第八話 妖精たちとの賑やかな朝
「起きてー!おきておきておきてー!」
「うるせー!」
ルークが手を払うと、何か軽いものが、飛んでいく感覚がした。そんなものがあったかと疑問に思い、ルークは身体を起こした。
古びたソファーがギシッと重みに軋んだ。
キョロキョロと見回すと、それはいた。
パタパタと、ルークの頭の上を飛ぶ水色の妖精が。
「何すんのよー。もう。」
「なに?兄さん、朝からうるさいなぁ。元気だね…」
「いや、ノエル…俺の声じゃねぇだろ…見ろよ…」
「なにが?兄さんの「うるさい」で起きたんだけど。あ、おはよう。」
「え、聞こえてねぇの?おう、おはよう。」
何だか気の抜ける会話だった。どうやらノエルには、この妖精は見えていないらしい。
ルークは妖精に問いかけた。
「なんだ?お前」
「お前じゃないわよ!やっと名前呼んでくれたと思ったのに!思い出したんじゃなかったの!?」
「なにが……昨日?」
「そうよ!思い出した訳?」
「うーん……なんか口から出たとは思うんだけど。なんだったっけ?」
「信じられないわ……こんな奴のために、ずっと待ってたなんて……」
シクシクと部屋の隅で泣き始めた妖精を横目に、考える。
すると、ノエルが思考を止めてきた。
「なに?さっきから。誰と話してるの?怖いんだけど」
「あー。小人の親玉?みたいな妖精が居るんだよ、そこに。俺が昨日、名前呼んだから見えるようになったみたいで。昨日呼んだ名前をド忘れしたら、そこで泣いてる」
妖精を指さすと、へー。とノエルは何も見えていない指の方向を眺めている。ノエルは全く動じていない。流石である。
ルークは懸命に記憶を掘り起こした。
「あ、思い出した。ノアじゃない?」
「誰よ、その惜しい感じの女」
「あ、違う?じゃ、ミアか?」
「じゃ、じゃないわよ!じゃ、じゃ!!ミアよ!、2度と忘れないでよ!私たちあなたたちが名前覚えていてくれないと消えちゃうんだから!」
「へー。ん?あなたたち?ってことは、ノエルの妖精もいるのか?」
「当たり前でしょ。生まれた時からずっと近くに居るわよ。私は水の妖精。弟くんのは緑の妖精ね。」
「あー、だからノエルは植物が得意なわけね」
「やっと気づいたの?鈍いわね」
パタパタ飛び回る妖精の様子は可愛いのに、なかなか口は辛辣だ。だが、ルークと話せて嬉しいのか、口調とは裏腹に妖精の身体は楽しげに揺れている。
「ん?なに?僕の話?」
「そう。なんかノエルにも妖精が近くにいるらしいぞ。名前呼んだら見えるようになるって」
「へー。会いたいな。どうすればいいんだろ?名前?適当に言えばいけるかな?」
「いや、無理だろ…」とルークは思ったが、口には出さない。色々と手当たり次第呟き始めたノエルを、黙って見守ることにした
ミアは名前を教えられないのか、「頑張れー」と手を叩いて応援している。
応援している妖精にルークは問いかけた。
「なぁなぁ、名前ってどうやって決まったの?元から名前があるの?」
「は?あなたが付けたに決まってるでしょ。小さい頃は見えてたのよ?大きくなったから見えなくなって、忘れちゃっただけ。」
「そっか…忘れてて悪かった。」
「良いわよ。今、思い出して、名前呼んでくれたでしょ。これからはずっと一緒だから、許してあげる。」
そう言うミアは、優しい目をしている。ずっとこうして見守ってくれていたのだろうか。
「グリーン、フェア、ノア、リーン、ムーン…うーん。植物?ライム、ハーブ、グリーン、あ、もう言った。うーん…リーフ、えー、難しすぎない?」
うんうん唸っているノエルは、本当に手当たり次第に名前を呼んでいる。
もし本当にノエルの側に妖精がいるのなら、少し可哀想だった。
「ノエル、妖精は、俺らが小さい時に自分で名前つけてるらしいぜ。なんか心当たりないの?」
「小さい頃?うーん。シルフィ?」
ノエルがその名を呟いた瞬間、ぱあっと光が満ちた。光が収まったとき、そこには緑色の妖精がいた。
「やっと呼んでくれた。ハラハラさせるね、もう」
「シルフィ?」
「そ。久しぶり、ノエル」
ノエルは意外と覚えていたらしい。流石である。
完全に忘れている俺とは違う。
ノエルの瞳が潤むのを見て、そっと視線をミアに向けた。
ルークは抱えていた疑問をミアに投げかけた。
「なぁなぁミア。人には皆、妖精が付いてるのか?」
「そんな訳ないでしょ。あなたたちみたいに、小人?って呼んでるんだったっけ?ドワーフが見える人だけ。私が知る限りは、あなたたちだけね。
あなたの両親は見えていたけど。っていうか、契約してたしね、妖精と。」
「契約?」
「そう。あなたたちも今したでしょ。生まれた時にやって来て、幼い頃から生涯を共に過ごす。名前を授け、必ず一度は成長の過程で見えなくなる。見えなくなったら名前を呼んで、契約する。
あなた達の場合は教えてくれる人がいなかったから、しょうがないわ。
待っててあげたんだから、感謝しなさい」
撫でろ。と差し出された小さな頭を、ルークは指先でヨシヨシと撫でた。
気持ちよさそうに目を細めたミアはとても可愛い。忘れていて本当に申し訳なかった。
「ねぇ、あれ欲しい。ドワーフにあげてたキラキラのやつ」
「ん?金平糖のこと?いいよ、はい。」
ルークは指先にマナを集め、小さな金平糖を作る。幾つか渡すと、ミアはパクパクと口に放り込み、もっと!と要求してくる。
「これこれ!ずーっと食べたかったの!見てるのに、食べられないんだもの!ドワーフたちを何回蹴飛ばしたか!」
もしかして偶に何も無いところで転げている小人改めドワーフは、ミアに蹴飛ばされていたのだろうか…鈍臭いやつと思って悪かった。今度多めにドワーフたちにもあげておこう。
「まぁ、これからよろしくな。ミア」
「しょうがないから、お供してあげるわ――ルシア。」
久しぶりに呼ばれた真の名は、今は、妖精だけが呼んでくれる名前。
その響きは、とても特別な音がした。
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