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第54章:ベインズからの遺産

【第54章:ベインズからの遺産】


夕暮れの葵園。施設の一角にある古びた倉庫――その奥の錆びた金庫の前に、住友平八は立っていた。手元には、かつてベインズから渡された黒い鍵と、真鍮の封筒。

「……60年、ずっと開けずにいたんだ。だが……今が、その時かもしれん」

ギィ……と鈍い音を立てて開かれた金庫の中には、埃にまみれた金属製のカセットレコーダーと、手書きのラベルが貼られた一本の磁気テープ。

【To: Reiji Tojo, and those who come after.】― 岡田ベインズ

平八がカセットを再生すると、懐かしい声が空気を震わせた。

「Yo, 平八。もしこれを聞いてるってことは……俺はもうこの世にいないだろうな。ハハッ、悲しむなよ。お前なら生きてると思ってたぜ」

「さて……未来のキミたちへ話そう。君たちは“希望”だ。だが、“希望”は時に、“対価”を払わせる。無知では守れない。純粋では戦えない。だから、“知識”と“怒り”と“優しさ”を、君たちの中に共存させてくれ」

映像も映らない、ただの声。なのに、それは彼らの胸に確かに残る“人間の温度”を運んでいた。

「……東條、聞いてるか?情報は刃物だ。どこで抜くか、どう握るかで、人を殺すか救うかが決まる。ミライが目覚める前に、“世界に真実の輪郭”を見せてやれ」

沈黙のあと、ベインズの声は少しだけ低くなった。

「……平八、お前はきっと、悩んでるだろう。『俺たちが始めたことは正しかったのか』って。答えなんていらねぇよ。進むしかなかった。“誰も作らなかった未来”を、俺たちは描いたんだ」

テープはそこで終わった。

静寂が戻る。テープの回転は止まり、カチリ、と音を立てて止まった。

その場にいた東條、ユウマ、レン、そして静香も、言葉を失っていた。

平八はゆっくりと、椅子に腰を下ろした。夕陽が、彼の顔に陰影を刻む。

「……俺たちが始めたことは、もう後戻りできない。 だが、次を担う子らがいる限り――未来に罪を送るだけは、せめて避けたい」

彼の目に、かすかに光るものが宿った。

「お前たちの選ぶ道を、もう俺は止めん。進め。責任ごと、未来を持っていけ」

その言葉に、少年たちは深くうなずいた。

そして、最後の“夜明け前”へ向けて、物語は静かに動き始めていた。




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