第49章:深夜の工作室――ユウマの装置と、Xデー前夜
【第49章:深夜の工作室――ユウマの装置と、Xデー前夜】
東條の屋敷の小さな部屋。昼間の喧騒とは別世界のように、夜は静かに、冷たい蛍光灯だけが天井で唸っていた。
ユウマは、折りたたみ机の上で組み立てを続けている。秋葉原で調達した基板、ジャンクのドローンモーター、外部拡張ユニット、そして極小型の通信モジュール。どれも“合法”と“非合法”の境界を巧妙にすり抜けた部品だ。
「……あと、電源系の安定処理……か」ユウマが静かに呟く。彼の指先は、小さなハンダごてを握り、迷いなく部品を繋いでいく。
背後では、レンが腕組みをしながら見ている。「オレにはさっぱりだな、ユウマ。だが……その手つきは、信用できるぜ」
綾乃はソファにもたれて本を読みながら、チラリと目を上げる。「この子……すごいね。まるで、配線と会話してるみたい」
「こいつの脳、どっかパソコンと繋がってるんじゃねえか?」条威が笑う。
東條は、その様子を部屋の隅から見つめていた。手元には、一面の新聞。だが目は紙面ではなく、子供たちの“未来”に向いている。
――明日、政府との交渉が失敗すれば、子供たちは再び追われる。いや、捕まるだけでは済まないかもしれない。ファントムの正体も、まだ明かされていない。信じられるのは、今ここにいる者たちと、自分の“選択”だけだ。
ユウマが唐突に立ち上がった。「……できた。『スパイン・ノード』、完成。これで、施設に入らずとも外から制御系に干渉できる。しかも足がつかない」
「マジか……それ、使えるのか?」レンが顔を近づける。
「使える。ただし、1回だけ。こっちの脳にも反動が来るからな……限界ギリギリの設計だ」
東條がそっと近づいて、ユウマの肩に手を置く。「ありがとう。……お前の手が、明日を変える」
窓の外に、東京の夜景がぼんやりと広がっていた。誰もが眠るこの街で、少年たちは、世界と向き合う“戦い”の準備をしていた。
午後11時30分。東京・高井戸。東條の知人が手配した古いガレージが、少年たちの“前線基地”だった。元は模型愛好家の工房だったというその場所に、ユウマが配線を引き、装置を並べていた。
「ブースター回路、OK。センサー波調整完了。衛星信号もリンクした」
ハンダごての先が赤く光る。ユウマの表情は、いつになく集中していた。
机の上には、小型ドローン3機。その中央には、住友理仁から託されたメインフレームモジュールが埋め込まれている。
「これで、通信制御中枢に直接割り込める。ファントムの無人防衛網を、盲点ごと抜ける」
レンが後ろから覗き込んで、口を尖らせた。
「よぉ、ほんとにそいつで全部いけんのか? オレがブッ放した方が早くねぇか?」
「それだと“全部終わる”。もう“焼き払う”時代じゃないんだ、レン」
ユウマの口調は、いつもより低く、真剣だった。
「オレたちはもう、“実験体”じゃない。世界と話すには、“仕組み”を変える必要がある」
静かに、アキラが椅子から立ち上がった。
「……明日が来るのが、怖いって、こんな気持ちなんだな」
ハヤトは窓の外を見つめながら、ぼそりと漏らす。
「でも行くんだ。ミライが、笑って生きられる世界のために」
東條が、缶コーヒーを配ってきた。手にはセブンイレブンのビニール袋。なかには、おにぎりとポテチと、安い弁当。
「……飯、忘れるな。戦うには、まず腹を満たせ」
4人がそれぞれ受け取る。
「ツナマヨ、ゲットォ~!」「わり、からあげもらっていいか?」「ポテチは譲れねぇぞ」
ふとした笑いが漏れた瞬間、そこにはかつての“子供らしさ”が戻っていた。
そして、東條がそっと口を開いた。
「……明日は、たぶん、世界の“目”が君たちに向く」
「その時、君たちが“誰か”であることを、証明してくれ」
ユウマが最後のネジを締めた瞬間――装置の中央に、青白いランプが灯る。
Xデーは、もうすぐそこだった。




