第24章:葵園(あおいえん)
【第24章:葵園】
「東條さん……」 女子大生・絢音は、そっと東條の袖を引いた。 「子供たち、もう休ませてあげないと……」
東條は腕時計を見た。午前2時をまわっていた。「……明日にしようか」
アウディは静かに発進し、やがて西東京市の住宅街を抜け、高齢者施設「葵園」の前に到着する。 そこは保育園を併設した珍しい複合施設だった。
車椅子に乗って、住友平八、
春、桜が舞う中、 校庭で元気に遊ぶ園児を見ている住友。
住友平八――122歳。
「おや? お客さんかな‥」
そうつぶやいた平八のもとへ、東條と少年たちが近づいていく。
「公安部の、東條玲司と申します」
偽造の、手帳を見せる、東條。
「話がある、住友さん」 「現在、テロの情報が入り、九段下の、ビルの設計図を渡して欲しい」
住友「嘘を言わんでも良いよ‥」
「もう、そんな時期か」
「少年たちも来たか‥」
平八はゆっくりと目を細め、少年たちの顔を見た。「来たのか……ハヤト、レン、ユウマ、アキラ」
「!!」
秘書が駆け寄ってくる。
「先生、“白百合会”から伝言が入っています」
「?」
「ちょっと待ってくれ」 平八は手紙の封を破る 読む 住友。 一筋の涙が流れる。
顔を上げる平八。
「時は、満ちた」
静かに微笑みながら、彼は少年たちを見つめた。「ずいぶん成長して」
「どうだ、外の世界の方が、良いだろう‥」
「はい」
ユウマが答えた。レンは無言でうなずく。
「抱かせてくれ」
一瞬ためらった4人だったが、すぐに平八のそばへ駆け寄り、手を差し出した。老人のしわだらけの手が、少年たちの手にふれる。
――桜の花びらが、ふわりと舞った。
そのとき、園児のひとりがたんぽぽの花を持って走ってきた。
「おじいさん、これあげる!!」
「おお、おお、名前はなんと言う?」
「タケル~!!」
走り去っていく。
そう言って駆けていった園児の背中を見送りながら、平八はつぶやいた。
住友「子供には、まだ罪はない」
東條「同感です」
「わしも、歳をとった」
「若い頃はいろいろ、博打も打ったもんだ」
平八は笑った。
「良いだろう、東條くん‥」
「設計図は、君に渡そう‥」
そう言って、秘書に命じ、筒に入った古い青焼きの設計図を手渡す。
「老人の頼みだ」
「?」
「老人の頼めだ、ワシの記憶を、伝えてはいかんかね?」
「年寄りの、しゃべりたがりだ」
「‥ミライとも関係がある」
東條、少年たち「!」
「ミライは、現在、94歳だ。だが、姿は少女のまま。姿は 少女のままだが、歳はとっている。
「記録上、老化を止められた“成功例”――コードネームNo.5だ」
ゴクリと唾を飲む、東條。
「ミライ、ミライは、本名は“瑞穂”という‥」
東條「オハラ財閥」
住友「母の名前は、“静香”だ」
東條「マリア!?」
「話は‥長くなるが」
「どうか、年寄りのわがままに、付き合ってくれ
」
そして、語られる“静香”と“瑞穂”の物語が、いま幕を開けようとしていた――。




