第29章:チンピラ奮闘記
【第29章:チンピラ奮闘記】
時は今よりおよそ50年前――。 東條玲司がまだ存在すら知られていなかった時代。 その頃の住友平八は、ただの“バカな若造”だった。
地方の片隅にある県立病院の一室。 足を骨折し、ギプスを巻かれた平八は、天井を見上げながらぼんやりとラジオを聞いていた。ラジオからはカントリーが流れている。 “トイチ”で稼ぎ損ね、ついにお縄か――そんな噂が流れていた頃だった。
そこへ、開け放たれた窓からスッと現れたのは、金髪碧眼の白人男。 アロハシャツに革ジャンを羽織り、スニーカーのまま、窓枠に片足をかけていた。
「平八!」
「ベインズ!「?!」
「お前、来たのか!」
岡田ベインズ、白人のならずものだ。
ベッドから上半身を起こしながら、平八が顔をしかめる。
「今度ばかりは、年貢の納め時だな。けど……トイチのやり方ってのを、もう一回教えてやる」 ベインズはウィンクして、親指を立てた。
「……ズラかろうぜ」
二人は病室を飛び出すと、表に止めてあった軽トラックへ。 荷台に跳び乗る平八、運転席に飛び込むベインズ。
「サツが来る前に!!」
パトカーのサイレンが遠くから近づいていた。
「平八さ〜ん?」 病室に入ってきた警官たちが見たのは、もぬけの殻のベッドと、風に揺れるカーテンだけだった。
***
「危うく精神病院送りにされるところだったぜ」 軽トラの荷台で、ギプスの足をさすりながら平八が呟く。
「足の骨折でか?」とベインズが笑う。
「いや、それだけじゃねぇ。精神鑑定されて、“措置入院”とか言われるとこだったんだ」
「フッ……だったらいい話がある」
ベインズはダッシュボードから一枚の図面を取り出す。 それは、孤島に建設された、とある“財界専用”の精神病院の配置図だった。
「“絶海の孤島”って呼ばれてる。パントリーって名前の、豪華な食堂付きの施設だ」
「パントリー?」 平八は聞きなれない言葉に眉をひそめる。
「アメリカの、カントリーの風が吹く、食堂のことさ!」
「そこには、政治家や財界のボンボンたちが、お忍びで療養に来る」
「?」
「……話のツジツマが読めねぇぞ」
「いやね、実は“トイチ”をするにも、今じゃ“資格”がいる時代でな」
「はぁ?」
「つまり、信用を築くには、裏の免許と表の“通行証”がいる。で、俺らが狙うのは――」
バサッ。ベインズが出したのは、ある財閥病院の入院者リスト。
「三省コンツェルンの令嬢が入院予定。しかもその病院、今は若いイケメン医師が後継ぎとして潜り込んでるらしい」
「つまり、何かが……ある?」
「あるさ。陰謀と、遺産と、女だ」
「お前、楽観的すぎるんだよ!」
「まだ3ヶ月ある。足、治るだろ?」
「ギリだな」 「……って、おい、今コンコンて骨鳴ったぞ、アイテテテ〜〜!!」
二人は軽トラで風を切りながら、夜の国道を走り抜けていく。
「絶海の孤島の精神病院か……腕が鳴るぜ」
「帰って、綿密な計画立てようや」
「おうよ!」
「で、その令嬢の名は?」
ベインズがハンドルを切りながら答える。
「瑞穂‥だ」
ハッと息を飲んだ平八。 彼の脳裏に、一人の少女の面影がよぎった。
「‥」
ベインズは、ちらりと助手席の平八を見た。 軽トラは、ブロロロロ~と夜の街へと消えていった。




