第2章:貨物列車事件
【第2章:貨物列車事件】
夜の博多駅。 構内は昼間の喧騒を失い、ひっそりと冷えた空気が支配していた。
時計の針は、深夜0時を指していた。
ホームの端には、一編成の貨物列車が静かに停まっている。全身を包み込むような巨大な貨物車両。
そのひとつひとつに、白い注意書きが貼られていた。
【液化窒素・取扱注意】
東條玲司は、コートの襟を立て、凍るような空気の中に立っていた。
手に持った使い捨てコーヒーのカップから、湯気が立ちのぼる。
携帯電話が震えた。 ポケットから取り出し、表示を見る。 差出人は、かつての情報屋だった。
「来たか――」
呟き、東條はコーヒーを捨てた。 貨物列車の様子をじっと観察する。
車両は異様に長かった。 通常の貨物列車の二倍近い編成。
しかも、窒素輸送にしては、過剰な厳戒態勢だった。
駅員たちが無言で指示を出し、警備員がホームを巡回している。
(何か隠しているな――)
東條はカメラをポケットに押し込み、そっと群衆の影に紛れた。
重々しい警笛が鳴り響いた。
貨物列車はゆっくりと動き出す。
東條は遠巻きに追いながら、ホームの端にある作業員用ゲートを抜けた。
冷たい夜気が肌を刺す。 工業地帯に向かう臨海線へと、列車は進んでいく。
東條は、タクシーを拾い、運転手に指示した。
「臨海埠頭まで。急いでくれ」
「……夜中に変わった仕事だな、兄ちゃん」
運転手がぼやいたが、東條は答えなかった。
列車は、汐留、葛西、臨海埠頭を越えて進む。
その後、奇妙なことが起きた。
線路が通常ルートを外れ、 貨物だけが特別な側線に切り替えられていく。
貨物が一列、闇に消える。
次の瞬間――
列車の音だけが残り、車体は跡形もなく消えた。
残されたのは、線路だけ。
(消えた……?)
東條は、ぞっと背筋を冷やした。
地上では何事もなかったように、朝が訪れる。
だが、その下―― 列車は、地下13層の巨大な格納施設に降ろされていた。
液化窒素コンテナ群は、静かに地下深くに収められる。
そこには、 「何か」が眠っていた。
まだ、東條も、誰も、知る由もなかった。




