第52章:子ども園 ミライの手紙
【第52章:子ども園 ミライの手紙】
春の匂いが残る午後。子供園の一室で、瑞穂はひとり、窓際の机に向かっていた。古びたノートをそっと開き、万年筆のインクを確かめる。
ページの上に、少しずつ名前が綴られていく。
ハヤトレンユウマアキラ
一文字ずつ、丁寧に。それは、ただの名前ではなかった。“彼らと過ごした記憶”の断片を、自分の手で呼び戻す儀式のようだった。
瑞穂の瞳は、どこか遠くを見つめていた。
「あの子は泣き虫だった。あの子はすぐ怒った。あの子はずっと本を読んでた。あの子は、私の手を最初に取ってくれた」
ノートの最後に、便箋が一枚、挟まれていた。その手紙には、こう書かれていた。
《手紙の内容》
みんなへ
あのときの約束、私は忘れていません。
「外の世界で、もう一度会おう」って言ってくれたこと。
あの夜、誰かがそっと毛布をかけてくれたこと。手をつないでくれたこと。ひとりじゃなかったこと。
私はいま、もう逃げたりしない。だから、もしまた会えたなら……今度は私が、みんなを守ります。
――ミライ(瑞穂)
数日後。東條はその手紙を、葵園の中庭で静かに読んでいた。隣では、ユウマが無言で立っていた。
「……ミライ、強くなったな」
そうつぶやいた東條の手は、ゆっくりと拳を握っていった。
「俺も……覚悟を決める時だ」
ページの端に、薄く残ったインクの跡。
瑞穂は、最後の行にこう添えていた。
「あなたも、ずっと戦ってきたんですね。今度は、わたしがそばにいます」
春風が吹き抜けた。新たな決意の風だった。




