表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/36

第七話 姉と弟。いつもと同じ、いつもと違う夜



「疲れたー……」


 部屋に戻ったルークは、ソファーに沈みこんだ。

 軋んだソファーから、微かにムスクの香りがした。グレイン軍曹の匂いだろうか。

 身体の力を抜き、手足を広げる。"ぽすん"と入りきらなかった片足が、ソファーの下に落ちた。


「大丈夫?兄さん」


 心配で起きていたノエルが寄ってくる。顔を覗き込まれ、綺麗な漆黒の瞳を見つめた。

 相変わらず澄んだ瞳だ。この瞳を守れただけで、満足だった。


「大丈夫だいじょーぶ。ほら、何もないだろ。」

 

 ルークが指で丸を作っても、心配性な弟の顔色は変わらない。

 ルークはツンツンとノエルの頬を突っついた。柔らかな頬は気持ちがいい。


「ん?なんか兄さん、つけた?いい匂いする」


 クンクンとにおうノエルに、ルークも首をかしげる。「ハーブ?みたいな?」と答えが返ってきた。


 思い出したのは、つい先刻の自分の告白と号泣。ルークは顔が熱くなり、りんごのように真っ赤になっているのがわかった。


「何、その反応。なんかあったの?」

「な、な、な、なんもねぇよ!!」


「あっそ。ありましたって書いてあるけど?

 意味分かんない。」

 

 フンっと怒ったノエルは背を向け、ベッドに戻った。

 

「いや、ちょっと!本当に何もないんだって。俺がちょっと泣いちゃったから慰められただけで」


「…兄さんが泣くことがちょっと?そんなわけないでしょ。僕が最後に見たのいつだと思ってんの?

 それで?それを中佐に見せたんだ。ふーん。中佐の前では泣けたんだ、良かったね。」


「いや、ほんとに、違う……あの日のことを話したら、泣いてしまっただけで…」


 その言葉で、動きを止めたノエルは信じられないという顔でルークを凝視した。


「言ったの……?あの日のこと。」


「今、言うべきだと思った。そのかいはあったと思う。」


「そう……兄さんが決めたなら僕は何も言わない。どこまで言ったの?」


「焼いたのは、軍のやつだってことと、俺とノエルが魔術を使えること。あと、俺が女だってこと」


 最後の一言に、ノエルの目が落ちそうなくらいに見開かれ、呼吸も止まった。顔が白くなっている。そろそろ死にそうだ。


「おい、大丈夫かよ」


「大丈夫なわけないだろ!この馬鹿兄!!!」


 何で勝手に言ってんだよ!と怒り狂うノエルに、呆然とする。ノエルが怒るところなんて随分見てない。

 感情を爆発させたような怒りに、手がつけられない。


「何言ってんの?信じらんない。馬鹿なの?簡単に人を信じすぎなんじゃない?そういうの素直とかそういうんじゃないんだよ、分かってる?」


 捲し立ててるノエルに、ルークは落ち着いてもらうための追加情報を伝えた。


「俺が自主的に言ったんじゃない。

 あのとき俺たちを救ってくれたのが中佐だったんだ。焼かれた村なんて滅多に無いから気づかれた。

 その時、姿を見られてるから、女だってすぐにバレたんだよ」


 追加で投下した爆弾は、ノエルを冷静にさせるのに十分すぎる効果を発揮した。「なんだよそれ。出来過ぎじゃない…?」とぶつぶつ言っている。怖い。

 

 はぁ…と大きく息を吐いたノエルは、そのままベッドに沈んでいった。

 

 ルークはベッドと近づき、ツンツンとノエルの背中を突っつく。

「なに?」とくぐもった声が聞こえる。死んではいないようだ。……よかった。


「取りあえず、今日話したことは一旦これくらい。

 明日、調書に書く所と隠す所を決めようって。俺らは中佐の所属に入れてもらえるみたい。」


 中佐の最終目的は、ノエルにはまだ言わない。完全には信用していない。


 あの夜、助けてもらったことは感謝しているし、今日拾ってもらったのが中佐で良かったとも思う。 

 だが、副官たちみたいに中佐のために死ねるとは思わないし、そこまで尽くす気にはなれない。もしものときは、ノエルと二人で逃げるつもりだ。


 だから、ノエルには言わなかった。ノエルは、優しすぎるから。

 罪を被るのは俺一人で十分だ。

 

 中佐の部下の人たちは不思議な空気を纏った、優しい人たちだ。すぐにノエルはきっと馴染む。余計な情報は、ノエルを惑わせるだけだ。


「明日も頑張ろうな、ノエル」

「明日もきっといい日になるよ、兄さん」


 幼い頃から交わしてきた夜の挨拶。

 いつもと変わらない、いつもと少しだけ違う夜。


 ルークは欠伸を噛み殺し、毛布に潜りこむ。きっと、明日も大丈夫。俺らならきっと。

 目を閉じると、スッと睡魔がやって来た。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

面白かったらブックマークやいいねしていただけると励みになります!

応援、よろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ