表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/65

第55章:最後の願い

【第55章:最後の願い】


夜の帳がゆっくりと降りる頃。浦安の子供園の片隅――白いカーテンに包まれた部屋の中で、母と娘は静かに並んで座っていた。

瑞穂の手は、静香の指をそっと握っていた。その小さな手に宿る震えを、静香は言葉にせず、ただ包み込んでいた。

「……ママ」

瑞穂の声は、かすれるように、そして恐れるように問う。

「わたしは……何のために、生きているの?」

静香はその問いに、すぐに答えなかった。胸の奥に差し込まれた棘のような感情を、ゆっくり飲み込んでから、娘をそっと、優しく抱き寄せた。

「……あなたは、“変わらないで”って願う人たちのために、生きているのよ」

瑞穂の目がゆっくりと、静香を見上げた。

「変わらないで……?」

「そう。誰かが、世界が、どんなに変わっても、 “あなたはあなたのままでいてほしい”って、心から願ってくれる人がいる。 その人たちにとって、あなたの存在は“光”なの」

静香は、瑞穂の頭をそっと撫でた。

「だから――あなたは、自分でいいのよ。 “武器”じゃなくて、“証”として、ここに生きていていい」

瑞穂の瞳が揺れる。そして、はらりと一粒の涙がこぼれた。

「……ありがとう、ママ。わたし……怖かったの。 誰かの役に立たなきゃ、生きていちゃいけないんだって……そう思ってた」

「それは違うのよ、瑞穂。 あなたは、“生きていてくれるだけ”で、誰かの心を救ってる」

ふたりの影が重なり合うように、月明かりが部屋を照らしていた。

そのとき――遠くから、地響きのような低い音が聞こえてきた。

ブォォォ……

窓の外、幹線道路を黒塗りの車両が数台、列を成して進んでいく。そのうしろに続くのは、軍の車両。ファントム、政府、オハラ重工……Xデーへの集結が、着実に始まっていた。

静香は瑞穂を強く抱きしめた。

「大丈夫。どんな未来が来ても、あなたはあなたでいていい」

瑞穂も、そっと静香の背中に腕をまわし、頷いた。

「うん。……ママ、ありがとう」

――そして、夜は静かに、けれど確実に、世界の変化を告げていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ