第1章:少年兵訓練場
【第1章:少年兵訓練場】
訓練場の空気は、いつも硝煙の匂いで満ちていた。
完全防音の壁が、外界を遠ざける。
そこでは、パンパン、ガガガガ――と乾いた銃声が響き、金属弾が的を削る音が重なっていた。
完全防音無音住宅。
レンは銃を構えたまま舌打ちをした。
「へっ……銃が手について離れねえ」
指先の感覚さえ武器に馴染むよう、徹底的に訓練される日々。
息をつく間もなく、標的が切り替わる。
――ピーーーーー!!
突然、警報が鳴り響いた。
銃声が止まり、場内が不気味な静けさに包まれる。
「ゾッドが帰って来た!」
誰かが叫ぶ。
「全員、出迎えろ!」
何重にも施錠された扉が次々と開き、廊下に光が流れ込む。
やがて姿を現したのは、背の高い男――ゾッドだった。
「……あれえ? 俺、こんな所に住んでたっけ?」場の空気を壊すような間延びした声。
階下から、訓練服を脱ぎ、スポーツウェア姿の仲間たちが現れる。
ゾッドはじろりと見渡した。
「えー? これが、俺の仲間か? 見たところ服を着りゃあ、ただの一般人じゃねえか」
「……うーん? 待てよ、見たことある顔が……いや、一番左端の太ったタコだけはわからねえ」
――それは、お前の親兄弟だ。 教官の心の声が、重く胸に響いた。
その瞬間、ゾッドの目からひとすじの涙が零れ落ちる。
「……あれえ? なんで泣いてんだ、俺?」
教官が静かに告げた。
「ここまでだ。ゾッド――シャバで、自由にな」
「……おうよ!」
ゾッドは何重ものゲートを抜け、外の光の中へ消えていった。
残った仲間たちは、しばし沈黙したまま見送る。
「……おい、あれ見たか? 幾分、痩せこけてたな」
「俺たちより、な」
「でもよ……外の世界か」
「俺たちを捨てたってことじゃねえのか?」
「バーロイ! 馬鹿言え。ここじゃ特上の肉だって食えるんだぞ。貧しかった頃を忘れたのか?」
「……あの頃は、ビスケットをみんなで分け合ってたよな」
その会話は、訓練場の無音の壁に吸い込まれ、やがて消えていった。
夜。 レンは訓練場の片隅で、ひとり銃を分解していた。
整備の手は動かしながらも、頭の中にはゾッドの涙が焼きついて離れない。
――シャバで、自由にな。
外の世界。
それは、この施設に生まれ育った者にとって、存在するのかも分からない幻のようなものだった。
だが、ゾッドはそこへ行った。
そして、帰ってきた。……痩せこけた姿で。
「……レン」 背後から声がかかった。アキラだった。
「さっきの、見ただろ。ゾッドの顔」
「ああ」
「俺、思うんだ。外に何があるかは知らない。でも、ここよりはマシかもしれない」
レンは銃身を拭き取り、黙ってアキラを見た。
「……逃げる気か?」 アキラの目が細く光る。
「“いつか”じゃなく、“近いうちに”だ」
その会話は、誰にも聞かれないよう小声で交わされた。
だが――この夜が、二人の脱走計画の始まりとなった。




