第六話 明かされる真実、動き出す運命
「俺らは、軍に焼き尽くされた村の生き残りだ」
静まり返るリビングに、ルークの声は、やけに響いた。
時計の針が動く音。心臓の鼓動。外の風で窓が揺れる。
静まり返った部屋の空気が、冷えた気がする。
だが、悪くない気分だった。
──あの夜から、決して誰にも漏らさなかった真実を。
ようやく、口にすることができた。
「どういうことか……聞いてもいいか。」
机に置かれた中佐の拳が、白くなるほど握り締められていた。
……怒らせたか?
ルークは予想外の反応に戸惑った。
「俺らの村は、軍の奴に焼かれたんだ。
軍服を着た、魔法使いに、魔術を使って。
誰か探してたみたいだけど、いないって言ってた。『つまんねー』って言いながら、全部焼いてた。家も、おばちゃんも、友達も。
――父さんも、母さんも。」
ルークの視界が急激に滲み、中佐の顔がぼやける。声が震えた。
まずい……慌てて俯いたが、間に合わなかった。
机の上にポタポタと垂れる雫には気づかれてしまっただろう。同情を誘うようで、泣きたくはなかった。
泣くつもりはなかったのに、やっと口にすることができたと喜ぶ身体は言うことを聞かない。
ルークが小さく肩を震わせていると、中佐が席を立つ気配がした。びくりと肩が反応してしまう。
何と言われるだろうか。怖い。
身をすくめた直後、ルークは温かい何かにすっぽりと覆われた。
「それは……悪かった。
本当に、悪かった。」
ゆっくり、ゆっくりと染み渡るような
中佐の低い声。
中佐に抱きしめられているのだ、とルークは気づいた。ふわっと香るハーブの香りに包まれたから。
ポツリと呟いた中佐は、それきり何も言わない。ルークが泣き止むまで、ゆっくりと繰り返し背中を撫でてくれた。
⸻⸻
「落ち着いたか?」
「ん、ごめんなさい」
「子供が謝るんじゃない」
ルークの息が穏やかになると、中佐は何事もなかったように席に戻って行った。
先程までよりも、心なしか目に温度が宿っている気がした。
「どうする?今日はもう、寝るか?」
「大丈夫、まだ話せる」
「そうか。無理するな。」そう呟く中佐は、やはり優しい。同情、だろうか。
チクリと胸が痛む。
何だ?と思うが、その感覚はすぐにかき消された。
「軍が、嫌いな理由は分かった。君は、もしかして、"不運な火事の村"の生き残りか…?」
「なんで…知って…」
「私が士官学校を出たばかりの頃に、配属されたのがこの街だった。
その日はたまたま、休暇で森に魔獣狩りに出ていた。
夜になったから帰ろうと思ったとき、なんだか空が明るく見えた。その方角に進んで行ったら、村が燃えていた。
私も魔術が使えるからな、燃え方から言って魔術が使われたことはすぐに分かった。まさか、軍のしたことだとは思わなかったが…
ひと通り村の中を見て回ったが、誰も生きていなかった。
だが、森に入ったところで、子供が二人倒れているのを見つけたんだ。だが、その子たちは黒髪だったはずだ
しかし、村ごと燃えた事例など滅多に無い。
髪色は違えど、そうではないかと思ったんだ。」
ルークは黙っていた。何と返せばいいか分からなかった。確かに、中佐の瞳は探していた紫色だ。
中佐は、懐かしむように目を細めてこちらを見つめている。とても優しい、大人の視線だった。
「そうか。あのときの子どもたちだったか。大きくなったな…だが何故、髪が黒いんだ?
それに、一人は女の子だっただろう?」
その言葉に、ルークは非常に焦った。
頭の回転は良い方で、未だかつてこんなに困ったことはない。勢いで、言いすぎたかもしれない。
だが、ここまできてしまったら、中佐をとことん引き込んだ方がいい気もしてきた。
そうと決まれば、腹を括った。
深く息を吸い、勢いよく話し出した。
「髪は、元々金髪だったけど、あの日に目が覚めたら黒くなってたから理由は分からない。
今日、魔術が勝手に発動するまでは黒髪だった。気づいたら金髪に戻っていて、俺も驚いたんだ。
女なのは合ってるけど、孤児だったし、暮らすのにも色々と不都合だったから男として生きてきた。これからもそうするつもり。」
初めは目を見開き、驚いていた中佐も、男として生きることを決めたところで辛そうに眉を寄せた。
この人は、感情を隠すのがあまり上手くない。全部、目に出る。こんな調子で、中佐として大丈夫なんだろうか。感受性が強すぎる。
その男が心を痛めている原因が、自分の境遇であることはしっかりと棚に上げる。そもそも、そんなことは今更なのだ。もう胸を痛めるような事でもない。
「んで、俺はどうすればいいの?」
突如投げかけられたルークの質問に、今度は中佐が目をパチクリさせている。本当に大丈夫か。
「そ、そうだな。
とりあえず、魔術は使えるって事でいいのか?」
「ん、使えるよ。俺も、弟も。」
「そうか。」
中佐は腕を組み、天井を見上げて何かを考えている。
「私は、正直なところ、君たちをいい拾い物だと思った。上へ行こうと思っているからな、良い部下はいればいるほどいい。」
笑いながら言う中佐に、ルークは呆れた。
「あんた、馬鹿正直だって言われるだろ」
「私だって、時と場合は選ぶよ。」
「ふーん。どうだか。」
正直いってルークはその点に関しては中佐を信用していなかった。初対面の自分たちにここまで良くしてくれるのだ。
誰にでもそうなのかもしれないと疑っていた。
ルークのその様子に、中佐は苦笑をしながらも話を続けた。
「それは追々判断してくれ。どうせ長い付き合いになる。
だが。先程の話を聞いたことで私も少し気が変わった。
君がせっかく私に秘密を打ち明けてくれたんだ。あれは、君たちにとって特大の秘密だったのだろう?」
探るような質問にルークの顔にも疑問が浮かぶ。
中佐は何が言いたいのだろうか。
「まぁ…それはそう。村の話をしたのはあんたが初めてだし、女だと知ってるのもあんたと弟だけ」
「よく隠し通してきたな。まぁ、私も気づかなかっ
たから人のことは言えないが。私も知らないふりをしておこう。その方がいいだろう?」
「その方が助かる。今更、女で生きづらいし。
んで?なんだよ、秘密って」
ルークの質問に、少し得意げな表情を浮かべて、中佐はルークに爆弾を放った。
「私は、軍のトップを目指している」
「…は?」
「私は、軍のトップを、目指している」
「いや、聞こえてるし。」
オウムのように繰り返す中佐の言葉を、ルークは懸命に咀嚼する。
つまり、こいつは、この人は。
クーデターを企んでいる?
「あんた……馬鹿なの?」
思わずこぼれたルークの言葉に、中佐は苦笑をこぼした。
「ずっと思っていたが、君は失礼な奴だな。」
「馬鹿以外の何者でもないだろ。俺が外で言ったらどうなると思ってるの?」
「君こそ、冷静になりたまえ。私は、軍の中佐。こう見えてもそこそこの出世頭で人望もある。対して、君は魔術は使えるものの孤児。軍に所属もしていない。さて、信用されるのはどちらかな?」
余裕ぶった中佐の態度にルークは唇を噛み締めた。悔しいが、中佐の言うとおりだ。
だとしても、こいつに言われたくはない。
この国でクーデターを企てる。それは即ち、露呈した瞬間、物理的に首が飛ぶ重罪だ。
そのリスクを犯す意味が分からない。
「これでも、私は眼には自信があってね。
今日会った部下たちも、全員私が引き抜いた自慢の部下だ。お陰様で癖が強い奴らばかりで、苦労はするが……それでも全員が自信を持って誇れる部下たちだ。
君たちも、今日からその部下の一人だ。」
―歓迎するよ、ようこそ。アルグレイ隊へ
答えを待たない中佐の歓迎の言葉と不敵な笑みに、ルークはただただ呆然とするばかりだった。
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