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第28章:別れ

【第28章:別れ】


病室に、静かに夕暮れの光が差し込んでいた。 窓の外では風がカーテンを揺らし、淡いオレンジの光が白いシーツに滲んでいた。

「嫌……!」 

ベッドに横たわったまま、静香はかすれた声で叫んだ。

「嫌です! 私、自分で育てます……!」

その声に、看護師がゆっくりと静香の手を握った。「静香さん……あなたの気持ちはよくわかります。だけど――それはダメなの」

「……どうして?」 

「病院代は、すでに“国”が持つと決まっています」

「国が……? どうして……?」静香の瞳に、不安と疑問が浮かぶ。

看護師は一瞬だけ目を伏せ、そして言った。

「“ある人”が手配してくれたの」

静香は何かに気づいたように、はっと息を飲んだ。

「私……お金なんてないけど……それでも……嫌……」声が震える。


そのとき、医師がカルテを閉じて言った。

「静香さん。あなたには“記憶障害”があります」「子どもを育てるには……あまりにもリスクが大きいんです」

静香は、ベッドの上で、膝をかかえて震えた。

「でも……この子は、私の……子どもなんでしょう?」

その声はか細く、壊れそうだった。

部屋の外。 平八が足早に戻ってきた。手には、何か書類のような紙束。

「静香さん、情報が入ったで!!」彼はドアを開けて、勢いよく入ってきた。

「どうやら、あの子は――日本の財閥、オハラ・コンツェルンに引き取られたらしい!」

「え……?」

「最高やないか! そりゃあ、裕福で、しっかりしたお家や。あんたの子、きっと幸せになれる」

「幸せに、」

「幸せに、なれるでしょうか?」

静香の声は、小さく、寂しげだった。

「あたぼうよ!」 平八は笑って、親指を立てた。「金持ちのジェントルマンは、みんな紳士や!」

「いつか、年が来たら会わせてもらえるとも言ってた。約束はちゃんと守るってな」

静香は、しばらく黙ったまま赤ん坊の名をつぶやいた。

「瑞穂……」

その名が、部屋の空気の中に、淡く、温かく広がっていった。

「本当」

「でも会いたい。」

「私の手で育てたい。」

ぽつりと呟いた静香の声に、平八は静かにうなずいた。

「……まあ、ゆっくり考えな」


外では、春の風が枝を揺らしていた。母となった少女と、未来へ託された命――それは、別れではなく、新たな物語の始まりだった。







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