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第37章:月の家

【第37章:月の家】


山あいの福祉施設「つきのいえ」。そこにひとりの少年がいた。名はナオト。見た目は10歳。だが、彼の瞳には普通の子にはない、緊張感と怒りが宿っていた。

彼は“本当”しか求めない。「こんにちは」と言われても、返事はしない。「明日、また来るね」と言われても、信じない。「大丈夫だよ」という言葉には、強く拒否を示す。

「それは、本当なの? じゃあ“証拠”は?」



ナオトの両親は、ある“ベンチャー事業”をしていた。良かれと思って集めた情報、データ、未来予測。でも――それは誤情報だった。

すべてが崩れた。家はなくなり、仲間は去り、そして両親は、ナオトを施設の前に残し、二人で命を絶った。

それを知ったナオトの心は、壊れた。

「嘘は、全部、死に繋がってる」

「“優しい言葉”とか、“励まし”とか、もういらない。本当のことだけを言ってよ」



その施設に、瑞穂が訪れる。

彼女は、自分の記憶と存在に揺れていた時期だった。誰かに優しくする余裕なんてなかった。でも、ナオトの部屋の前を通りかかったとき――

ガラス越しに、彼と目が合った。

それは、まるで鏡のようだった。嘘のない、まっすぐすぎる目。

瑞穂「……こんにちは」

ナオト「嘘でしょ」

瑞穂「……うん、嘘かも」


その施設には、毎週、老神父が来る。

白いスーツ、柔らかな声で、子どもたちに、いつもこう言う。

「どんな子にも、神の愛は注がれている。分け隔てなく、愛しなさい」

ナオトは、椅子を蹴って立ち上がった。

「できるわけない!!」

「僕は、人が怖いんだよ!嘘を言う人が、優しいふりをする人が――全部怖いんだ!!」

神父は静かに、頭を下げた。

「……それでも、私は君を嫌いにはなれないよ」


その日の午後。瑞穂はナオトの部屋の前で、ジュースを置いた。

「これは“好きだったら”飲んで。嫌だったら、そのままにしてていいから。どっちでも、“正解”だから」

次の日。ジュースの缶は、空になっていた。





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