第32章:パントリーにて、再会の時
【第32章:パントリーにて、再会の時】
病院内、 共同ホール、 アメリカンカントリーの音楽が流れている。
パントリー、広い、読書もできる、
食堂で、 患者がみんな、集まって、 お菓子や、ドリンク、
お茶を飲みながら、 新聞を読んだり、 図書館から借りてきた本を読んだり、
絵を描いたりしている。
とりあえず、病院の最上階のコンビニで 買った、
お菓子でも食べないと。
お菓子とドリンクは、 パントリーのカウンターから、
看護師が、名前のシールを貼って 渡してくれる。
平八「瑞穂さん?」
瑞穂、一瞬ドキッとする?
瑞穂「なんで、私の名前を?」
平八「助けに来たんや!!」
病院内のパントリー。天井から吊られたスピーカーから、アメリカンカントリーの軽やかなギターが流れている。 通称“読書ラウンジ”と呼ばれるこのスペースは、
広々とした空間にソファと低めのテーブルが並び、患者たちが思い思いの時間を過ごしていた。
誰もが「ここは病院ではない」と錯覚してしまうほどの、牧歌的な雰囲気。
カウンターでは、白衣の看護師がテキパキとお菓子を配っていた。
「次は……鈴村さん? お煎餅とミルクティーですね」 「はーい。ありがとさん」
その中に、瑞穂もいた。 パーカーのフードをかぶり、じっと何かを考え込むように、カップの中で紅茶をかき混ぜていた。
そんな彼女のもとに―― のそのそとした足取りで、杖をついた老人が近づいてくる。
「瑞穂さん?」
彼女は、ピクリと反応した。 スプーンの動きが止まる。
「……なんで、私の名前を?」
平八は静かに腰を下ろし、まるで孫に話すような声で言った。
「助けに来たんや」
瑞穂の目が、大きく見開かれる。 何かを言おうとして――口を閉じた。
「あんた、モナカを覚えてるか? あのハムスターや。さっき、ほうれん草食うてくれた」
瑞穂「……あの子……」
平八「せや、あん子は英雄や。毒みたいなものが入っとるおひたしを、自分の身体張って食べてくれた。 おかげで、あんたは薬にやられんかった」
瑞穂「……」
平八「正直言うて、わしら、あんたを奪還しに来たんや。 お上がこの施設で、何をしとるか……よう知っとる。 “記憶を削って、心を縛って、能力を奪う”――そんな真似は、もう終わりにせなあかん」
瑞穂「あなたは……誰?」
平八「名乗るのも恥ずかしいようなチンピラや。 でもな、かつて、あんたのお母さんのそばにおったことがある。 ――静香さんのことや」
瑞穂の手が震える。
瑞穂「……しずか……? それ、私の……?」
平八「せや。あんたは忘れてしもうたかもしれへん。けどな、あの人は、今でも――ずっと、あんたのことを、会いたがっとる」
瑞穂「……わたし……記憶が……ないの…… でも……その名前だけは、心の奥で、何度も響いてた」
平八は、そっと自分のカップを持ち上げた。
「ほな、乾杯しようか。“自由に向かう、一歩目”に」
瑞穂も、少しだけ微笑んだ。 スプーンを置いて、カップを持ち上げる。
「……ありがとう。知らないおじいさん」
「“平八”でええわ。友達やからな」




