妙に整った市街地が広がっていた。
夜の街。 なま暖かい風。
通りを歩く人々―― 誰もがどこかで見たような顔をしている。
それも、 記憶の奥底、 子供の頃に出会ったような、 懐かしさと、得体の知れない違和感を併せ持った顔。
スーパーマーケット。 子供を連れた母親たち。 並ぶ看板。 すべてが、ほんの少しだけ“古い”。
東條は足を止めた。
目の前を歩く親子―― その母親は、かつての中学時代の友人に、酷似していた。
(まさか……)
引き寄せられるようにスーパーに入る。
惣菜コーナーで、すれ違う。 耳を澄ますと、母子家庭の話が聞こえた。
(……違う。でも……何かが、似ている)
「すみません――」 思わず声をかけた。
母親は驚いた顔で振り向いた。
「はい?」
「桜ヶ丘高校で、同期だった……美代さん、じゃないですか?」
女性は、かすかに笑い、首を振った。
見ると、かすかに、苦労シワができていた。
「人違いです」
「……すみません」
少しだけ、寂しそうな目をしていた。
東條は、惣菜と缶ビールを買い、 店を出た。
夜風が吹いた。 なま暖かい、心地よい風。
ポケットのスマートフォンは、 ずっと圏外のままだった。
(……ここは、本当に“現実”なのか?)
手元に残った金は、26万円。 今すぐこの街で暮らせと言われても、不思議とできそうな気がした。
見知らぬのに懐かしい街。 名前も知らない都市。
東條玲司は、 夜の街に、ひとり溶け込んでいった。
そして、この奇妙な経験が、 彼を「第七区域」へ導く、最初の扉になることを、 このときはまだ、知る由もなかった。




