第3章:ビジネスホテルの朝
【第3章:ビジネスホテルの朝】
朝。 東條玲司は、古びたビジネスホテルの一室で目を覚ました。
カーテン越しに射し込む、安っぽい白い光。
頭は少し重い。 昨日の取材で夜遅くまで歩き回ったせいだった。
バスルームで顔を洗い、しわだらけのシャツに袖を通す。
そして、一階のラウンジへと降りた。
モーニングセット――700円。
トーストにバターを塗り、 スクランブルエッグを一口食べる。
噛むたびに、小さな甘みと塩気が口の中に広がった。
胃の子が、じわりと満足する。
コーヒーをすする。 「フゥ~。」 小さな吐息が漏れる。
東條は、座席横の新聞ラックから、朝刊を一部引き抜いた。
一面を見た瞬間――
「取締役専務、松下……?」
目を細める。 たしか、数日前、名刺交換したばかりの男だった。
(証券会社の不祥事――?)
ページをめくる。 「内部告発者による情報提供」「未公開株取引疑惑」「第三者委員会設置」
あまりに唐突な、そして不自然な速さだった。
ライターに手を伸ばす。
ウエイターに声をかける。
「ここ、喫煙可ですか?」
「はい、どうぞ」
マッチの火をつけ、タバコに火を移す。
煙をくゆらせながら、 東條はテーブルの上の新聞をじっと睨んだ。
脳裏に、昨夜の違和感が蘇る。
取材先の役員室。 なぜか、異様な数の“黒服”たちがうろついていた。
通常の護衛とは、違う空気。
彼らは、確かに何かから逃れようとしていた。
その正体が―― この朝刊に暴かれている。
(……だが、これは“ほんの表層”にすぎない)
東條の直感が、警鐘を鳴らしていた。
この不祥事の裏には、 もっと巨大で、もっと危険な「何か」が潜んでいる。
そう確信できた。
カップのコーヒーは冷めきっていた。
東條は一気に飲み干すと、 立ち上がった。
(掘り下げる価値がある……)
ジャケットの内ポケットに、取材用の手帳を滑り込ませた。
外に出ると、朝の空気はまだ少し冷たかった。
だが、東條の胸の中には、 熱く燃えるものがあった。
――「真実」を追え。 ――それが、自分に課された唯一の使命だ。
ビルの谷間に昇る太陽に向かって、 東條玲司は、静かに歩き出した。




