表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/65

第39章:静かな日々

【第39章:静かな日々】



春の終わり。奥多摩の森に、風が抜ける。

朝日が差し込む縁側で、湯気の立った味噌汁の香りが漂っていた。

静香「お味噌、今日は少しだけ甘めにしてみたのよ」

瑞穂「……うん、優しい味。なんだか、懐かしいような気がする」

ふたりは小さなちゃぶ台を囲んで、朝の食卓を囲んでいた。

ふと、静香が箸を置く。

「瑞穂。今日は、町に買い物に行かない?」

「……一緒に、行ってくれる?」

「もちろん」


山を降りる小さなバスに乗って、駅前の商店街へ。瑞穂は、まだどこかぎこちない手つきで、スーパーのかごを押していた。

静香「今日は、なにが食べたい?」

瑞穂「……コロッケ。カリッとしたやつ」

静香「ふふっ、それなら、あの肉屋さんがいいかも」

商店街の角を曲がると、昭和の匂いがする小さな精肉店。おじいさんが揚げてくれる、1個80円の手作りコロッケ。

ふたりで一つずつ買って、道ばたのベンチに座って頬張る。

瑞穂「おいし……!こんな味、知らなかった」

静香「よかった。街の味よ。あなたの“今”の味」

瑞穂は一口ごとに、小さな笑みを見せた。


午後は、家の庭で草取り。静香がスコップで土を返し、瑞穂が種をまく。

瑞穂「これ、何の種?」

静香「白百合。……あなたの名前、“瑞穂”と同じように、風と水に育まれる花だから」

瑞穂の指が、そっと土に触れる。

「おかあさん……わたし、何かを忘れていた気がするけど、この場所にいると、それでもいいって思える」

「大丈夫。あなたは今、ここにいる。それで、いいのよ」


夜。縁側で、二人は星を見ていた。虫の声。薪のにおい。静かな時間が流れる。

瑞穂「……このままずっと、こうしてられたらいいのにね」

静香「そうね。……でも、あなたには“未来”がある。それを選べるってことは、本当に幸せなこと」

「だから、焦らなくていい。いつか、“行きたい場所”が見つかれば、それでいい」

瑞穂は、少しだけ黙って空を見つめる。

「……ありがとう。生きててよかった、って思えた」

その言葉を聞いたとき、静香の目には、静かな涙が光っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ