第27章:瑞穂(ミライ)
【第27章:瑞穂】
病室に、ひときわ高く、新たな命の産声が響いた。
「オギャア、オギャア~~!」
分娩室の扉が開き、看護師が赤子を腕に抱えて現れた。
「やった!! 生まれた!!」
病室の外で待っていた平八が、声を上げた。
「男か? 女か?」
看護師は笑顔で答えた。
「体重は1750グラム、未熟児ですが――立派な女の子です」
「ほうか、ヒャッホーー!!」
平八は帽子を放り投げ、思わず跳ねるように喜んだ。
だがその直後、医師が淡々と現実を告げる。
「しかし……母体の状態、そして家庭の事情を考えると、この子を育てるのは難しいでしょう」
「赤ちゃんポストという制度もあります」
「私たちの方で、安全な方法で引き取り先を手配します」
言葉のひとつひとつが、静香の心を締め付けた。
分娩後、まだ汗ばむ額の静香の枕元に、小さな命がそっと預けられる。
「これが……私の子供?」
彼女は、ゆっくりと赤子を見つめた。
「オギャア……オギャア……」
だが、静香の胸の前に抱かれた瞬間、赤ん坊は泣き止み、目を細めて、静かに息をついた。
「名前を……つけないと……」
静香の声は、細く、けれどはっきりとしていた。
「瑞穂……この子の名前は、瑞穂にします」
その言葉に、平八が目を丸くした。
「ありゃ……また、学のありそうな名前だぁ~!」
静香の笑顔と、赤ん坊の顔が重なる。
その小さな瞳が、母と目を合わせて、柔らかく光った。
「オブ〜〜?」
その声が、まるで「わたしは、ここにいるよ」と言っているかのようだった。
新しい命――瑞穂。
後に“ミライ”と呼ばれる少女の物語が、今、ここから始まった。




